【ネタバレ注意】怪獣+ご当地映画『怪獣ヤロウ!』を語ロウ!|自分の原点を見つめ直す映画
◇はじめに ゴジラとの思い出
感想を述べるために必要なので、まずは自分の事を紹介したい。映画と直接的な関係はないので、読み飛ばしても問題ない。
○映画を好きになった「館長庵野秀明 特撮博物館」
私は親の影響で幼い頃から野球一筋で、ほとんど映画とは縁がなかった。
ゴジラとの関わりはというと、保育園の頃にゴジハムくんが欲しくてハム太郎と同時上映の『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』を観た朧げな記憶はある。
中学で怪我をして卒業を機に野球を辞めてから、自称進学校に進んだ。新しい環境、「勉強が全て」だという高校生活に馴染めず、今までの野球に代わる自分が夢中になれるものを探していた。
そんな高校1年の冬休み、名古屋市科学館で企画展「館長庵野秀明 特撮博物館」が開かれた。『巨神兵東京に現わる』とお土産に買った初代『ゴジラ』のDVDを観て「自分も特撮映画を作りたい!」と思って怪獣映画や昔の日本映画を観始めた。
○『ゆけ!ゆけ!ゴジラ』東宝チャンピオンまつりのゴジラ、中野昭慶監督
それからゴジラ作品を観ていく中で、特撮の他に映画音楽にも興味を持った。
特に好きなのは黒澤明監督や岡本喜八監督の映画音楽を手がけた佐藤勝さんで、ゴジラ映画では『ゴジラの逆襲』『南海の大決闘』『ゴジラの息子』『ゴジラ対メカゴジラ』の音楽を担当された方である。
伊福部昭さん作曲では『地球防衛軍』『海底軍艦』『サンダ対ガイラ』の音楽が好きだった。
東宝チャンピオンまつりでゴジラ映画が公開されていた1970年代前後のイメージソング集『ゴジラソングブック』というCDを買った。
自分が好きになったのは『ゴジラ対ガイガン』の予告編に使われていた『ゆけ!ゆけ!ゴジラ』というイメージソングだった。
作詞は昭和ゴジラシリーズや東宝娯楽映画の脚本家・関沢新一さん、作曲はゴジラと同じく東宝映画を支えたクレージーキャッツの楽曲を数多く手がけられた萩原哲晶さん。そのなかでも、アニメ版『こち亀』オープニング曲としてカバーされた『だまって俺について来い』や『スーダラ節』などは聴いた事がある人もいると思う。
「見かけはちょっぴり怖いけど本当はみんなと仲良くしたい」「ゴジラはみんなの友達だ」といった歌詞をCDで聴いて、どこか共感して「ゴジラは今の自分と同じかもしれない」「ゴジラと友達になりたい」と思っていた。
だから、いじめられっ子の少年が夢の世界でゴジラやミニラと冒険して成長する『オール怪獣大進撃』、ゴジラが自分より強い自分自身と戦うヒーロー的なストーリーの『ゴジラ対メカゴジラ』など東宝チャンピオンまつりの作品が今でも大好きで、特に『対メカゴジラ』は何度も繰り返し観るほどだ。
当時の特撮を手掛けた中野昭慶特技監督は、自分にとって『怪獣ヤロウ!』における本多英二監督のような憧れの存在である。『対メカゴジラ』DVDのシネマスコープサイズの画面へのこだわりなど語られたオーディオコメンタリーを聴いて、一度でいいからお会いしてみたいという気持ちがあった。
後に大学生になり、横浜市のシネマ・ノヴェチェントで行われた『オール怪獣大進撃』上映イベントに参加した。中野監督や本作のヒロインであり『若大将シリーズ』などに出演された中真千子さんがゲストにいらっしゃった。
中野監督は2022年、中真千子さんは2023年に惜しくも亡くなられた。お二人とお会いできたこの日の事は、自分にとって大事な思い出であり、ずっと忘れる事は無い。
○ゴジラを演じた高校3年生の文化祭
高校3年の文化祭では、『桃太郎』をアレンジした劇をやる事になり、ちょうど『シン・ゴジラ』が大ヒットしていたので「お供にゴジラを入れたい」と提案した。
東急ハンズに売っているようなゴジラのラバーマスクを被り、段ボールで巨大な尻尾を作り、夏服の制服に黒い手袋を着て、自分でゴジラを演じた。
だから『怪獣ヤロウ!』冒頭の中学校時代の文化祭は、シチュエーションは違えど身につまされる思いだった。先生の「お前の怪獣で全部ぶっ壊すんや!」という台詞にも共感した。
あれは八木監督の実体験を元にしたそうだが、自分には高校時代、周りは勉強ばかりで映画の夢を応援する先生も同級生もいなかった。
だからこそ全部ぶっ壊したかった。怪獣が校舎を破壊する映像を作りたかった。卒業する前に作っていれば良かった。
