abiko masahiro

映画と小説、音楽と野球。 Facebookではいろいろ書いています。noteではいまは映画についての感想などを。 月に一度、大阪で「読む前に書け」という即興創作のワークショップをやっています。

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最近の記事

『ロボット・ドリームズ』/いまのきみの人生はどうだい?(映画感想文)

失恋した男友だちを慰めようと、「この世には星の数ほど女はいる」と声を掛ける。現実にこんな場面に出くわすことは(掛ける方としても、幸いにして掛けられる方としても)なかったが、この言葉は正しいだろうか。 叱られるかもしれないが「パンがないならケーキを食べればいいではないか」と似ている気がする。もちろん男同士の幼いながらも、そしてあさはかながらも未熟ゆえ熱い仲と、若気の至り感を出して考えられたセリフだとは思うが。 たとえこの世に星の数ほど異性がいようが、一生をともに過ごす相手は、あ

    • 『ヒート』/男と、その周辺(映画感想文)

      マイケル・マン監督の『ヒート』(95)は、マン監督自身が89年に撮ったテレビ映画『メイド・イン・LA』のセルフリメイク。そちらは未見なので、どの程度アレンジが施され、どの程度元の作品が活かされているのかが僕には判らないのだが、ある映画関連データベースのサイトは『ヒート』について「全く同じダイアローグ、カット割り、シークエンスだらけであるにも関わらず尺がほぼ倍になっているのはなぜなのか。ただ銃撃シーンの迫力は見事で、この部分だけなら数倍のヴァージョンアップになっているといえる」

      • 『パルプ・フィクション』/有機的に結びつかないただの断片(映画感想文)

        クエンティン・タランティーノ監督の2作目の長編作品のタイトルは『パルプ・フィクション』(94)。その意味するところは、文芸的ではない、娯楽読み物を掲載した「三流雑誌」。その名の通り、一本の映画のなかにいくつかの物語が詰まっている。 公開当時はその構成も話題だった。バラバラに思える複数のエピソードが絡み合うスタイルの作品は当時はまだあまり知られていなかった(なくはない)。 作品を観た知人やメディアの評価は(カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞したという前評判も相まって)高く、

        • 『シビル・ウォー/アメリカ最後の日』/法が瓦解した世界の恐ろしさ(映画感想文)

          戦争にはもちろん反対だ。現実の問題として国ごとに領地の地理的条件や貧富や軍事力の格差、さらに歴史上の事情があっても、他国に攻め込むなどしてはならない。理性をはたらかせるべきだ。すべての為政者に思いやりがある等とお気楽に思っちゃいないが、越えてはならない一線がある。 だがそういいながらも、理不尽に攻めて来る横暴な他国にはどう対処するべきか、と問われれば軍事的に対抗せざるを得ない、というのが残念ながら僕の思考の限界だ。「もし暴力をふるわれ清明が脅かされる危険が迫ればどうするか。相

          『ジョーカー/フォリ・ア・ドゥ』/「もう無理だ!」と叫んだ二人の男(映画感想文)

          『ジョーカー/フォリ・ア・ドゥ』(24)を観た。 監督は前作に続きトッド・フィリップス。「フォリ・ア・ドゥ」とは一人の妄想が別の一人に感染し妄想を共有する精神障害の状態を指す。三人ならフォリ・ア・ドライ。 「『フォリ・ア・ドゥ』はミュージカルだ」と公開前からいわれていたようだが、僕は別にミュージカルに偏見はなく(特に好きでもないが、…)、鑑賞前には情報を入れたくないクチなので先入観なしに臨んだが、その点について感想を述べれば「これ、ミュージカルか?」だ。物語に唄が落とし込まれ

          『ジョーカー/フォリ・ア・ドゥ』/「もう無理だ!」と叫んだ二人の男(映画感想文)

          『ラストマイル』/立ち止まって、変われたら(映画感想文)

