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『チルドレン・オブ・ザ・コーン』/これぞキング! と思うのだけど(映画感想文)

劇場で手渡しで貰ったチラシ(「CORN GOD」のタイトル入りでアイザック、マイカ、イーライの顔写真が入った「3」までをまとめたもの)にはこう書かれていた。
「スティーヴン・キングの『トウモロコシ畑の子供たち』を原作とした人気ホラーシリーズ『チルドレン・オブ・ザ・コーン』は『ヘル・レイザー』や『ハロウィン』にならぶ長編ホラーシリーズにもかかわらず、第一作目である『チルドレン・オブ・ザ・コーン』(84)が日本未公開であるという衝撃的事実が発覚した。この由々しき事態を解決するべく、製作から40年を迎えたいま、満を持しての4K版で日本劇場初公開となることがたったいま、緊急決定した」

毎年夏になると病的にキングを読みたくなるイカれたファンの僕だが、『チルドレン・オブ・ザ・コーン』は未見(シリーズ一本も観たことがない)。不明を恥じつつ劇場で鑑賞。

原作の短編小説が書かれたのは77年。都会のライフスタイル記事とソフトコアポルノ写真を組み合わせた男性誌「ペントハウス」に掲載。のち、78年に短編集「深夜勤務(ナイトシフト)」に収録。映画化は84年。
キングの映画化された最初の作品『キャリー』が76年、以降『シャイニング』(80)、『クリープショー』を挟んで『クジョー』が82年、『デッドゾーン』(83)、『クリスティーン』(同)と続き、84年にこの『チルドレン・~』と『炎の少女チャーリー』が公開されている。比較的初期の映画化作品だが、(クリープショーを除き)この作品だけが唯一短編を原作としている。その分、脚本家が大幅にあれこれと足さなければならなくなりキングの原作から乖離した、と受け取るか、無理に圧縮する必要がなくなりエッセンスが凝縮された、と思うかはキングへの偏愛の度合いによって変わるかもしれない。

ちなみに原作者であるキング自身の『チルドレン・~』評は次のとおり。「あの映画はクズだ」

「誰かに『あなたの映画は全部観ました』と言われれると、この人は『チルドレン・~』の続編もすべてラストまで席を立たずに観たのだろうか、と訝しむ。」とも。
…にも関わらず冒頭に引用したようなチラシの惹句なんだから、ホラー映画って結構自由だ。

舞台はネブラスカ州の小さな田舎町。突如邪悪な神が舞い降り、ひとりの少年に囁く。大人を根絶やしにせよ、と。その声に従い子どもたちは町の大人を殺戮。トウモロコシ畑に囲まれた何もない田舎町に子ども(と邪神)だけの王国が成立する。
そこへ若い研修医とその恋人が迷い込む。
…と筋書きはいたってシンプル。コーンベルト版『蠅の王』だ。
恋人を演じているのは若きリンダ・ハミルトン。シュワルツェネッガー相手に戦うほどの隆々とした筋肉はまだない。
教祖となる不気味な少年アイザックを演じているジョン・フランクリンはこのとき実は25歳。子どもの筈の役を彼が演じられたのは下垂体に異常があり成長不良の病気だったから。それでオーディションを受けたフランクリン本人もだが(『チルドレン・~』が彼のデビュー作)それを合格にして不気味な少年を演じさせる制作者たちも、なかなかヤルよね。アメリカでは小人の役者も映画の世界で多く活躍し重宝されている。「障害者を見世物にするなんて」といってミゼットプロレスを中止に追い込み小人レスラーたちを廃業に追い込み失業させた日本人のエセ知識人とはスケールもリアリティの認識も大違いだ。

先に書いたとおり、僕自身はシリーズすべて未見ながら、初めて見た『チルドレン・~』は大変面白かった。思っていた以上に凄惨な殺戮場面を冒頭で見せられたのには閉口したが、…。大人のいない、半ばゴーストタウン化した町を背景に、時折ぎょっとするほど美しい構図のカットが挿入される。恐ろしさや展開のチープさとは別に、いちいち絵になる。印象に残る。

キングは何が納得いかなかったのだろう?
神の声(畝の後ろを歩く者)の声を聞く触媒であり巫女である不気味少年のアイザックと、ソシオパスで何かといっては誰かを殺したがる少年マラカイの対立は、宗教を軸に対立を深めて行くが、この閉鎖された空間のなかで孤立した人びとが疑心暗鬼に駆られるという構図は『ミスト』(07)に限らず、のちに何度も繰り返しキング自身によって描かれている。
93分の本編のなかに、「これぞキング!」といった要素がぎゅっと凝縮されていると僕なんかは思うのだけど、…。物足らんかったのだろうか?

ネタバレにならなければいいが、最後に姿を現すあるものが、当時の技術的なことを割り引いてもチャチいのは確かだ。
だが『ランゴリアーズ』(95)のアレも反対にそのチープさがキングのキッチュな怖さに大変フィットしていたと思うクチなので、この『チルドレン・~』においても世界観によく合っていた気が僕はするのだが。そういえば『ランゴリアーズ』もキングはそこだけ難色を示していたな、…。

ちなみにこの映画、もともと企画されていた結末はちょっと違って、リンダ・ハミルトン演じる恋人は、トウモロコシ畑で磔にされたまま両目を抉り取られ死ぬんだったとか。商業的な影響を考慮(というか心配)したプロデューサーの介入で変更になったそうだが、それがキングは不満だったのかな?

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