アボカドトマトナス

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  • 三島由紀夫初期作品感想

    三島由紀夫の主に初期作品の感想です。 ここで扱えていない「酸模」「苧莵と瑪耶」「軽皇子と衣通姫」「岬にての物語」なども優れた短編です。 すべて新潮文庫で読めます、よければぜひ読んでください。

  • 三島由紀夫「憂国」以後の短編感想

    三島由紀夫「憂国」以後の短編の感想をまとめています。読むときの参考になれば幸いです。

最近の記事

個人的な記録

この記事は私個人の必要で書くから、他の人が読んでもつまらないので読まなくていい。 また、かなり暴力的な話があるので、もし読むにせよ心に余裕のある方以外は読まない方がいい。 「見るなの禁」の心理は私にもわかるが、しつこいが、本当に読まないほうがいい。 警告である。 ただ、不特定の読者の目に触れる場所にどうしても書いておきたかった。同情の乞食になるかもしれないが。  十代のころ、ぼんやりと人を殺したかったことを覚えている。 なんか「不幸な私のルポ・エッセイ」みたいになるからこの

    • 謎解き―ある有名小説の―

      謎 今から書く謎解きはある有名作家の書いた小説内に出てくる話。 読者の皆さんは ①作者は誰か ②謎の解 をそれぞれ考えて読んでほしい。 (追記:いくらなんでもノーヒントすぎたため以下に追加の作者・作品のヒントを載せておく。 ①文芸作家の娯楽作品。 ②作者の名前には数字が入る。 こんなところでどうだろうか、悪いことをしてしまった) なお、「そんな下んねえことできるか」という現代社会過剰適合症患者のために解法は下位の方に書いておいた。 ただ、ちょっとした暇つぶしにチャレンジ

      • 堀辰雄「四葉の苜蓿」

        ※タイトルにある「苜蓿」はクローバーの和名で、そのまま「馬肥やし」が由来という。 本作は書き出しが素晴らしい。 ここで特に読んでほしいのは、時間の描写である。 a.「夏に先立って」―この言葉が「辛夷」の花のイメージと繋がり、読者の心理に春から夏にまたがる一まとまりの緩やかな時の流れを与える。 b.そこから、「日曜日など愉しさうに遊んでゐる」春の子どもたちの姿が描写され、先ほどよりも小さな―日常的な―時間の輪が提示される。 c.そして辛夷が「すつかり青葉になつた頃」―再び時

        • 最近読んだ本

          コルヴォー男爵(フレデリック・ロルフ)「教皇ハドリアヌス七世」noteの国書刊行会の記事で「100年前のなろう小説」など惹句を付けていたから、つい読んでしまった。 それで、実際の内容だが……申し訳ない、かなり退屈である。 と言うか話が予想の範囲を出ない。 売れない作家のローズがなぜかローマ教皇に就任し、型破りの施策が人々を振り回していくドタバタ喜劇だが、今じゃそう珍しいプロットでもないし。 あと、「型破り」と言う割に大したことをしないのも不満である。 ローズがやるのはカ

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        • 三島由紀夫初期作品感想
          16本
        • 三島由紀夫「憂国」以後の短編感想
          21本

        記事

          大中博篤「さよならガルシアマルケス」

          ハードルの低い文学賞皆さんは高橋源一郎の「小説指南/小説でもどうぞ」の存在を知っているだろうか。 氏の行っている一般公募の文学賞のようなものである。 筆者は最優秀賞の報酬「Amazonギフト券一万円分」欲しさに一度書いたが、当然ダメだった。 一ヶ月ごとにテーマを定めて応募が行われ、今月のテーマは(もう二日しかないが)「すごい」。 以下のリンクから応募できる。 (ただ今回はテーマが抽象的すぎてかえって書きにくそうに思える。 もし興味のある方がいたら、無料の宝くじでも買うつ

