幸せなアナログレコードとの再会(聴きました編3) 『モーツァルト歌曲集』
一度は売却して「ゼロ枚」になったアナログレコード。でも、また欲しくなって取り急ぎ30枚ほど中古で購入。聴くと楽しかったりほろ苦かったり。レコードの一枚一枚は、青春の一コマ一コマだったんですね。新しい発見もあるでしょうか。そんな再会のお話、よかったらどうぞ。
アーティスト
ワルター・ギーゼキング(ピアノ)
エリザベート・シュワルツコップ(ソプラノ)
「すみれ」
レコードには全部で17曲が収録されています。歌詞はドイツ語が14曲で、イタリア語が1曲、フランス語が2曲含まれます。
作曲の年代別にいえば、ケッヘル番号100番台が1曲、200番台がなく、300番台が3曲、400番台が2曲そして、500番台が11曲となっていて大半が後期の作品という事になります。
中でもK.476のゲーテ詩による「すみれ」は、モーツァルト「リート」の最高傑作として知られています。1785年モーツァルト30歳、ウィーンで作曲されました。
「ひっそり咲いていた野のすみれ。羊飼いの少女に摘まれたいと願っていた。ところが少女はすみれを見もしないで踏みつけてしまった!すみれはつぶれ息絶えてしまったが、それでも嬉しがっていた。少女に踏まれて死ぬんだからと……」
「春へのあこがれ」
ルイーゼが不実な恋人の手紙を焼いた時(バウムベルク詩) K520
ヴィ―ン、1787年作曲。……モーツァルトが書いたもっともドラマチックな歌のひとつで、その性格はやはりアリアに近い。
夕べの想い(カンペ詩) K.523
ヴィ―ン、1787年作曲。「すみれ」とならんでモーツァルトの”リート”を代表する名作として知られ、……最も美しいもののひとつである。
クローエに(ヤコビ詩) K.524
ヴィーン、1787年作曲。可憐なメロディーと伴奏をもち、愛する少女への献身を歌っている。
春へのあこがれ(オーヴァベック詩) K.596
ヴィーン、1791年作曲。春を待つ子供の心のときめきを伝える。無邪気な楽しさに溢れた歌である。
――レコード解説より
モーツァルト最後のピアノ協奏曲第27番K.595の第3楽章のメロディーに似ていることもよく知られています。このメロディーをとても気に入っていたんでしょうね。
「来ておくれ、なつかしい五月よ。小川にすみれをたくさん咲かせておくれ。……冬には冬の楽しみもある。でも、ロットヒェンの胸の悲しみは癒せない。……五月よ早く来て、ナイチンゲールやカッコウを鳴かせておくれ……」
ピアノ協奏曲第27番第3楽章。「春のあこがれ」とケッヘル番号で1番違いのK.595です。
シュワルツコップの歌唱
歌が本当に上手いですね、と月並みなことしか私には言いようがない。短い曲の中で一つの言葉ごとに陰影やニュアンスを描き分ける歌唱力がすごいです。一幕のドラマを観ているように感じられるのです。他の人のレコードを聴いても彼女の右に出る人は知りません。
モーツァルトはピアノ、弦楽器、管楽器などの音を愛して沢山の楽曲を作りました。でも一番愛したのはひとが歌う声だったと思います。
モーツァルト、オペラ『フィガロの結婚』からケルビーノのアリア「恋とはどんなものかしら」(ジョン・プリッチャード指揮フィルハーモニア管弦楽団)
伯爵夫人に恋慕の情を抱き、日々ときめきと苦しさの間に揺れる小姓ケルビーノ。連隊の士官として出発することになり、夫人へ捧げる切ない別れの曲を、夫人の小間使いのスザンナが弾くギターに合わせて歌うのです。
ギーゼキングのピアノ伴奏
この人の事も忘れてはいけません。余計なものは何も足さない、それが基本中の基本、ギーゼキングのピアノを聴いていつも思うことです。楽譜に忠実、テンポを守る、何も悪くありません。
ただ、「19世紀ロマンティシズム」側からは「新即物主義」の典型と見て標的にされました。しかし、モーツァルトの音楽にロマン主義の概念を持ってきて主情的な弾き方をしたり、議論の土台にすることには疑問を感じます。
「すみれ」の思い出
大学を卒業して就職で東京へ出ました。一人暮らしは初めてで友人もまだいません。休日を持て余していたある日、上野の東京文化会館へ行った私は、会館のリスニングルームでレコードを無償で聴くことが出来ることを知りました。
シュワルツコップのソプラノ、ギーゼキングのピアノ伴奏のモーツァルトの歌曲集をリクエストしました。孤独をひと時忘れメロディーに身を預けることが出来たのです。その時聴いた「すみれ」の感動は後々まで私の心を癒し励ましてくれました。
データ
レコード番号
EMI ANGEL EAC-70168
エンジェル ベスト150
録音年/場所
不詳
演奏時間
記載なし
※阿北ボタン さんの画像をお借りしました。
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