あのマイナスから生まれるマグマのようなエネルギーは、経験した人には分かるだろう。
夏休みには『シン・ゴジラ』を映画館で観て、「大学に合格したら映画を作る!」と受験のモチベーションにしていた。
大学時代は、豊橋で活動する映画サークルに入って自主映画制作や商業映画のスタッフ手伝いやエキストラに参加したり、岐阜市柳ヶ瀬の名画座・ロイヤル劇場によく通って昔の日本映画を観たりしていた。
(↓大学時代に作った映像)
見ての通り、プロに通用するレベルではない。就活では映画の道に進まず、一般的な社会人になって今日に至る。
要するに何が言いたいのかと言えば、主人公・山田の経歴と少し似ているという事だ。
◇「爆笑問題、豊橋、ゴジラ」八木順一朗監督から『怪獣ヤロウ!』を知る
『怪獣ヤロウ!』に興味を持ったきっかけは、YouTubeで「ゴジラを語る」動画を観た事だった。
そこで『怪獣ヤロウ!』の監督・八木順一朗さんが大のゴジラファンとして出演され、過去にどんな作品を作られたのだろうかと経歴を調べた。
そのなかでも、豊橋市と関わりのある『家族の写真』『クソ野郎と美しき世界』に関わっていた事に目を引かれた。
○『家族の写真』(2022年)
『家族の写真』は、東海テレビ新春ドラマとして東海ローカルで放送されたドラマである。本放送時、ちょうどのんほいパーク(豊橋総合動植物園)に遊びに行く道中に観ていて、家に帰ってから録画でもう一度見返していた。
写真館を舞台にした作品だからか全編に渡って綺麗な映像が多く、監督やカメラマンが映像美にこだわりがある方なのかなと思っていた。
豊橋市は、ほの国東三河ロケ応援団・とよはしフィルムコミッションがあり、積極的に映画やドラマのロケ地誘致活動をしている。
『みんなエスパーだよ!』『クソ野郎と美しき世界』などで園子温監督(※現在はハラスメント問題で表舞台から遠ざかっている)や『陸王』『VIVANT』などで福澤克雄監督が特に豊橋ロケを行ってきた。
しかしながら、お色気で街の魅力が伝えられているのか?豊橋で撮影があっても物語の設定上「関東地方のどこか」では実際に来たくなるのだろうか?とモヤモヤしていた部分があった。
その点で『家族の写真』は、「スロータウン」と呼ばれる穏やかな雰囲気を表現しており、何より豊橋を豊橋市としてその魅力をストレートに描いてくれた事が嬉しく、印象に残っていた。
○『クソ野郎と美しき世界』(2018年)〜『実りゆく』(2020年)
『クソ野郎と美しき世界』は、SMAP解散後に新しい地図として活動し始めた稲垣吾郎さん、草彅剛さん、香取慎吾さんがそれぞれ主演した4部構成のオムニバス映画。
公開当時は上映館が少なく2週間限定上映だったが、ロケが行われた豊橋では大々的に取り上げられ、一年遅れのええじゃないかとよはし映画祭2019で観る事ができた。
『EPISODE.01 ピアニストを撃つな!』(主演 稲垣吾郎)は、豊橋駅周辺や豊川稲荷で撮影されており、私も地元の学生スタッフやエキストラとして数日間参加した。
『EPISODE.03 光へ、航る』(主演 草彅剛)は、爆笑問題の太田光さんが監督されており、テレビの破茶滅茶な印象と違った真面目な作風だった記憶がある。調べると、こちらにも八木さんはスタッフとして参加されていた。
パートが違うものの、豊橋でも太田光さんが監督した影響力はあり、偶然エキストラで近くになったのが養成所に通っているお笑い芸人志望の方だった。
その後、八木さんの初監督作品『実りゆく』(2020年)が公開され、私がよく行く岐阜市柳ヶ瀬のCINEXでは舞台挨拶があった。当時の私は観ていなかったが、爆笑問題のマネージャー出身の監督という事が話題になっていたため知っていた。
経歴を調べてみて、その「爆笑問題のマネージャー出身の監督」と「豊橋を舞台に綺麗な映像を撮る『家族の写真』の監督」と「YouTube に出ていたゴジラが大好きな監督」が同一人物だったという事に驚きがあった。
また、自分と同じゴジラファンでもあり豊橋に関わる作品の監督だった事に親近感を覚え、これは面白い映画になると思い、昨年3月頃に関市で行われた撮影にエキストラとして参加した。
エキストラには、地元の方々や県外の愛知、福井、滋賀から来たという方もおり、監督の人望や主演のぐんぴぃさんの人気を感じられた。
◇関市ふるさと夏まつり
7月には、関市ふるさと夏まつりで「怪獣ヤロウ!で盛り上ガロウ」というトークイベントが行われた。
