アボカドトマトナス

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  • 三島由紀夫初期作品感想

    三島由紀夫の主に初期作品の感想です。 ここで扱えていない「酸模」「苧莵と瑪耶」「軽皇子と衣通姫」「岬にての物語」なども優れた短編です。 すべて新潮文庫で読めます、よければぜひ読んでください。

  • 三島由紀夫「憂国」以後の短編感想

    三島由紀夫「憂国」以後の短編の感想をまとめています。読むときの参考になれば幸いです。

最近の記事

M3GANと多崎つくる―娯楽作品を情報量から読み解く/蛇足①

※性的・暴力的な話題を含みます 前書き 筆者には苦手なタイプの作品がある。 ①明白な悪役が存在する ②その悪役の排除をめぐって物語が進行する この二つ。 例えば世界を核の炎で焼き尽くそうとする悪役や、新人イビリの好きな部長……昔やってた「スカッとジャパン」みたいな。   嫌いな理由は複数あるが、まずは A.特定の属性を「悪」と断ずる傲慢さ だ。 仕事のできない上司は、妻が自殺未遂をし娘は未成年の妊娠中絶と、生の深い困難のさなかかもしれず、核で世界を滅ぼそうとする悪役は根深

    • 【短編小説】ワタシの(キャッ!)人には言・エ・ナ・イ趣味♡

      誰しも、人に言えない趣味の一つや二つは持っている。さもなくば今日から作家と脚本家は皆死ぬ。 よって貞淑な人妻の美の秘訣は美少女の血風呂でなければならず、気に食わない優等生Aは革命を夢見ねばならない。そして私のそれはメモにまつわるものである。 しかし普通に話すと照れくさいので、ライフハックを紹介する体で喋らせてもらう。 ……皆さん、keepメモなどに、日々買わねばならない品物をメモしているものと思います。 例:「サラダ油、ウェットティッシュ、くっつかないアルミホイル、カップラ

      • 遠藤周作「おバカさん」/夏目漱石「虞美人草」

        前書き 純文学の作家が書いた娯楽小説で、筆者が順位をつけるなら、 一位:三島由紀夫「肉体の学校」  二位:遠藤周作「おバカさん」 三位:夏目漱石「虞美人草」 となる。 もし三島をもう一作入れるなら「命売ります」が「おバカさん」に代わって第二位の座を占める。 それで前の記事では「命売ります」の娯楽作品としての工夫を見ようとしたが失敗した。 理由としては、思った以上に構造が弱い。 古い作品だから現代の娯楽作品の緊密さがないのは承知の上、しかしあまりに文芸色が強すぎた。 というこ

        • 三島由紀夫「命売ります」

          前書き 前や前々の記事で、筆者は「作品にドラマツルギーが必要だ」と書き続けてきた。 実際その原則を無視するとテレンス・マリックみたいな出来になる。が、例外もある。 探偵小説である。 依頼主の依頼を受け、ストーリーテリングが始まるが、そこにドラマツルギー的な葛藤は(ほぼ)存在しない。 探偵は物語の運び屋として、花粉を運ぶミツバチのように様々な花(謎めく美女、アル中の作家、陰険な刑事……)を渡り歩き、ストーリーを進行させ続ける。 そこにドラマツルギーがあるにせよ、それは共犯者

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        • 三島由紀夫初期作品感想
          16本
        • 三島由紀夫「憂国」以後の短編感想
          21本

        記事

          大石静「知らなくていいコト」―娯楽作品を情報量から読み解く④

          ※性的な話題を含みます 前書き 現在、大河ドラマ「光る君へ」の脚本を担当していらっしゃる大石静氏が、2020年に制作されたドラマが本作、「知らなくていいコト」。 非常によくできたドラマで、(ただ後述するが後半の展開に難がある)、リアルタイムで吉高由里子演じる真壁ケイトが塚本佑演じる尾高由一郎にキスされたときは、思わず黄色い声を上げてしまった。 破廉恥ですね、奥さま。 この記事では、そんな恋愛、お仕事、ミステリーと欲張りの本作の魅力を追っていきたい。 1.あらすじ 前

