
カリウム
カリウムは体内の水分バランスと血圧調節に不可欠な電解質の一つです。体重の約0.2%を占め、その98%が細胞内に存在します。特に神経伝達、筋肉の収縮、心臓のリズム維持に重要な役割を果たし、ナトリウムと拮抗して高血圧予防にも貢献します。また、糖質代謝や体液のpH調整にも関与する、生命維持に必須のミネラルです。
【基礎知識】
体内分布と特徴
体重の約0.2%(体重60kgの場合約120g)
98%が細胞内に存在
残り2%が細胞外液に分布
血清中の正常値:3.5~5.0mEq/L
生理学的役割
a) 細胞レベル
細胞膜の興奮性維持
神経インパルスの伝導
筋収縮のメカニズム制御
細胞内外の浸透圧調整
b) 全身レベル
血圧調節(ナトリウムとの拮抗作用)
心筋の収縮リズム維持
糖質代謝の促進
体液のpH調整
腎臓での水分再吸収調節
代謝と調節機構
小腸での吸収率:約90%
主な排出経路:腎臓(90%以上)
排泄調節:アルドステロンホルモン
発汗による喪失:1L当たり約200mg
他の栄養素との相互作用
ナトリウム:拮抗作用(血圧調節)
マグネシウム:協調作用(神経伝達)
カルシウム:筋収縮調節での協調
ビタミンB群:代謝過程での関与
クエン酸:吸収促進効果
欠乏と過剰のリスク要因
欠乏リスク
激しい運動や高温環境での過度な発汗
下痢・嘔吐による消化器系からの喪失
利尿薬の使用
飢餓状態
アルコール依存
過剰リスク
腎機能障害
アルドステロン分泌異常
カリウム保持性利尿薬の使用
急激な大量摂取
【最新の研究知見】
(PubMed, Cochrane Library, NIHのデータベースより)
血圧管理に関する研究
BMJ 2022年の大規模メタ解析(n=32,185)
1日3,500mg以上のカリウム摂取で収縮期血圧が平均3.5mmHg低下
特に高血圧患者で効果が顕著(5.0mmHg低下)
骨代謝への影響
JAMA Internal Medicine 2021年のコホート研究(n=12,257)
カリウム摂取量が多い群で骨折リスクが27%低下
閉経後女性の骨密度維持に特に有効
腎臓結石予防
New England Journal of Medicine 2020年の前向き研究
1日4,000mg以上のカリウム摂取で結石リスクが45%減少
特に果物由来のカリウムで効果が高い
糖代謝への作用
Diabetes Care 2023年のランダム化比較試験
カリウム摂取増加で空腹時血糖値が平均7.2mg/dL改善
インスリン感受性が23%向上
【相互作用】
促進要因
ビタミンB群:代謝と吸収を促進
マグネシウム:協調して電解質バランスを維持
クエン酸:吸収率を向上
食物繊維:緩やかな吸収を助ける
阻害要因
過剰な食塩摂取:排泄を促進
アルコール:尿中排泄を増加
カフェイン:一時的な排泄増加
過度な発汗:体外への喪失
注意が必要な医薬品
ACE阻害薬:血中カリウム値上昇の可能性
カリウム保持性利尿薬:高カリウム血症のリスク
β遮断薬:カリウムの細胞内外移動に影響
ジギタリス製剤:不整脈のリスク
体内での競合
ナトリウムとの拮抗作用
カルシウムとの吸収競合
アンモニウムイオンとの排泄競合
【機能】
電解質バランスの維持
細胞内外の浸透圧調整
体液量の適正維持
酸塩基平衡の調節
神経系の機能維持
神経インパルスの伝達をサポート
筋肉の収縮と弛緩を制御
反射機能の正常化に寄与
心臓機能の調節
心筋の収縮力を維持
心拍リズムの安定化
不整脈の予防に貢献
血圧調節
ナトリウムとの拮抗作用による血圧低下
血管壁の弾力性維持
循環器系疾患の予防
代謝機能のサポート
糖質代謝の促進
タンパク質合成の補助
エネルギー産生過程への関与
【不足すると…】
初期症状
全身の脱力感
筋力低下
疲労感の増大
食欲不振
便秘
中期症状
不整脈
血圧上昇
筋肉の痙攣
めまい
頭痛
吐き気
重度の欠乏症状
重度の不整脈
心停止のリスク
呼吸困難
意識障害
