好きなものについてただ語る vol.1 目は口ほどにものを言う
金の国 水の国
ひとつ目は『金の国 水の国』。岩本ナオさんの、ふたつの国の国交問題と結婚をコミカルに描いた漫画で、2023年にアニメ化もされた。
あらすじだけを読むと、ありきたりなファンタジーラブロマンスだが、テーマはもっと別のところにあると私は思う。
この作品の中で好きなところは、人の感情の変化や反応が繊細に描かれていることだ。うつむいたり、決心したり、誰かの言葉に感動したり。そんな現実の世界でもしっかり観察しなければ分からない人の表情が細かく描かれていて、アニメ化された時はアニメってこういうのができるから好き!と思い出させてくれた作品だ。もちろん原作漫画にもそういった描写は多数あった。アニメと同じくらい原作漫画も好きだ。漫画を初めて読んだ時はなんて濃い描写を連発するのだろうと思った。この漫画はすぐお気に入りになった。加えて同じコマの中でも目立たないものが実は伏線だった!なんていう発見ができる。こんなにシンプルなのに、読んごたえのある漫画をわたしは他に知らなかった。たった(大体)300ページの中に、117分の中に、起承転結、伏線・伏線回収が詰まっている。そんな、お気に入りの空箱に好きなものだけを詰め込みました!詰め込み過ぎて破裂しそう、みたいな作品が好きで好きで、『金の国 水の国』はその代表格にすんなり昇格してしまった。
目は口ほどにものを言う
さてこのアニメ映画の好きなシーンだが、ライララというキャラクターのシーンだ。彼女はアラブ女性が身につけているヒジャーブに似たようなものを着ているので、目元以外の表情がわからない。彼女が主人公の一人であるナランバヤルの一言に目尻を下げるシーンが私の最もお気に入りとしているシーンだ。(映画内で彼女は微かにふふっと言っているが、私の中で彼女は終始無音の存在だ。なんせそういう役どころだからだ)
仮にもしこの場面を小説に取り入れるとしたら、『彼女は彼の言葉に目尻を下げた』と描写されることになるだろう。しかし実際に、アニメにせよ漫画にせよ視覚的に捉えたシーンと文字だけで伝えようとするのではかなり印象が変わる気がする。正直、その時まで『目尻を下げた』と言う描写をする際、ただ社交辞令として微笑んだ、とこの一文を認識して小説に取り入れていた。だから漫画でこの場面に出会ったときはこれだけライララの心に共感してしまう、読者を共感させてしまう場面を創り上げた岩本ナオさんに拍手喝采だった。
印象の違いについて漠然と考えていた私はこのシーンを目にしたのをきっかけに、同じ言葉、同じ文章、同じシチュエーションでも人の気持ちに全く違うアプローチができる文章を創れたらと本気で思ったのだ。
Evan Callさんと琴音さんの楽曲
正直、お気に入りの漫画がアニメ化したりドラマ化したりすると、がっかりすることが多い。がっかりするかもとわかっていても、そのドラマやアニメ文化自体が嫌いなわけではないので、一応鑑賞する。ただアニメ映画の場合、お金を払ってまで映画館に足を運ぶことはあまりない。友人に誘われれば行くが一人で行くことはまずないと言って良いかもしれない。しかし今回のアニメ化は別だった。音楽担当が大好きな作曲家さん、Evan Callさんだったからだ。アニメの”ヴァイオレットエヴァーガーデン”のサウンドトラックに”Those words you spoke to me”という楽曲があり、これをきいて彼のファンになった。同じ作曲家が音楽を担当するなら、映画館まで足を運ばない理由はない。
好きな作曲家と好きな漫画、素晴らしいほど融合していた。ひとりくらいお気に入りの現代作曲家がいれば、映画館に行く理由になる。悲しい時に聴く音楽のストックもできる。世界観を広げることもできそうだ。
もしあなたがこの映画を見たことがないなら、予告編を見ないで見ることを強くお勧めしたい。