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書評:『あなたの人生の物語』

今は実家に帰っているので懐かしい本を読んだりしているのだが、今日はテッド・チャンの『あなたの人生の物語』を読んだ。
私はSF好きなのだが、テッド・チャンは純SF(これは私が勝手に呼称しているだけだ)の最高峰に位置する人物だ。
その中でも『あなたの人生の物語』は最高に面白い短編集である。
中でも私は「地獄とは神の不在なり」という短編が好きなのだが、ここはやはり映画「メッセージ」の原作でもあり、表題作でもある「あなたの人生の物語」を語るべきだろう。
地球に突如として襲来した異星人とのコンタクトを試みる本作品は、「人の認知」と「人生」についての示唆、及び言語学記号論的な知己に富んだ作品でもある。
面白いのが因果論的思考法と目的論的思考法についての話だ。
ものすごく噛み砕いて語るが、
例えば「過去も未来も含めた全ての事象」がわかる「全知の本」があったとして、それを一人の人間が読むとする。
当然、その人間が「本を読む」ことも全知の本には書かれているわけで、その本を読んだ後のことも描かれているわけだ。
ならばそれを読んだとき、その人間の行動は変わるのか否か?
最近のエンタメならば、人間の自由意志に関係なく、周りの事象がその「結果」に収束していくという流れが一般的だろう。
その人間がそれをしたくないと思っても、「結果的にそうなってしまう」「世界あるいは運命がそれを許さない」という結末だ。
これならば、「全知の本」を読んだ後も人間の自由意志は保たれている。未来は変わらないという結果を残して。
しかし、この「あなたの人生の物語」ではそれに新たな解釈を下す。
それはつまり「人間の自由意志が『結果』を遂行することを選択する」というものだ。
作中に登場する異星人は人間とは異なる認知機能を持っている。作中では、光が常に「最短」か「最長」の経路を辿り、それは光が出発する時点で決まっているという話で例えられる。
人間の認知機能的な考え方で考えれば、光は進みながら経路を辿っていくべきだ。因果は、原因があって結果に収束していくべきだ。
だが実際はそうではなく、その経路は既に決まっていて「光はそれを遂行していく」。結果は予め決まっている。宇宙のあらゆる基本的な物理学は、差はあれどそのようになっていると作中では語られる。
異星人の言語を習得するうちに、作中の言語学者はそのような認知機能を獲得していき、そして「自分が死ぬまでの全ての人生」を知ることになる。
主人公はそれを知って、果たしてどのような行動に出るだろうか。死ぬまでの辛いことも、楽しいことも、何もかも予め知った時、人はどうなるだろうか。
そう。
主人公は全てを知った上でそれを「遂行」するのだ。
だがそれは決して悲しいことではない。
最後まで物語を読んだ時、きっともう一度読みたくなるに違いない。

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