『人間の建設』No.17 数学も個性を失う №5
話題は、数学の抽象化の問題から、世界の知力の低下に移っていきます。現在(=対談当時)の世の中は功利主義が世界をおおっていて、ローマ時代とそっくりになってきているというのです。
〈すべての道はローマに通ず〉という言葉にあらわされるように、ローマ帝国では、道路や水道などのインフラが整備されて都市には石造りの、数階建ての建物もつくられていました。
公衆の浴場が人々の社交の場にもなっていたともいいます。テレビや書籍で観たり読んだりするかぎり、ずいぶんすすんだ社会のようにも思えます。
しかし、岡さんによればそれらもひっくるめて「功利主義がはびこった暗黒時代」なのです。知力が低下した時代だと。そして、現在(=対談当時)もそういう時代になってきていると。
「人類が滅亡せずに続くことができるのは、長くて二百年くらいじゃないかと思っているのです」と岡さんは、水爆の開発なども踏まえ、知力の低下に伴う人類存続の危機に憂いを抱いています。
では、対談からさらに数十年を経た、いま現在はどうでしょうか。
知識と知恵の違いなどということが議論されたりしますが、岡さんが言う知力とは、知恵に近いのかなと思います。
科学の発展などに伴って知識の方は蓄積・発展しています。対談当時にはなかった、ネットの普及なんかもできてきて検索すれば答えがすぐにわかる。でも、裏を返せば自分で考えたり実地に調べたりが減ってきました。
なので、知恵という観点から見てさほど進化していない気がします。もっと言えば、むしろ退化している節もあるのではないでしょうか。
功利的な考えも、いまもなおわれわれの志向や行動に大きな影響をもっていると思います。そしてこれからも続いていく気がします。
はたして、これからどうなるでしょうか。
ローマは、暗黒時代とはいえ二千年続きましたが‥‥‥。
――つづく――
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