          大石静「知らなくていいコト」―娯楽作品を情報量から読み解く④

          三崎亜記「となり町戦争」/恩田陸「茶色の小壜」その他―娯楽作品を情報量から読み解く③

          ※性的な描写を含みます 前書き 本題 三崎亜記「となり町戦争」は、圧倒的にストーリー型の娯楽小説である。 すなわち、 a.あらかじめ読者に複数のプラス/マイナスの情報を手渡し、緊密なドラマツルギーの交錯を生む作品 例:桜庭一樹「紅だ!」伊坂幸太郎「ホワイトラビット」など ではなく、 b.物語の自然な展開から、次第に読者を惹きつけるプラス/マイナスの情報を生み出す作品 である。 要はドラマツルギーかストーリーテリングかという話。 過度な転調を繰り返す曲がときに一貫した

          三崎亜記「となり町戦争」/恩田陸「茶色の小壜」その他―娯楽作品を情報量から読み解く③

          滝本竜彦「ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ」―娯楽作品を情報量から読み解く②

          ※性的な話題を含みます 前書き 本題 本作の面白い点は、外はカリカリ中はトロトロならぬ 「外は王道青春小説、中はリドル・ストーリー」 にある。 リドル・ストーリーはデイヴィッド・リンチや村上春樹の文脈でよく見かける語だが、私の粗雑な理解によると、 「作中で起こるすべての出来事に明快な解決が与えられない物語」 である。 本作は初め、娯楽小説の体で始まる。 人生に目的を欠いた高校生の山本陽介は美しい女子高生の雪崎絵理と出会う。しかし絵理は夜な夜なチェーンソー男と闘う宿

          滝本竜彦「ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ」―娯楽作品を情報量から読み解く②

          桜庭一樹「紅だ!」―娯楽作品を情報量から読み解く

          前書きはすでに書いた。 端的に言えば娯楽作品の読者や視聴者は強欲な株主の如き存在であり、作者が一度配った情報のカードは決して手放さず、かつそれが最大の利益となるよう求め続ける、という話である。 よくわかんねえな、という方はノリで読んでほしい。 本題桜庭一樹氏の「紅だ!」は2022年の7月30日に出版された。 あらすじ:紅という武闘派の女性と橡(ドングリの意)という頭脳派の男性のバディの下に、冴木雛月と名乗る謎の少女がやってくる。ところが彼女は巨額の贋札詐欺事件に関係して

          桜庭一樹「紅だ!」―娯楽作品を情報量から読み解く

          娯楽作品を情報量から読み解く―前書き―

          本記事はこれから娯楽作品を情報から読み解く―タイトルまんまだ―シリーズを書くため、前書きとして書くが、沈むか浮くかはわからない。 娯楽作品は批評のまな板に上らず、読者もよく突き詰めずに、「面白い」「つまらない」と言いがちだ。 理由の一つに、定量的な評価が難しいことがある。 例えば文芸なら、遠藤周作なら信仰、村上春樹氏なら悪の問題を、それぞれどの程度深掘りしたかというような―いわば「パッと」評価しやすいポイントがある。 小説は生きた物語だからあまり褒められた話ではないが、文芸

          娯楽作品を情報量から読み解く―前書き―

          文章読本云々、NHKとめざましテレビの哲学的考察など

          素人の素人による素人のための小説案内(1/3)/NHKとめざましテレビの哲学的考察(2/3)時は昭和。「文章読本」なるものが乱造されていた。 谷崎潤一郎「文章読本」は「文芸漫談」と佐藤春夫に腐され、川端康成「文章読本」は代筆の可能性色濃く、三島由紀夫「文章読本」は面白いが批評に近く、丸谷才一の「文章読本」は中身を忘れた。 その後も、色んな作家が繰り返し小説の書き方について示唆に富んだ意見を提示してきた。 例えば河野多恵子「小説の秘密をめぐる十二章」、村上春樹「職業としての

