憧れの日活映画撮影所見学会|ある映画館の記録
この記事では、千葉県柏市の映画館が1959年に行った日活映画撮影所見学会の調査について語ります。
※一映画ファンの調査です。これを読んでご自身で調べられるのは自由ですが、当記事を根拠とした不確かな情報拡散はご遠慮ください。
◇”日活映画撮影所見学会” 古写真
ある時、ネットオークションで見つけた出品物。
商品名は、”二谷英明 日活映画撮影所見学会” 記念撮影「天と地を駈ける男」”(落札時のメールが残っていました)
出品者は、戦時中の勲章や骨董品を中心に出品されていましたが、その中に紛れて日活俳優の古写真とある物がちらほらありました。
自分は二谷英明の他、いくつかの写真を落札したのですが、「可能であれば、他の写真もまとめて落札して(引き取って)ほしい」いう旨の連絡がありました。
だいぶ前に紹介したように、自分の親戚で東映京都撮影所の見学会に参加した大伯父さんがいます。
そのような資料が残っているのであれば、こちらも有難いということでまとめて落札しました。
◇千葉県に存在した柏館
実際に届いたのは、台紙に貼られた古写真、と大量の葉書。
自分の親戚が映画会社は違えど撮影所見学会に参加した事を伝えた上で、もし分かればこれはどのようなものか教えてほしいとメッセージを送りました。(本来は落札前に質問するべきでしたが…)
その後、出品者の方からこんな返信がありました。
劇場に貼られていた台紙。
例えば、学校で旅行に行った後、教室の後ろや廊下などに写真掲示・販売があったのと同じ形式でしょう。
○柏館の歴史
柏市、冨士館、柏館など、色々Googleブックスで検索すると、『近郊都市 ある地方都市の戦後社会史』(鈴木均・著)という書籍が出てきたので、古本で買ってきました。
内容は柏市を題材にした都市化について語られた、分野としては地域経済学と言える本かもしれません。この中に、柏市の映画事情をまとめた頁がありました。
この文章から、T氏は柏市に存在した柏館、富士館という二つの劇場の経営や設立に携わって柏市の映画文化を支えていた人物だったと見て取れます。
また、富士館は洋画、柏館は邦画の二本立てという違いがあったようです。
前回紹介した『消えた映画館の記憶』様にも柏館、富士館について記載されています。
○経営者・戸辺秋次郎氏について
ここまで見ていくと、いわゆる東映友の会のような映画会社主導の組織ではなく、劇場主導の撮影所見学会だったと考えられます。以下は実際の葉書ですが、劇場が顧客(お得意様?)の中から抽選で招待状を送ったということでしょうか。
先ほど登場したT氏は、おそらく葉書の送り主であり柏館の経営者であった・戸辺秋次郎氏と考えられます。出品者の方が戸辺氏の親類だとすれば、断捨離の際にこれら大量の資料の扱いに困って出品されたのか、と考えています。あくまで推測に過ぎませんが。
ツーショット写真で写っている方がそうでしょうか。
作品から考えると、日活映画撮影所見学会は1959年10月12日となります。
出発前の写真、カメラを意識していない感じです。あと意外と女性が多い印象です。当時のファン層ってヤンチャめの若い男性のイメージがあったので。
いざ、出発!
◇撮影所は夢の工場 ~俳優編~
まずは日活俳優との記念写真から。
台紙が大きく、家のプリンターではスキャンできないので多くはカメラの直撮りです。ご了承ください。
○二谷英明
自分の大好きなダンディ俳優のひとり・二谷英明さん。後の作品ですが、ダンプガイとして売り出した『生きていた野良犬』や『ろくでなし野郎』、『散弾銃の男』が好きです。
今回の『天と地を駈ける男』では、石原裕次郎さん、北原三枝さんとの共演。11月1日に公開されました。
○清水まゆみ
清水まゆみさんといえば、和田浩治さんとの共演の多いヒロインのイメージ。「日頃映画でしか見ない」というのは、この頃は雑誌などにあまり露出がなかったんですかね。それはないと思いますが。
○高品格
日活映画の悪役といえば…高品格さん。この映画では、珍しく悪役ではありません。「ボクこういう役やるの初めてなんですよ」ある意味では珍しい一枚です。
○小高雄二
彼も日活映画のダンディな俳優のひとり・小高雄二さん。自分は、二谷英明さんと共演した『散弾銃の男』でファンになりました。
10月21日に公開される『硫黄島』の打ち合わせに来ていたようです。
○沢本忠雄
笑顔が素敵な沢本忠雄さん。この頃は、小林旭さんと川地民夫さんとの日活三悪で売り出していた時期ですね。惜しくも今年6月に亡くなられた事が記憶に新しいです。
○弘松三郎
弘松三郎さんも日活悪役でお馴染み。他の写真と違って少人数で写っています。偶然通りかかったところで記念写真を撮ったのでしょうか?
自分の大伯父も京都撮影所の記念撮影に伏見扇太郎と写ったと前回紹介しましたが、手元に写真は残っていません。そういう意味でも写真がこれだけ残っているのは貴重だと思います。
日活スタアとの写真。今考えると、いや当時としても羨ましい限りです。
◇撮影所は夢の工場 ~映画の裏側編~
次は映画の裏側、オープンセットの見学です。こういう現場を見るのは初めてです。
これらのオープンセットから、注目したのがこの写真。個人的に一番驚いた写真です。
どこかで見たことあるな…と思いました。こういう街並みは日活映画には多いですが、皆さんどこなのか、おわかりいただけたでしょうか?
これ、映像で確認したらあの小林旭さんの代表作『ギターを持った渡り鳥』のオープンセットでした!
市販のDVDで数えると、32:00頃から小林旭さんと浅丘ルリ子さんがこのセットの間を歩いている場面が映ります。
さらに驚く事が、先ほど撮影所見学会は1959年10月12日と言いましたが、『ギターを持った渡り鳥』の公開は1959年10月11日です。
なんと、前日。まさか封切り当日に実際の映画を見ていて、この時「あの映画のセットか!」と驚いたのでしょうか。あるいは、見学の後に映画を見てこの時歩いたオープンセットが映って驚いたのか、想像するととても面白いです。
他にも「これは、この映画のオープンセットだ」とわかった方、ぜひ教えてください。
◇価値を見い出すのはその人次第
学生の頃、色んな古本屋を回っていました。ある時、いつもは降りない駅の周りをぶらつき、小さな老舗の古本屋に立ち寄った時の話です。
店主のお爺さんに「野球か映画の古本を探しています」と伝えると、若い客が来て喜ばれたのか、何冊かを棚から取り出して内容を紹介してくださりました。自分はその中で一冊の野球雑誌を手に取りました。
この時、店主さんが語られました。「その人にとって宝になるのか、ゴミになるのか、それが骨董ってもんだよ、君の買ったその本は君にとっての宝物だ」と。その店に立ち寄ったのは一度きりでしたが、この言葉は今も心に残っています。
今回の発見も、もし誰も購入しなければ断捨離で捨てられていた資料かもしれません。巡り会えた事を幸運に思います。