          大中博篤「さよならガルシアマルケス」

          萩尾望都「ゴールデンライラック」ほか二編

          雑談作家の伝記は数多く、作品批評はさらに多い。晩年は極右の陰謀論者に化けた江藤淳(でも「成熟と喪失」は素晴らしい)、謎のジジイこと柄谷行人(夏目漱石扱ったのがおすすめ)、村上春樹ばっかやってる「敗戦後論」(個人的にコレはペケだが)の加藤典洋(しかしたまにいい批評を書く)、映画狂人蓮實重彦(小説に関しては割と的が外れる)、作家のゴシップ譚ばっか扱う小谷野敦(性格は悪いと思うが書いてるのは面白い)、作家だとまず正宗白鳥(泉鏡花の作を「頭に鉢巻巻いてふんどしで踊ってる」と評してい

          萩尾望都「ゴールデンライラック」ほか二編

          星奏なつめ「チョコレート・コンフュージョン」

          雑談―超どうでもいい―いきなり文句だが、なぜ日本の娯楽は―小説であれ映画であれ―すぐ人情話に流れてしまうのか? スッカスカの勧善懲悪譚をアホらしい銃撃戦で埋める海の向こうの映画もそれはもうウンザリだが、こちらもこちらで飽き飽きである。 さらにどうでもいい話をすると、純文学(そんなものがこの世に存在するとしてだが)に主人公として書けないものが三つあるのは皆さんご存知だろうか。 ①労働者 ②子ども ③群衆 これが書けない。 ①は井伊直之氏の諸作品や中上健次の「岬」「枯木灘」、

          星奏なつめ「チョコレート・コンフュージョン」

          萩尾望都「青いドア」―成熟を免除された男たち―

          あらすじ電線が空を区切る、平凡な住宅街のコマのモノローグから本作は始まる。 妻の言葉と行動に、主人公である夫の晴男は「…へえ」と言うほかない。 そうしている間にも、彼の妻は ①家の一階を「ペパーミントグリーンの壁と天井に」  ②「(略)カーテンは黄色と白に」 ③赤色灯を取り寄せ ④「塀の鉄柵をとりはらって山茶花とブルーベリーの垣根をつく」り ⑤「アーチ型の白い門を注文する」 挙句の果てには、 ⑥「3百万円の温室ベランダ」を注文しようとする。(結局「100万円」にグレードダ

          萩尾望都「青いドア」―成熟を免除された男たち―

          「有明の別れ」―幻の異性装物語―

          冒頭部だけだが南條範夫氏による現代語訳を載せておく。 ※性的な話題を含みます 前書はだいたい原稿用紙10枚の文量がある。素人の私論で人生の貴重なひとときをドブに捨てたい方がいらっしゃるなら止めはしないが、 「作品紹介」を読めば本作「有明の別れ」のあらましは分かるように書く。作品について知りたい方はそこだけ読んでほしい。 前書―禁忌とは何か―「チャタレイ夫人の恋人」裁判をご存知だろうか。 今から考えるとトンチキな裁判だが、ロレンスという(今やヘンリー・ミラー同様忘れさられ

          「有明の別れ」―幻の異性装物語―

          源氏物語偽作「山路の露」―オープンエンディングの続きは蛇足か―

          前書きさっそくタイトルに反し申し訳ないが、おそらく作者に「偽作」の意識はなかったと思われる。よって岩波文庫のタイトル通り「補作」が正しいはずだ。 何しろ、この時代に作者と作品を一対とする認識はなかった。そのため読者はときに物語の続きを気ままに書き足した。 結果、異稿が出まくり、決定稿の成立が困難になるケースもあった(確か平安後期物語の「狭衣物語」がそう)。 「源氏物語」が現在ほぼ確定した形で残っているのも、藤原定家が決定稿を作った(それ自体はほとんど散逸しているが)ことに起