          優れた物語の「形」のひとつは、人物の価値観が変わることだ。 異なる価値観を持つ二者が出会い、対立しながら融和する物語も魅力的だが、ひとりの人のなかにある見方や考え方が、何かしらの出来事(や人)と出会い変わる、いい方向へと変化する、それまで思いもよらなかったことに気付く、というのが理想的な物語のひとつの「形」だと思う。 TBSグループの中核会社が制作を務める映画『ラストマイル』(24)を観た。 これまでTBS系の金曜ドラマとして放映された『アンナチュラル』(18)、『MIU4

          『ラストマイル』/立ち止まって、変われたら(映画感想文)

          『機動警察パトレイバー the Movie』/エンタメとして成立した時代(映画感想文)

          大学で出会ったK(前回の映画オタクのとは別の人物)から僕は多くのことを学んだ。映画についてはほぼすべてを。演劇や絵画についても多くのことを。p.k.ディックについても。いちばん大きかったのは作品を鑑賞する際に「誤解してもいい。受け取った側の主観でいい」と教えられたことだ。それで僕は無知の呪縛から解放された。代わりに僕は彼に、洋楽を、日本文学を、邦楽も教えた。僕が教えることが出来たものは彼から受け取ったものと比べればほんの僅かだ。 Kとはいろんなことを話したし教えてもらったが

          『機動警察パトレイバー the Movie』/エンタメとして成立した時代(映画感想文)

          『ジョーカー』/孤独を何とかしなくちゃ、…!(映画感想文)

          続編『ジョーカー/フォリ・ア・ドゥ』の公開を控えてリバイバル上映していた『ジョーカー』(19)を観に行く。今回は直前にスコセッシ監督の『タクシードライバー』(76)で予習もした。 ずいぶん昔の思い出話になるが『タクシードライバー』を最初に観たのは大学2回生の春だった。 時期をなぜ覚えているのかといえば2回生で履修したある授業の教授(文芸学科の教授だが映画好きで知られていた、…というのを後で知った)が初回の授業で「次回までに観ておくこと」と課題を出したのがきっかけだからだ。どれ

          『ジョーカー』/孤独を何とかしなくちゃ、…!(映画感想文)

          『マミー』/違った方向に組み立てればよかったのに(映画感想文)

          和歌山毒物カレー事件は98年7月に起こった毒物混入・無差別殺傷事件で、4人が亡くなっている。 10月に付近住民であった主婦が別の保険金殺人未遂および保険金詐欺の容疑で逮捕。このとき夫も別の詐欺事件と同未遂容疑で逮捕、起訴される。のち捜査の過程でさらに別の殺人未遂、詐欺容疑が出て再逮捕。 7月の夏祭り時に人々を死に追いやった毒物は亜ヒ酸だったが、これらの保険金詐欺に用いられたものと事件に用いられたものとが同種と判定され、主婦は12月に殺人・殺人未遂容疑でまた逮捕、起訴され、02

          『マミー』/違った方向に組み立てればよかったのに(映画感想文)

          『ソウルの春』/いや、それは確かに事実なんだが、…問題(映画感想文)

          映画『ソウルの春』(24)は、79年に韓国で実際に起こった朴正煕大統領暗殺事件の直後から始まる。『KCIA南山の部長たち』(20)が描いた事件の、そのつづきになっている。 『KCIA』でイ・ビョンホンが演じた情報部部長は、映画の最後に軍へとむかう選択をするが、それはモデルとなった金載圭中央情報部部長が国軍保安司令部に逮捕された事実に基づいている。 絶対権力者として長らく君臨していた朴正煕大統領は、韓国の経済成長に大きく貢献するも、自身に都合の悪い相手には非情な手段や非合法的か

          『ソウルの春』/いや、それは確かに事実なんだが、…問題(映画感想文)

          『密輸1970』/韓国の70年代、…?(映画感想文)

