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日活映画ファン視点から語る『大巨獣ガッパ』|シネ・ヌーヴォ「日活大特撮まつり」
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自分は日活映画ファンであり、特撮も好きなので大阪シネ・ヌーヴォまで遠征してきた。
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トークゲストに町田政則さんが来られ、『大巨獣ガッパ』のオープニングクレジットに”町田政則”が映った時は大きな拍手が起こった。自分が今まで参加した名古屋や横浜のイベントでは経験が無かったので、とても驚いた。
特撮系のイベントとあって、日活映画ファンというより特撮ファンが多かった印象を受けた。『大巨獣ガッパ』は怪獣ブームのなかで作られた作品の一つとして語られる事が多いため、日活映画ファン視点からガッパを語ってみたい。
自分は初代『ゴジラ』を観て東宝映画、旧作日本映画を観るようになったので、同じように『大巨獣ガッパ』から日活映画に興味を持つ方がいる事を期待したい。
◇『大巨獣ガッパ』が作られた時代 1967年の日活映画
個人的に1967年の日活映画は『大巨獣ガッパ』を含めて面白い作品が多いと思っている。
1967年はすでに映画業界は不況にあり、翌年から日活は東映に追随して任侠映画路線へ転換する。「ろうそくは消える前が一番明るい」状態だった。
①ハードボイルド・アクション
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日活の得意ジャンルのひとつに現代アクションがあった。
1967年は宍戸錠主演で『拳銃は俺のパスポート』、『みな殺しの拳銃』、『殺しの烙印』ハードボイルド三部作と呼ばれる作品が作られた。
②グループ・サウンズ(日活ヤングアンドフレッシュ)
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もう一つ、日活の得意としたのが青春映画だった。
当時の若者の間では、グループ・サウンズが流行。日活には以前からヤングアンドフレッシュというグループがあり、彼らを主演とした青春映画がいくつか作られた。『ガッパ』関連でいえば、和田浩治さんがドラマーで参加している。
なかでもおすすめは和製『ローマの休日』ともいえる『東京ナイト』。
③特別編
浜田光夫の復帰作『君は恋人』ではこれまでにない日活オールスターが実現した。
その一方で、日活スターが一つの作品に集中した余波か、1961年に夭逝した赤木圭一郎の未完成フィルムを使った『赤木圭一郎は生きている 激流に生きる男』や珍しく悪役俳優陣が主役となった『七人の野獣 血の宣言』も作られた。
④怪獣映画
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テレビや映画の怪獣ブームに乗って日活でも怪獣映画が作られた。言うまでもなく、これが『大巨獣ガッパ』だ。
同じ号に記載のあった先述の『拳銃は俺のパスポート』、『二人の銀座』はモノクロ作品に対して、こちらはカラーで次号に渡って紹介されている事から扱いが大きかった事が伺える。
◇『大巨獣ガッパ』の日活スターと監督
「日活アクション王国」と称された1960年代前半頃は、ダイヤモンドライン(石原裕次郎、小林旭、赤木圭一郎、和田浩治)が活躍した同時期、川地民夫と小高雄二は併映作あるいはローテーションの谷間で主演を務めていた。
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1960年10月公開予定作品には、和田浩治主演の『英雄候補生』、小高雄二主演の『ある恋の物語』、川地民夫主演の『すべてが狂ってる』が並んでいる。
日活は他の映画会社に比べて主演級のスターが少なく、スター同士の共演作が意外と少ない。(有名な例でいえば、石原裕次郎と小林旭がわかりやすい。それぞれ日活を代表するスターだが共演作は2本)
『ガッパ』では川地民夫、小高雄二、和田浩治が揃って出演し、監督を野口晴康が務めた事が日活アクションファンにとって嬉しい。
○川地民夫(新聞記者 黒崎浩 役)
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石原裕次郎の弟分として『陽のあたる坂道』でデビュー。小林旭、沢本忠雄とともに「日活3悪」として売り出され、裕次郎に次ぐスター候補として期待される。
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日活ダイヤモンドラインの結成した1960年、松竹ヌーヴェルヴァーグの動きがあった。日活では、裕次郎の”太陽族映画”の延長にある”ハイティーン映画”が作られ、『狂熱の季節』や『すべてが狂っている』、『太陽は狂ってる』、『ハイティーンやくざ』などの主演を務めた。
その後、鈴木清順監督作品で『野獣の青春』の”スダレの秀”や『東京流れ者』の”マムシの辰”のような印象的な悪役も演じた。
特撮ファンの方は『ウルトラマンティガ』の長官のイメージで『ガッパ』を観られるかもしれないが、日活時代は不良性がある役者だった。そのため『ガッパ』でも東宝特撮のスターに比べて軟派な演技の印象を受ける。
○山本陽子(カメラマン 小柳糸子 役)
『抜き射ちの竜 拳銃の歌』など、日活時代は高橋英樹と多く共演した。
1967年に出演した『みな殺しの拳銃』のヒロインが印象に残っている。
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今回のイベントも追悼特集の意味があったのかもしれない。偶然にも同じ週に、岐阜のロイヤル劇場では山本陽子追悼特集として『怒れ毒蛇 目撃者を消せ』が上映されていたので、これも観に行ってきた。