          源氏物語偽作「山路の露」―オープンエンディングの続きは蛇足か―

          最近読んだ本

          ざっくり言うと、 ①小砂川チト・川野芽生両氏は現代を生きている女性がどんな物を書いているか知りたくて読んだ。 ②フィリップ・ロスは半ば惰性で読んだ。ユダヤ系の作家だ。 ③藤原定家?は「松浦宮物語」(タイトルは遣唐使で唐土に向かった息子を待つ母親が建てた宮殿に由来)という謎の古典の感想。 ④佐藤友哉氏はトンチキ小説が読みたくて読んだが、思ったよりずっと面白かった。こういう小説が書いてみたいと自然に人に思わせる作品だ。 小砂川チト「家庭用安心坑夫」「猿の戴冠式」どちらもかなり奇

          梶井基次郎「蒼穹」

          雑談なんかこう、張り切られすぎると逆に引いちゃう心理が人間にはある。さくらももこ氏の「ちびまる子ちゃん」にもそんな話が出てきた(あれはなかなか人間風刺の効いた作品である、世が世ならスウィフトと並び称されていただろう)。 徒然草にも張り切り屋の失敗談がある(坊主連が稚児を楽しませようと弁当だったっけ、を紅葉の下だかに埋めるも持ち去られてしまうのである)。 梶井基次郎の文章もまさにそれで張り切り過ぎである。 最近の作家だと川上未映子氏もそうだが、詩的才能のある作家の文章には

          梶井基次郎「蒼穹」

          三島由紀夫「中世」

          本作「中世」は三島由紀夫が「王朝もの」を書くだけ書いた後に書かれた「中世もの」に当たる。「中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃」や「菖蒲前」(それぞれ以前扱った、暇なら読んでほしい)を通じて、「金閣寺」まで繋がる系譜かと思われる。 読んだ感想としては、あれあれ、藤原定家の「見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ」―華やぎの不在が大きい空虚となり逆説として輝く―そんな感じ。 ではまあ、ぼちぼち書いていく。 主人公は足利義政。彼の妻の日野富子は日本三大悪

          三島由紀夫「中世」

          三島由紀夫「菖蒲前」

          菖蒲前 本作は鵺退治で知られる源頼政と側室の菖蒲御前の物語で、タイトルは彼女の名から。 なお頼政は酒呑童子伝説で知られる源頼光の玄孫(孫の孫)に当たる。化け物退治の才覚も隔世遺伝するのだろうか。 本題に戻ると、三島の初期作品の常として書き出しが素晴らしい。少し長いが雰囲気を掴むため引用する。 以下、「序」「破の一段」「破の二段」「破の三段」「急」の五幕それぞれで筋を追っていく。 序 ここでは、主に頼政と菖蒲前の極めて特殊な感情の交流が語られる。 菖蒲前は「消えも入り

          三島由紀夫「菖蒲前」

          三島由紀夫「肉体の学校」「複雑な彼」

          三島由紀夫の通俗小説に、今さら読む意味を見出す人間はほとんどいないだろう。 実際筆者が単なる物好き/マニア的な興味から読んでいると言われても文句は言えない。 ただ、改めて言えば1963年発表の「肉体の学校」及び1968年発表の「複雑な彼」は、どちらも小説の技法として小慣れてスマートであり、一種「消耗品」としての美しさを保っている。 そう、筆者は思うが、「百年残る文学」などいう大義名分を掲げたときから文学は駄目になった。消耗品で結構、羽より軽い虚構で結構。その軽さが思いがけぬ何

          三島由紀夫「肉体の学校」「複雑な彼」

          最近読んだ海外文学と詩

          まずはフィリップ・ロス「いつわり」(1990年発表)。200ページそこそこの作品だが、読むのにすごく疲れた。  意欲作っちゃ意欲作で、フィリップ・ロスを思わせる作家の情事の様子を会話文だけで書いた実験的なオート・フィクションなのだが、中身は「ユダヤ人性とは……」云々(と生活に疲れた中産階級女性とのロマンを欠いた情事)であり、貧乏弁当そっくりの国旗を掲げる国に住む筆者には、その重要性がピンとこないのである。 強いて面白かったとするなら以下の下りとか。 次がオルハン・パムクの「

          最近読んだ海外文学と詩