ボランティアの高校生たちが「怪獣ヤロウ!の八木順一朗監督、バキバキ童貞こと春とヒコーキのぐんぴぃさん、相方の土岡くんのトークショーがありま〜す!」「YouTube で大人気のバキ童が来ま〜す!」など、お祭りに来たお客さんに何度も呼びかけており、果たして教育に良いのだろうかと心配になった。
トークイベントでは、市内のロケ地やコラボ商品の紹介、この日公開されたポスタービジュアルとホームページの誤植について話されていた。
この日は関市のお祭りという事で、怪獣映画というより関市の魅力について取り上げられたイベントだった。私はそれまで刃物の町という事すら知らなかったので、刃物や鰻、抹茶が名産だとこのイベントを通じて知る事ができた。
八木監督がさりげなくGODZILLAのキャップを被っていたが、トークでは特に触れられなかった。
◇清流の国ぎふ映画祭2024
○シネックスマーゴ『怪獣ヤロウ!』先行上映
昨年10月、関市のシネックスマーゴで『怪獣ヤロウ!』先行上映が行われた。
倍率が例年に無く高かったようで、東京から来たというお客さんもいた。この日はお笑い芸人のファンが多い印象を受けた。
上映前に、映画観賞中の注意事項を呼びかける映像が流れたが、シネックスマーゴだけのオリジナルのもので、これも八木監督が手掛けたそうだ。
9月の刃物まつりから突然、八木監督はカウボーイ姿になり、「爆笑問題のマネージャー出身の監督」と「豊橋を舞台に綺麗な映像を撮る『家族の写真』の監督」と「YouTube に出ていたゴジラが大好きな監督」、さらに「アメリカに渡ってカウボーイになりたい監督」と情報量が加わった。監督のキャラクターが益々分からなくなった。
司会をされていたのは、数年前にCINEX『実りゆく』舞台挨拶上映を主催した岐阜新聞映画部の後藤さんだったが、その変わりように困惑していた。
○ロイヤル劇場『ゴジラVSデストロイア』
ロイヤル劇場は、昔ながらの35mmフィルム上映を専門に行っている今では貴重な映画館(名画座)である。
ここで『ゴジラVSデストロイア』を観るのは、2018年以来2度目だった。
前日と打って変わって、怪獣ヤロウ!の名前に相応しく、濃い怪獣映画ファンが集うイベントとなった。今回初めてゴジラ映画を観たというお子さんや、リアルタイムでロイヤル劇場のスクリーンで『VSデストロイア』を観た方もいらっしゃった。
近年、作品知識はインターネットの集合知によっていくらでも得られるが、各々の作品との思い出や思い入れはその人によって違い、何者にも代え難いものである。
八木監督が映画監督を志した『VSデストロイア』、ぐんぴぃさんが初めて観た『VSスペースゴジラ』、お客さんのゴジラ映画への思いを共有出来た良い機会であり、「いやぁ、怪獣映画って本当にいいものですねえ」と水野晴郎さんの名文句のような暖かい雰囲気を感じられた。
ロイヤル劇場のあるロイヤルビル2階には、喫茶店「コメディアン」がある。
メ~テレ『ウドちゃんの旅してゴメン』でウド鈴木さんが一昨年訪れており、昔に萩本欽一さんもロイヤル劇場へ舞台挨拶に来られた際に店名が気になって立ち寄ったそう。
この日のイベントの打ち合わせで、八木監督やぐんぴぃさんも食事したと話されていた。お笑い芸人と縁のある「コメディアン」にあやかって、お二人の芸能界での活躍と『怪獣ヤロウ!』のさらなる大ヒットを祈りたい。
◇『怪獣ヤロウ!』の感想
○主演・ぐんぴぃさんのキャラクターについて
主演のぐんぴぃさんは、春とヒコーキというコンビを組んでいるお笑い芸人で、俳優業もされている。大学時代は落語サークルに所属していた。詳しい経歴やエピソードはYouTubeチャンネルを参照してほしい。
怪獣映画や昔の日本映画ファンとしては、フランキー堺を連想する。元々はジャズドラマーとして民謡をジャズにアレンジした冗談音楽を演奏して人気を博し、俳優業に進出して主に喜劇映画に出演した。主演作として怪獣映画では初代『モスラ』、『幕末太陽傳』や『私は貝になりたい』もよく知られている。また、映画『羽織の大将』で桂文楽師匠に憧れて落語家に弟子入りする大学生を演じるにあたって、実際に文楽師匠に入門したというエピソードがある。
本業はお笑い芸人ではある事はもちろん承知しているが、将来的にぐんぴぃさんが居残り佐平次を演じる『幕末太陽傳』も観てみたい。余談ではあるが、三谷幸喜監督は太田光さんを主演に映画を撮るなら『幕末太陽傳』の川島雄三監督を演じてほしいとテレビ番組で話していた。