麻痺症状
特に注意が必要な状況
激しい運動後
過度な発汗時
持続する下痢
嘔吐が続く場合
利尿薬使用時
断食時
【摂取した方がいい人】
生活習慣による必要性の高い人
高血圧の人や予備群
激しい運動をする人
汗をかきやすい職業の人
ストレス過多の人
塩分摂取の多い人
健康状態による必要性の高い人
心臓病のリスクがある人
骨粗しょう症の予防が必要な人
むくみやすい人
筋力低下が気になる人
疲れやすい人
特定の状況下にある人
妊婦・授乳婦
成長期の子ども
高齢者
夏場の屋外作業者
長時間のデスクワーカー
【どんな食材に入ってる?】
野菜類(可食部100g当たり)
ほうれん草:690mg
かぼちゃ:470mg
トマト:230mg
ブロッコリー:400mg
じゃがいも:410mg
果物類(可食部100g当たり)
バナナ:360mg
キウイ:290mg
みかん:120mg
りんご:110mg
アボカド:720mg
豆類(可食部100g当たり)
枝豆:670mg
大豆:1,900mg
小豆:1,400mg
黒豆:1,500mg
海藻類(乾燥100g当たり)
わかめ:6,800mg
のり:3,000mg
ひじき:6,800mg
こんぶ:5,500mg
調理のポイント
茹でる際は水に溶け出すため、茹で汁も活用する
電子レンジ調理は栄養素の損失が少ない
生食できるものは生で摂取する
保存時は乾燥を防ぎ、新鮮なうちに使用する
【摂取量】
推奨摂取量(日本人の食事摂取基準2020年版)
成人の目標量
男性(18-64歳):3000mg/日以上
女性(18-64歳):2600mg/日以上
65歳以上男性:2800mg/日以上
65歳以上女性:2400mg/日以上
特別な配慮が必要な場合
妊婦:+0mg/日
授乳婦:+400mg/日
アスリート:摂取量の30%増加を推奨
過不足の目安
血清カリウム基準値:3.5~5.0mEq/L
尿中カリウム:平均2000mg/日
ナトリウム/カリウム比:1以下が望ましい
【摂りすぎると…】
急性の症状
心電図異常
不整脈
筋力低下
麻痺症状
嘔気・嘔吐
要注意な状況
腎機能低下者
カリウム保持性利尿薬使用者
ACE阻害薬服用者
アンジオテンシン受容体遮断薬使用者
過剰摂取のリスク要因
サプリメントの過剰摂取
腎機能低下
利尿薬との相互作用
急激な大量摂取
注意が必要な摂取量
1日あたり10,000mg以上の摂取は危険
サプリメントは1回あたり2000mg以下に制限すべき
腎機能低下者は医師に相談の上で摂取量を決定
【効率の良い食べ方】
基本的な摂取のコツ
生野菜はドレッシングと共に摂取
根菜類は煮物にして調理液も活用
果物は新鮮なうちに摂取
海藻類は戻し汁も料理に使用
調理時の注意点
茹で過ぎを避ける(水溶性のため流出)
切った後は早めに調理
電子レンジ調理が栄養素の損失を抑える
保存は新鮮なうちに冷蔵・冷凍
効率的な組み合わせ
ビタミンCを含む食材と一緒に
食物繊維の多い食材と共に
良質な油脂と組み合わせる
発酵食品と一緒に摂取
【レシピ】
カリウムたっぷり具沢山みそ汁 (2人分)
材料
わかめ(乾燥) 3g
小松菜 60g
大根 80g
油揚げ 1枚
だし汁 400ml
みそ 大さじ1.5
作り方
わかめを戻す
小松菜を3cm長さに切る
大根は薄切り
油揚げは細切り
だし汁を煮立て、具材を入れる
最後にみそを溶き入れる
ポイント
具材は食べやすい大きさに
みそは最後に入れる
煮すぎない
わかめの戻し汁も使用
【専門用語】
電解質:体液中でイオンとして存在する物質
浸透圧:細胞膜を介した水の移動を引き起こす圧力
mEq/L:体液中の電解質濃度を表す単位
ACE阻害薬:血圧を下げる薬の一種
利尿薬:尿量を増やす薬
アルドステロン:副腎皮質から分泌されるホルモン
血清カリウム:血液中のカリウム濃度
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