変わることを受け入れる〜映画『PERFECT DAYS』感想〜
映画『PERFECT DAYS』を観ました。
第96回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートした作品で、
役所広司さんが主演を務めています。
Amazonプライムで観れます。
※ここからネタバレを含みます。
本作は、東京でトイレ清掃員として働く「平山」の日常を切り取ったものだ。
平山は二階建ての古くて狭いアパートに一人で暮らしている。
毎日、近所の竹箒の音で目を覚まし、歯を磨き、部屋で育てている植物に水をやり、車で仕事に行く。
車に乗る前に、毎日コーヒーを買う。
車に乗ると、今日のカセットテープを選ぶ。
スカイツリーが見えると、平山は音楽をかける。
古い洋楽が好みのようだ。
仕事は東京の公衆トイレの清掃で、平山は非常に丁寧に几帳面にトイレを掃除する。
あまり人がやりたがらない仕事のように見えるが、平山は楽しそうに、どこか満足げに仕事をこなす。
歳の若い後輩もいるが、あまりやる気はなさそうだ。
だが、平山はあまり気にしていない。
平山は昼食に、木々が生い茂る小高い公園のベンチに座る。
陽光を浴びて光る青々とした梢をみて、平山は目を細める。
そして、古くて小さいフィルムカメラでその光景を切り撮る。
朝が早い仕事だからか、平山の仕事が終わるのは早い。
家に帰り、自転車に乗り換えると、近所の銭湯の開店に合わせて風呂に入る。
風呂を終えると、自転車で浅草駅の地下街に行き、焼酎の水割りを飲む。
常連の方々のやり取りを、平山は無言で、だが楽しそうに眺める。
家に帰り、本を読み、平山は眠る。
また朝が来る。
平山は仕事の準備をして外に出る。
朝が早いので、外は薄暗く、まだ寒そうだ。
だが、平山は満足げな表情をしている。
彼は缶コーヒーを買い、今日のカセットテープを選ぶ。
休みの日はコインランドリーに行く。
撮りためたフィルムを現像に出し、現像が終わったものを受け取る。
行きつけの古書店に行き、100円の本を買う。
行きつけのスナックに行く。
清貧、とはこのような日々を指すのだろう。
平山はそんな日々を愛おしそうに過ごしている男だ。
ずっとこんな生活が続くんだと、そう思わせるし、
平山もそう望んでいるように見える。
だが、同じ毎日が続くとは限らない。
困った後輩に金を貸し、大事なカセットの一つを売ることになる。
女の子にほっぺにキスをされる。
姪っ子が現れる。
久しく会っていなかった妹に会う。
後輩が辞める。
夜中まで残業することになる。
新しい後輩が現れる。
密かに思っていたママに男がいる。
美しい日々に挟まるノイズのような出来事に、穏やかな平山も乱される。
作中に何度か「木になろうとしているホームレスの老人」が出てくる。
平山はその老人をどこか羨ましそうに見つめる。
「木」は、「植物」は、穏やかで、美しく、悩みも葛藤もなく、ただそこに在る。
平山はそんな存在に憧れているのだろうか?
だが、ラストシーン近く、平山はこう言う。
「何も変わらないなんて、そんな馬鹿な話ないですよ」
穏やかで何も変わらない毎日に見えて、その日その日は常に新しい毎日だ。
「木」だって同じだ。
平山は毎日同じ木の写真を撮っていた。
毎日新しい朝の空気を楽しんでいた。
毎日小さな喜びを大事にしていた。
毎日、小さな変化を彼は受け入れいていた。
泣くこともある。苛立つこともある。寂しくなることもある。
だが、姪っ子が大きくなっていたこと。
新しい後輩が優秀そうなこと。
顔も知らぬ誰かと手紙を交換すること。
毎日見る名前の知らない人に会釈をすること。
今日も、新しい一日が始まること。
なんて美しく、完璧な日々なのか。
変わることを受け入れ、
なんて事のない日々を穏やかに愛おしんで過ごすこと。
映画『PERFECT DAYS』はそんな大切さを教えてくれる映画でした。