何にもないから何でもできる!南相馬市のゼロスタートのまちづくり
原発事故の避難指示区域だったからこそ実現した、手ごたえのある暮らしとワクワクする未来がここにありました。
福島県南相馬市の小高(おだか)区に、ゼロから町をつくろうと集まる仲間がいます。スタートから10年になる今年、どんな芽が育っているのでしょうか。プロジェクトの発起人である小高ワーカーズベースの代表取締役・和田智行さんに話を聞きました。
僕はこの小高で生まれ育ち、震災当時もここで生活していました。原発事故が起きて、6年間、避難生活を家族と送っていたんですが、起業した会社は東京でしたし、そもそもリモートワークをしていたので、どこに避難しても仕事を続けることはできたんです。
でも、いくらお金を稼いでも、結局自分の人生の先行き不透明感、いつ家に帰れるのか、帰ったところで生活できるのか、そういった不安の払拭につながらなかった。
その後、会社を辞めて小高に帰ろうと決めました。帰って何しようかと考えていたときに、店もないし仕事もないし、コミュニティーもない、そんな地域で暮らせないよってみんな言ってたわけです。でも、それらの課題は裏を返せば全部ビジネスの種になり得るんじゃないか。一つの事業を大きくするビジネスは難しいかもしれないけど、利益が少なくても地域課題を解決するビジネスをたくさんつくることだったら、十分やっていけると思ったんです。
むしろ一旦ゼロになったからこそ、自分が住みたい町をゼロからつくることができると気付いたときに、めちゃくちゃ面白いなって。こんなチャンスは日本において二度とない。それで2014年に小高ワーカーズベースを始めました。
ゼロから町をつくる面白さ
僕らだけで目標としている1 00の事業をつくるのは大変なので、この地域で起業する人のサポートもしています。起業する皆さんは移住者であり、縁もゆかりもない場所でどんな事業の種があるのか分からない。だから地域の資源とか課題解決につながるような事業プランは、ある程度僕らで作っておきます。
例えば地元のお酒を造ってそれを飲めるパブを併設したコミュニティーブルワリーをつくってください、みたいな。
そうすると、「こういうことがやりたかったんです!」という人が集まってくる。「ハッコウバ」がまさにそれです。
僕らは最初クラフトビールをイメージしてたんですけど、応募してきた佐藤太亮さんが、クラフト酒という新しいジャンルをやりたいというので始まりました。「ホースバリュー」は、この地域で「相馬野馬追(そうまのまおい)」という伝統行事があって馬を飼ってる家がたくさんあるんですけど、その馬を活用したビジネスができないかということでスタートしました。南相馬市出身の安藤文也さんという手縫いの靴職人は、東北に手縫い靴産業がないといって、自身で事業計画を持ち込んでくれました。
新陳代謝を繰り返す町へ
僕らは100の事業をつくって何がしたいかというと、地域を自立した社会にしたいんです。1000人を雇用する一つの会社に依存するんじゃなくて、10人を雇用する事業者が100ある状況をつくりたい。子供たちにとっても、周りの大人たちが会社をつくったとか、お店を運営してるとか、なりわいを持ってるとか、いろいろな人が当たり前にいる環境があることで、将来起業することがキャリアの選択肢に入ると思います。
地域の課題や資源を活かした事業を立ち上げようという若者が増えれば、どんな社会の変化があってもそれに対応した新しい事業を彼らがどんどん生むはず。社会はものすごいスピードで変化していくので、一つの事業とか一つの産業が未来永劫、地域を支え続けるなんてことは、もはや非現実的。いつか突然予期せぬタイミングで事業が成り立たなくなることは起こり得るので、そういうものだと考えて、新陳代謝が繰り返される状態をつくりたいです。
今は地方の町が金太郎飴みたいに同じ風景になっています。国道沿いにショッピングモールがあって、家電量販店があってみたいな。それだと、“都会の劣化版”にしかならない。この地域でも若者はドラッグストアがほしいと言うんですけど、劣化版仙台をつくりたいのかって(笑)。いずれ行き詰まることが見えている方向に走っていっても、被災した甲斐がないんで。経済的な効率性とか合理性とかじゃなくて、クリエイティブな人たちが暮らしたいって思える、心地よい暮らしを構成するコンテンツが集まるような地域にしたいと思っています。
写真=鈴木宇宙