以前に『続あゝ軍艦旗 女護ヶ島奮戦記』という映画を紹介した。簡単に言うと、幻の島に漂流した新兵が女酋長の夫(召使い)にされてしまい、島から脱出しようと奮闘する話で破茶滅茶な喜劇映画である。
「女護ヶ島」の本来の意味は、女性だけが暮らしているという伝説がある幻の島らしい。ぐんぴぃさんの「バキ童」というキャラクターにも合う。ぐんぴぃさん演じる主人公が女護ヶ島に漂流する物語、これをリブートしても面白いと思う。
○「マイナスから生まれるエネルギー」物語について
前述のように、元々自分も八木監督や映画の主人公と同じく『巨神兵東京に現わる』と初代『ゴジラ』を観て「自分も特撮映画を作りたい!」と思って映画が好きになり、学生時代に映像制作をしていた。だから、社会人になっても一度は挫けた怪獣映画の夢を諦めず真っ直ぐな主人公はとても眩しかった。
ぐんぴぃさんを主演に起用したのは応援したくなる可愛らしいキャラクターだからだと監督は語られていたが、実際に「応援したくなる」という感想が見られるのでその通りだと思う。
しかし、自分はその明るさの裏にある周りへの不満、理不尽に対する「気に入らないもの全部ぶっ壊しちまえ!」というマイナスから生まれるエネルギーを感じてしまう。だから応援したいというより、主人公に感情移入してみていた。
ある場面を見ると、主人公は八木監督の分身であり、主演のぐんぴぃさんの分身でもあると分かる。
物語のクライマックス、市長のプレゼン中に山田たちの怪獣映画が突如流れるというシーン。お客さんたちが笑ってるが、撮影中に半裸のぐんぴぃさんが突然画面に映ったのでみんな笑っていた。演技でなく素の反応である。(子供の「頑張れ〜」などは演技)
○「これでええんやっけ…」対比される映像について
『家族の写真』で印象に残っていた映像美は、市長の提示した”理想的なご当地映画”の描写に見られた。関市の路面電車や山河に囲まれた自然が映し出される。
特に印象に残ったのは、市長が編集データを観に来る場面。市長が脚本を自画自賛した後、複雑そうな主人公のアップで背景の窓越しに雨が降っている。(市長が部屋に入る時は降っていなかったと思う)
これは、劇中で繰り返される「これでええんやっけ…」という主人公の不安な心理描写としての雨だと解釈した。他にも序盤は大雨や雷が多い。
そのあと、市長から指示されたご当地映画の理想的なキラキラした映像と、現実の曇りがかったシャッター街を対比して映していくのも良かった。撮影期間中に天気の悪い日が多かったそうだが、それが却って物語前半の演出として良かったのではないかと思った。
○特撮シーンについて
監督が『ゴジラ』ファンなだけあって、伊福部昭の映画音楽(メーサーマーチ?)に似た音楽、中野昭慶監督のような迫力ある爆発もある。「これぞ特撮」をやってくれた。
主人公の憧れの人物、本多英二監督は『ゴジラ』シリーズの本多猪四郎監督+円谷英二特技監督の名前から取られたと特撮ファンなら分かる。
さらに、監督を投影した人物が主人公だとしたら、その憧れの人物とは『ゴジラVSデストロイア』の川北紘一特技監督ではないかと思う。
X(旧Twitter)に投稿された小道具も川北監督が関わったタイトルのパロディであるとわかる。
「ゴジラ死す」というキャッチコピーが話題になった『ゴジラVSデストロイア』を観て映画監督を志し、川北監督が亡くなられた2014年から10年後、2024年に『怪獣ヤロウ!』が完成、何か運命的なものを感じる。
新年早々に、愛知県では午前十時の映画祭(ミッドランドスクエアシネマ他)で『妖星ゴラス』『海底軍艦』、ゴジラ・シアター(TOHOシネマズ赤池)で『ゴジラ対メカゴジラ』『メカゴジラの逆襲』『ゴジラVSメカゴジラ』と、映画館のスクリーンで特撮映画が観られるチャンスがある。
『怪獣ヤロウ!』から怪獣映画に興味を持った方は、この機会にこれらの映画も見てみると良いと思う。ぜひアナログ特撮の魅力を知ってほしい。
◇最後に
大学生時代の私にとって思い出深い豊橋やロイヤル劇場に来てくださって、本当に嬉しかった。
映画を観て、私自身も映画制作をまたやってみたいという気持ちが湧いてきた。
今後、もし可能ならば八木監督の過去作『家族の写真』の舞台となった豊橋でも舞台挨拶などイベントを実施していただけるとありがたい。