○小高雄二(生物学者 殿岡大造 役)
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特撮ファンからは小高恵美の叔父として知られているかもしれない。
ダンディなイメージで、二谷英明の暗黒街・ギャング物のアクションで多く共演し、主演作も務めている。ちなみに自分が始めて小高雄二を認めたのは、鈴木清順監督の和製西部劇『散弾銃の男』で演じた主人公のバディ”ジープの政”だった。
また、青春映画では主人公の兄貴分でもよく出演しており、『ガッパ』でも川地民夫、山本陽子との三角関係と見せかけて一歩引いて見守る兄貴分の役柄であった。
○和田浩治(殿岡の助手 町田 役)
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ミュージカル映画を通じて日活と縁があった和田肇の次男で裕次郎と瓜二つの容姿である事から、16歳ながら主演に抜擢されて1959年デビュー。
1960~1961年にかけて日活ダイヤモンドラインの一人として『小僧』シリーズ、『俺の故郷は大西部』、『有難や節 あゝ有難や有難や』といったアクションコメディを中心に主演作が作られた。
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その後は助演に回る事が多くなるが、1963年には『灼熱の椅子』で主演を務め、香港・シンガポールロケ作品『空の下遠い夢』ではヤングアンドフレッシュとしての音楽活動も注目される。
ガッパが制作された1967年には、GSブームのなかで作られたヤングアンドフレッシュ主演の映画で活躍していた。
その容姿が先行して語られがちだが、彼も日活を支えたスターの一人だった。
○藤竜也(通訳 ジョージ・井上 役)
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現在も現役の俳優として活躍中。『ガッパ』では通訳を演じていたが、画面端に映る事が多く出番も少ないため、まだ下積みの印象を受ける。
『ガッパ』に出演した翌1968年、日活の看板女優・芦川いづみと結婚した事も話題に。
○町田政則(オベリスク島の少年 サキ 役)
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今回の「日活大特撮まつり」トークゲストの町田政則さんは、オベリスク島の少年サキを演じた。
町田政則さんの出演作では、千葉真一さん主演のアクションドラマ『ザ・ゴリラ7』(1975年)の第9話「必殺!青きドラゴン」が印象に残る。
不良少年たちを騙して強盗をさせている道場に志穂美悦子さん演じるヒロインが潜入捜査し、その中の一人と協力して少年たちを改心させて事件を解決する、という話だ。
道場の少年達は『大巨獣ガッパ』の町田政則、『大忍術映画ワタリ』の伊藤敏孝、ジャパンアクションクラブのメンバーがノンクレジットで出演(大葉健二の姿も)している。
町田さんは道場の真相を知って脱走した少年マサルを演じていた。マサルは捕まって連れ戻されたのち、勝利すれば脱走を不問とするという条件で皆の前で決闘が行われる。
そこで決闘相手として戦い、この話のキーパーソンでもある家出少年ケンイチを演じたのが当時中学生の下沢宏之(真田広之)だった。二人は劇団ひまわり出身という共通点があるが、交流はあったのだろうか。
○野口晴康(博志)監督
1960年代前半「日活アクション王国」を支えた監督で、その頃の代表作に赤木圭一郎主演の『拳銃無頼帖』シリーズがある。
1959年公開『街が眠る時』では、『渡り鳥』や『拳銃無頼帖』に先駆けてニヒルかつ残酷な殺し屋役として宍戸錠を、冒頭で殺される新聞記者役には後の『拳銃無頼帖』の主演・赤木圭一郎を起用した。
赤木圭一郎や宍戸錠をスターに成長させた監督が『ガッパ』を作っている、その意外さもポイントの一つだ。
◇ガッパを観たらこの日活映画も観よう
○妖しげな南国の孤島を脱出せよ『続あゝ軍艦旗 女護が島奮戦記』
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今回のイベントで上映された『フランキーの宇宙人』のフランキー堺の主演で作られた『あゝ軍艦旗』シリーズ。フランキーと”ブーちゃん”こと市村俊幸、小沢昭一の掛け合いが面白い。
以前にも紹介した第2作『続あゝ軍艦旗 女護が島奮戦記』は『ガッパ』と同じ南国の孤島が舞台で、飛行機の特撮シーンも多い。なぜか唐突に謎ゴリラも登場する。
現時点ではVHSで視聴可能。今後の配信サービス追加に期待したい。
○怪獣映画と日活アクションの橋渡しに『喜劇 東京の田舎っぺ』
『ガッパ』と同じ1967年公開。主演の東京ぼん太が松原智恵子を励ますシーンがあり、石原裕次郎(※裕次郎本人が吹替、「二人の世界」を歌う)やポパイ、そしてガッパのモノマネ?を披露する。「僕は幸せだなあ、僕は君といる時が一番幸せなんだ。僕ぁ君を離さないぞ」…セリフは加山雄三が元ネタか。
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ガッパが表紙でお馴染み、雑誌プレイメイトも小道具で登場する。この映画を観ていたため、今回のイベント参加の目的はプレイメイトを物販で買う事でもあった。
ラストには、『あいつ』シリーズで共演した小林旭が特別出演。「僕と一緒じゃないときは気をつけなきゃいけないぜ。『あいつ』シリーズじゃないんだからな。いいな」と声を掛ける。本作を通じて怪獣映画『大巨獣ガッパ』と日活アクション『あいつ』シリーズの世界が交錯しているのであった。