原点回帰
レディオ・ヘッド。
UKを代表するバンドであり、バンドサウンドに留まらない実験的ともいえる音使いは多くのフォロワーを生み、影響を与えた。
作品は「ザ・ベンズ」 「OKコンピューター」 「キッド・A」 「アムニージアック」 「イン・レインボウズ」などなど…。
特定のカテゴリーに収まらず、多様なジャンルにインスピレーションを受けた作風は他の追随を許さない。
ジャズや、クラシック、電子音楽などを自らの音楽性と融合させ、フロント・マンであるトム・ヨークの甲高いヴォーカルと相まって迫ってくる楽曲は聴く者の全ての感情に訴えかけてくるかのようなサウンドだ。
2016年、サマーソニック。
その年にレディオ・ヘッドはヘッド・ライナーとして来日公演を行った。
この年の大阪サマソニでレディオ・ヘッドを観た自分は、ひたすらそのバンド・サウンドの凄さに圧倒された記憶がある。
当時の最新アルバムのみならず、過去の作品からも代表曲を演奏していて凄く見応えのあるライブだった。
メイン・アクトの時間は日もドップリと暮れて、ステージの照明やモニターの光使いなどが辺りの模様を照らす非日常の空間となる。
暗く、厳かに、光は煌びやかで、聴衆の熱気に当てられステージの上から降り注がれるサウンド・ウォールに五感をくすぐられるかの如く、幻想的で迫真のステージだった。
途中トム・ヨークの謎の(?)MCがあったりと、忘れられないライブの一つだ。
レディオ・ヘッドがサマソニに出演したのは2003年以来で、その年もヘッド・ライナーで出演している。
そしてその年に発表したアルバム「ヘイル・トゥ・ザ・シーフ」。
個人的にレディオ・ヘッドを本格的に聴くようになった大好きなアルバムで、2000年「キッドA」、2001年「アムニュージアック」と実験的な作品を経て、再びバンド・サウンドに立ち返った作品だ。
アップデートを経た「原点回帰」といったニュアンスか。
ギター・サウンドを主体としながらも、培ってきたエレクトロニカやジャズ、クラシックなどのジャンルを自らの血肉とし、その土台から放たれるトム・ヨークの痛烈でいて繊細なヴォーカルがより緻密なダイナミックさを生んでいる。
ロックの力強い骨格に、音の暴力性をしなやかで繊細に聴かせるバンド・サウンドは今聴いても色褪せない。(個人の感想です。)
2016年のサマソニでも「ヘイル・トゥ・ザ・シーフ」からのナンバーをプレイしていて、大阪では本編のラストは件のアルバムからシングル・カットされた「ゼア・ゼア」だった。
そしてライブの中盤に披露された曲で、そのアルバムの一曲目に収録されたナンバーである「2+2=5」。
「2+2=5」。
それは二重思考にも関与し…
相反した理論が同居しつつも信じ続ける。
調べてみると、どうやら曲の背景には当時の国際情勢などのことも踏まえているらしいが、政治的な話しは控えさせて頂こうと思う…。
アルバムのオープニング・ナンバーでギターのシールドをプラグに差し込む時のノイズからスタートする展開は、自分達がギター・サウンドに立ち返った事を意味する。
このシールドを差し込む時の音の肌触り感が抜群だ。
ギターを弾くのは人。
だがノイズは電子音。
機械的なものと人為的なものをこれから展開していくことを予兆しているのかもしれない。
打ち込む電子音に、不穏なギターの音色。
ファルセットがかかったトム・ヨークの声を併せると、深淵なる月夜の闇から聴こえる、深い自然の吐息のような神秘さを感じる。(本当か)
ギターの複音フレーズからトム・ヨークのファルセットは極まり、激しいドラミングと一気に加速していく「2+2=5」は強烈なまでに人の感情を揺さぶり、熾烈なまでに破壊的でいて、そして美しい。
それはバンド・サウンドだけでは勝ち得なかったレディへならではの特徴なのだろう。
音が電子的な表現も加わり、バンド・サウンドが人の感情の到底触れなかったような部分も触れてくる。
この曲と「ヘイル・トゥ・ザ・シーフ」を聴くとそんなことを考える。
サマソ二時、「2+2=5」は2009年以来7年ぶりに披露した曲でその公演を観れたことは、個人的には幸運だったと思ったり。
曲はトム・ヨークの絶叫とも言える声を合図に演奏は終わり、少しの消化不良感を演じて次曲「シット・ダウン・スタンド・アップ」に続いていく。
混沌と秩序、無機質と有機質、優雅で上品でありながらも粗野な面をおくびも隠さず、トム・ヨークのエモーショナルな声とレディへ・サウンドは熱を帯びていく。
その始まりのナンバー「2+2=5」。
何とも耳に残る好きな曲だ。
ちなみに現在レディオ・ヘッドのメンバーである、トム・ヨークとジョニー・グリーンウッドはトム・スキナーというドラマーと共に「ザ・スマイル」というバンドを結成して活動している。
今年にはニュー・アルバムを発売し、ワールド・ミュージックの影響も感じさせるような生命の躍動感に満ちた作品性を示している。
こちらも今後の活躍が楽しみだ。
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