「流行」「不思議な鏡」―鴎外の「軽み」

鴎外の「軽み」と言ったが、早速問題がある(ネタバレ)


どちらも「夢オチ」なのだ。

「流行」はなぜか自分が使用したものが「流行」するからと言って方々から贈り物をもらう主人に、おれが不愉快を感じる―そんな話だ。
結末としては

己はびっくりして目をめた。(略)新刊書の小包が載っている。封を切って開けて見たら、中にはD❜Orsay or The Complete dangeyドルセイオアゼコンプリイトダンジイと云う本が這入っていた。

本のタイトルは「ドルゼイすなわち完全な伊達者」。
つまり話としては「伊達者と言ったところで、所詮は流行に追い回されるだけなのだ」という鴎外の皮肉を読むべきか……そんな話だ。

「不思議な鏡」は「杯」を思わせる話。鴎外本人を思わせるおれの魂は体を抜けて外に出た。」
幽体離脱である。ところが、「己の魂は(略)鏡へすうと吸い込まれた」。そして、田山花袋、島崎藤村、島村抱月、徳田秋声に「『きょうは君に近作を一つ朗読して貰いたいのだがね。』」と詰め寄られる。
彼らは全員「自然主義文学」の作家で、鴎外と漱石は「高踏派」「余裕派」と嫌われていた。

最後の

己は体の節々に痛みを覚えた。(略)魂は体に戻っている。(略)
己は今印を衝き掛けている紙を見た。「玄米八斗五升、ぬか三升、鶏六羽、蚯蚓みみず」と読み掛けて、属官(※下級の役人)の顔を見た。
属官は体をかがめて紙を覗いた。「それは鶏の餌になりますのだそうで。」
「そうかね」と云って、己は印をぺたりと衝いた。

このシュールな笑い。佐々木倫子氏の「動物のお医者さん」を思い出すではないか。

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