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へレーン・ハンフ編著『チャリング・クロス街84番地』
本を売る人と買う人 アメリカとイギリス 太平洋を挟んだ友情の軌跡
ロンドンのチャリング・クロス街にある書店「マークス社」。
ここは、絶版本を専門に扱う書店です。
古書好きでニューヨーク在住の自称「貧乏作家」へレーン・ハンフという女性脚本家がおりました。
このへレーン・ハンフがある日新聞広告でマークス社のことを知って以来20年にわたり本の購入とともに手紙を交わしました。主にマークス社のフランク・ドエル氏と。
その書簡集が本書『チャリング・クロス街84番地』の由来です。
なお、彼女はのちにテレビの脚本などで売れっ子の位置も獲得します。
「友情」という言葉の意味するもの
普通、友情と聞けば人物の交際、交情を連想させます。
それもありますが、本書を読んで感じるのが、イギリスとアメリカという国ないしは国民同士の関係です。
母語が英語。米語という言い方もあり、区別こそあれ、ほぼ共通の言語を持つ両者。
大西洋を挟んで数千キロの距離こそあれ、それこそお隣同士の感じなのでしょうか。
書簡にも出てくるのですが、しきりにフランクやマークス社の人々がヘレーンに英国への旅行を勧める場面があるのに驚きます。
(そういえば、昔ヨーロッパを旅行した時、コンサート会場でたまたま少し離れた席にいたアメリカ人とカナダ人が楽しそうに「お隣さんですね」という意味の会話をしていたのを覚えています。)
日本には、(歴史を紐解けば別かもしれませんが)母語を共有する外国はありませんので、実感がわきません……。
今もイギリスとアメリカはお互いに筆頭の友好国同士ですものね。
アメリカの国の成り立ちからして、兄弟か親戚のような感覚でしょうか。
大戦後の物資難のレベル差
イギリスは戦勝国であったにもかかわらず、物資不足が深刻な時期もあったことを本書で知りました。配給制もあったようです。
へレーンがマークス社のメンバーに何度も食料の小包を送って励ますのです。
「アメリカって国、イギリスが飢えているのにそれを放っておいて、日本とドイツの再建に何百万ドルもつぎ込んだりして、本当に不誠実な国ですね」
とヘレーンが自国の政策を皮肉る部分が印象的でした。
まったくアメリカは他国とはけた違いに物資が豊富だったのですね。
この辺りは歴史の勉強にもつながります。
古書好きのヘレンは新刊書嫌いでもあるのです
この辺りは少しわかり難いです。
マークス社から届いた本に書き込みがあればよろこび、自然と開くページがあれば小躍りするくらいのフェチっぽいところが何度も出てきます。
以前の所有者の感銘や教養に対して共有の喜びや尊敬の情が起こるのでしょうか。いわゆるツボにはまるというやつ。
日本人は、自分自身を考えてもわかりますが「新し物好き」です。例えば新築に住みたい。新車に替えたい……
でも、あちらの人は古い家や家具や車をありがたがって改修すると聞いたことがあります。
ある説によれば、いにしえの日本人は、ヒトがモノを使うとヒトの魂がモノに移って宿るのだと思っていたそうです。
「ケガレ」は汚れとは違います。決して不衛生とかではないが、何となく避けたいと思う。日本人の死生感や宗教感から生まれた固有の特徴だそうです。
でも、昨今はそんなことを言っておられずに、少しでも安く手に入れるのが賢いという風潮に代わってきましたね。
本好きには通ずるものがある
などいろいろ感じましたが、ヘレーンにしろマークス社のフランクにしろ、本好きという共通項があります。もっとも古書に限るようですが。
私は、どっちかというと新刊書が好きです。日本人ですから。笑
でも、二人には共感を覚えます。
この本を読んで心あたたまる思いがしました。
ちなみに翻訳は、「日本の知性」とも呼ばれ評論で名高かった江藤淳さんです。
※ダラズさんの画像をお借りしました
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