「鼠坂」―鴎外の「戦争」
※暴力的な描写があります
残酷な、そして極めて暴力的な短編だ。
(あらすじ)
「鼠でなくては上がり降りが出来ないと云う意味で附けた」「鼠坂」の屋敷で主人、通訳あがり、記者、上さん、小川の五人が「さけ酣になっている」。
この一人、小川は日清戦争中、「支那人」―中国人の「まだ二十にならない位な、すばらしい別品」をレイプする。
その後、彼は「自分の顔を見覚えられたのがこわくなった」。そこで、おそらく彼女を殺す。
その後、小川は「横になってから」
「や。あの裂けた紅唐紙の切れのぶら下っている下は、一面の粟稈だ。その上に長い髪をうねらせて、浅葱色の着物の前が開いて、鼠色によごれた肌着が皺くちゃになって、あいつが仰向けに寝ていやがる。顋だけ見えて顔は見えない。どうかして顔が見たいものだ。あ。下脣が見える。右の口角から血が糸のように一筋流れている。」
彼女の幻覚を見る。
そして「小川某氏其夜脳溢血症にて死亡せり」―彼は死ぬ。
鴎外の戦争犯罪に対する強い否定性と、またそこから目を逸らすまいという意志を感じる。
今の日本にはこうした視点があるだろうか。こうしたまなざしがあるだろうか。