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岡田武史×工藤勇一が目指す学校とは?

元サッカー日本代表監督の岡田武史さんは、2020年に学校法人今治明徳学園の学園経営に参画し、23年より学園長に就任。24年4月からは、今治明徳高等学校矢田分校を改称する形で始まったFC 今治高等学校里山校(以下、FCI)の第一期生34人とともに、初の教育現場で奮闘しています。
岡田さん自らの指名で「エグゼクティブコーチ」(FCI では教員のことを「コーチ」と呼ぶ)として招へいされたのが、元千代田区立麹町中学校、元横浜創英中学・高等学校長で、教育界の旗手として知られる工藤勇一さん。お二人にFCIの取り組みについて、またこれからの教育について語り合っていただきました。(前編) 
→後編はこちら

生徒も教員も一緒に成長

工藤 FCIでは二期生の募集が始まりました(24年11月取材時)。今回は既にたくさんの応募があるようですね。

岡田 23年の一期生募集のときとは状況が全然違いますね。24年はオープンスクール、サマーキャンプ、オータムキャンプとやってみて、集まった中学生や保護者の方から「一期生の姿を見て、しっかりしているのに驚いた」というコメントをたくさんいただいたんです。

工藤 僕も8月に第2回のオープンスクールに参加して、生徒たちがたくましくなったと感じました。

岡田 実は7月の第1回は、一期生から希望があったので企画運営をやらせたんです。ところが、当日近くなっても全然連絡が来ない。心配になって「おい、大丈夫か?」と聞いたら、「余計な口出しはしないでください」と(笑) 。
実際に会場に行ってみたら、中学生とその保護者で満杯の会場の舞台の上で、彼らが「FCIはこういう学校で、こんなふうに授業を受けています」というのを堂々と説明していた。その後の各教室での1オン1の面談についてもちゃんと考えていて。当の生徒たちにしてみれば全然予定通りではなかったらしく、「エラー&ラーンの連続ですよ!」なんて言っていましたが、僕はその成長ぶりを見て本当にびっくりしたんです。
この子たちは工藤先生が言うところの「育つ力」を持っている!と感じました。

工藤 そうでしたか。僕は6月にエグゼクティブコーチに就任したので、生徒一人一人の変容ぶりは分からないんですよ。でも、岡田さんから話を聞いて、これはすごいなと思いました。岡田さんは生徒全員のことが分かる。僕は最近子どもたちと濃密な付き合いをしていないので、ちょっとうらやましいと思っています。

ゲスト講師による「ヒストリックキャプテンシップ養成講座」のひとコマ。岡田さん自らも環境教育をテーマに、地 球と人類の歴史について語った

主体性と当事者性を育む

岡田 いやいや、教育にハマるってこういうことなんだと分かりました!(笑)。最初の1カ月くらいはトラブルだらけでしたよ。図らずも34人
しか集まらなかったからなんとか対応できたけれど、もし定員80人全員が入学していたらどうなっていたか。でも、1カ月、2カ月とたつにつれ、お互いに落ち着きどころを見つけてくるんですね。「こうせえ!」と言いそうになったことは何度もあるけれど、僕らは3つのこと、つまり「命に関わること」「法律に違反すること」「人の成長を妨げること」以外は口を出さないでおこうと決めているから、なんとか我慢して。

工藤 いや、本当にその3つ以外はどうでもいいと僕も思っています。3つに該当しないこと、例えば服装や頭髪なんて本質には関係ない。それを注意しなくなれば、教師と子どもの間の会話が雑談とか楽しいものになります。それにしても、コーチたちは本当によく成長しましたね。腹が据わってきたというか。

岡田 僕も辻(正太)校長もコーチたちも、生徒と一緒になって成長させてもらっている感じです。そういえば、工藤先生には開校の2カ月くらい前に、今治明徳学園全体の教員や職員を対象にしたセミナーをやっていただいたんですよね。

工藤 そうでしたね。その時にお話ししたのは教育の本質的なこと。一番大事にしなきゃいけないのは子どもの自律。主体性と当事者性が身に付くこと。それを無視してペーパーの力だけ付けてもどうにもならないよ、という話をしました。
僕らは科学技術の進歩と人口の急激な減少によって激変する社会の中で生き抜いていける、自分の頭で考えられる子どもを育てなければいけない。今までの日本の教育は従順な子どもを育てるためのものだったんです。
学校の先生が大好きな「自主的な子ども」って、親や先生の言うことを従順に聞く、忖度する子のこと。そういう教育を受けている子は、自分で考えられるようになるまでに、リハビリが必要なんです。

後編へ続く

岡田武史さん(おかだ・たけし)
1956年、大阪府生まれ。大阪府天王寺高等学校サッカー部、早稲田大学ア式蹴球部、古河電気工業サッカー部。80~85年サッカー日本代表。97~98年、2007~10年サッカー日本代表監督を務める。現在は、学校法人今治明徳学園 FC今治高等学校 里山校学園長。株式会社今治.夢スポーツ代表取締役会長。FC今治のクラブ経営、地方創生や教育事業などさまざまな分野に取り組む。愛称は「岡ちゃん」。

工藤勇一さん(くどう・ゆういち)
1960年、山形県生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒業。公立中学校教諭、新宿区教育委員会指導課長などを経て、2014年から千代田区立麹町中学校校長、20~24年横浜創英中学・高等学校校長。現在は、内閣府規制改革推進会議専門委員、法政大学HOSEI2030推進本部アドバイザーなど。24年6月からFC今治高等学校里山校 エグゼクティブコーチ。著書に『学校の「当たり前」をやめた。』など多数。

写真提供:FC今治高等学校里山校

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