本物の自然愛好家は…
(本物の自然愛好家は)口から息を吸い込み、鎖骨の下が痛くなるほど腹をふくらませる。彼は橋の下に降りて、草地を歩く。そこで小さな花を見つけて、しゃがみ込み、においをかいで、花にキスをする。地べたに横になり、いろいろな音に耳を澄ませる。服が汚れるのも構わず、地面の上を這い回る。這って、幸福のあまり泣く。彼は幸せだ。なぜなら、彼の本質は大地と結びついているからだ。
本物の自然愛好家はいつも、自然が発するほんの小さなサインを鼻でかぎ分けることができる。町なかにいてさえ、馬の鈍重な顔を見ると、果てしなく広がる草原やアザミや砂ぼこりが彼の目の前に浮かんできて、耳には鈴の音が聞こえてくる。彼は目をぎゅっとつむって頭を振り、自分が馬なのか人間なのかわからなくなる。彼はいななき、ひづめで地面を蹴り、想像上のしっぽを振り、馬の歯をむき出して、馬のように空気を汚染する。
こんな本物の自然愛好家から、どうぞ私をお守りください。
作者はダニイル・ハルムス。ソビエト政権下、刑務所内の病院で死亡(訳者によると、おそらくは餓死だという)した作家である。
作品の傾向はショートショートで、筆者はリディア・デイヴィス氏の作品や、松田青子氏の「ワイルドフラワーの見えない一年」を思い出した。
これは筆者が、そのなかでも特に気に入っている一編である。
こうした愉快で、柔らかな魂が大きな力で潰されていくのは、しかしいつまで続くのだろうか。
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