          文章読本云々、NHKとめざましテレビの哲学的考察など

          三島由紀夫「午後の曳航」―存在の必然、魂の偶然―

          ※性的な話題を含みます。 ※あらすじや詳しい内容を知りたい方は「夏」から読むことをおすすめします。 前書き 存在とは滑稽なものである。 筆者の確信は、中学の美術の教科書で見た筋肉好きの変態ことミケランジェロの作った「ダヴィデ像」がジョークグッズにしか見えなかったときから変わらない―股間についたチンポコ―品位を持って言えばペニス―のせいで。 ファルスは喜劇にして男根でもあるが、まさしく男根は喜劇であり、存在とは大いなる喜劇である。 例えばこの前、某元首相の胸像が地元JR湯

          三島由紀夫「午後の曳航」―存在の必然、魂の偶然―

          萩尾望都「バルバラ異界」

          ※性的な話題を含みます。 前書き 人にはときどき、ふらっとどこか遠くへ行きたい欲望が目覚めることがある。 例えば探偵小説の金字塔「マルタの鷹」の、一人の金満家の男性がどこかの街で配管工だか車の修理工だかに身をやつし果てはもう一人の妻まで娶っていた話だとか、シャーロック・ホームズの「唇の捩れた男」の乞食商売にのめり込む新聞記者だとか、村上春樹氏の「どこであれそれが見つかりそうな場所で」のある日突然行方をくらませるメリルリンチ(証券会社)勤めの男だとか、内面における移動もカウ

          萩尾望都「バルバラ異界」

          最近見た本や映画など

          ()内にはタイトルから読み取れないハッシュタグの内容を記した。 興味のある話だけさらっと読んでくれると嬉しい。 法律/裁判の不条理・草薙厚子「元少年Aの殺意は消えたのか」村上春樹「アフターダーク」など(絶歌/都市/裁判/壁と卵) 最近、裁判や犯罪にまつわる本を少し読んだ。 まず、イースト・プレス(ここ割と怪しい本も出すが)出版社の「元少年Aの殺意は消えたのか」草薙厚子氏著を読んだ。 酒鬼薔薇聖斗殺人事件を引き起こした少年Aの手記「絶歌」出版を受けて(その反駁として)書かれ

          最近見た本や映画など

          個人的な記録

          この記事は私個人の必要で書くから、他の人が読んでもつまらないので読まなくていい。 また、かなり暴力的な話があるので、もし読むにせよ心に余裕のある方以外は読まない方がいい。 「見るなの禁」の心理は私にもわかるが、しつこいが、本当に読まないほうがいい。 警告である。 ただ、不特定の読者の目に触れる場所にどうしても書いておきたかった。同情の乞食になるかもしれないが。  十代のころ、ぼんやりと人を殺したかったことを覚えている。 なんか「不幸な私のルポ・エッセイ」みたいになるからこの

          謎解き―ある有名小説の―

          謎 今から書く謎解きはある有名作家の書いた小説内に出てくる話。 読者の皆さんは ①作者は誰か ②謎の解 をそれぞれ考えて読んでほしい。 (追記:いくらなんでもノーヒントすぎたため以下に追加の作者・作品のヒントを載せておく。 ①文芸作家の娯楽作品。 ②作者の名前には数字が入る。 こんなところでどうだろうか、悪いことをしてしまった) なお、「そんな下んねえことできるか」という現代社会過剰適合症患者のために解法は下位の方に書いておいた。 ただ、ちょっとした暇つぶしにチャレンジ

          謎解き―ある有名小説の―

          堀辰雄「四葉の苜蓿」

          ※タイトルにある「苜蓿」はクローバーの和名で、そのまま「馬肥やし」が由来という。 本作は書き出しが素晴らしい。 ここで特に読んでほしいのは、時間の描写である。 a.「夏に先立って」―この言葉が「辛夷」の花のイメージと繋がり、読者の心理に春から夏にまたがる一まとまりの緩やかな時の流れを与える。 b.そこから、「日曜日など愉しさうに遊んでゐる」春の子どもたちの姿が描写され、先ほどよりも小さな―日常的な―時間の輪が提示される。 c.そして辛夷が「すつかり青葉になつた頃」―再び時

          堀辰雄「四葉の苜蓿」