          タイトル通り、『密輸1970』(24)は1970年の韓国の漁村が舞台。 男たちは船で漁に出ているが村は貧しく、それだけでは十分な稼ぎが得られない。女も海女として沖へ出て、貝などを獲り生計を立てている。だが70年代は韓国にとって経済発展とともに工業化が進んだ時期でもあり、彼女たちの村に近い地域にも続々と化学工場が作られている。工場から流される廃棄物で海は汚染され、貝は死んで腐り、稼ぎは上がったりだ。 抗議しようにも世間は経済発展まっしぐら、貧村の貧しい漁民の声などどこにも届かな

          『密輸1970』/韓国の70年代、…?(映画感想文)

          『チルドレン・オブ・ザ・コーン』/これぞキング! と思うのだけど(映画感想文)

          劇場で手渡しで貰ったチラシ(「CORN GOD」のタイトル入りでアイザック、マイカ、イーライの顔写真が入った「3」までをまとめたもの)にはこう書かれていた。 「スティーヴン・キングの『トウモロコシ畑の子供たち』を原作とした人気ホラーシリーズ『チルドレン・オブ・ザ・コーン』は『ヘル・レイザー』や『ハロウィン』にならぶ長編ホラーシリーズにもかかわらず、第一作目である『チルドレン・オブ・ザ・コーン』(84)が日本未公開であるという衝撃的事実が発覚した。この由々しき事態を解決するべく

          『チルドレン・オブ・ザ・コーン』/これぞキング! と思うのだけど(映画感想文)

          『フェラーリ』/弱くて甘ったれの、自分勝手な帝王(映画感想文)

          昭和生まれの男子にとってスーパーカーといえばフェラーリかランボルギーニ。憧れだった。 『フェラーリ』(24)の主人公はそのフェラーリの創業者エンツォ・フェラーリ。 巨大な帝国を築き上げ、経営面でも以外でも訪れた様々な危機を乗り越えた頑固で老獪な男。演じるのはアダム・ドライバー。 公式ホームページには「F1界の帝王と呼ばれた男の情熱と狂気を圧倒的熱量で描く、衝撃の実話。」とある。監督はマイケル・マン。あの『ヒート』(95)のなどといまさらいうまでもなく“男”を撮らせれば右に出る

          『フェラーリ』/弱くて甘ったれの、自分勝手な帝王(映画感想文)

          『大いなる不在』/声と肉体がもたらす啓示(映画感想文)

          ヤングケアラーという言葉どころか認知症という言葉でさえ、ほとんどまだ聞かれることはなかった。「ボケ老人」とあたかもそれが特殊な事例のように誹謗混じりに世間でいわれていた頃、僕は祖父を、それから祖母の面倒を看ている。中学2年の春からだった。 別の家で暮らしていた祖父がある日帰ってこなかった。 翌日保護されて初めて、いわゆる認知症であることが発覚。いっしょに暮らしていた祖母は大事になるまで気付いていなかった。気付かない生活に原因があったと思うのは僕の勝手だ。 父が祖父を引き取ると

          『大いなる不在』/声と肉体がもたらす啓示(映画感想文)

          『キングダム/大将軍の帰還』/バランスと取捨選択の思い切りがいい(映画感想文)

          『キングダム/大将軍の帰還』(24)はシリーズ4作目にして最終章。 原作のマンガはまだまだ続いているので、いったんここらで区切りとするということだろう。役者も年齢を重ねイメージと乖離もするし、ある役者がこれまで演じていた人物をまた世代を越え別の役者が担うのもいいと思う。10年ほどして再スタートすれば営業宣伝的な効果もある。ひとつのコンテンツを「これでもか」と集中的に擦り過ぎるのは『SW』を引き合いに出すまでもなく、観客を食傷気味にしてしまい、挙句は粗製濫造、…。 時間を空けて

          『キングダム/大将軍の帰還』/バランスと取捨選択の思い切りがいい(映画感想文)

          『デッドゾーン』/覚悟が少しも突飛に思えない(映画感想文)

          昨日の一事で、クローネンバーグ監督の『デッドゾーン』(83)を観直そうと思った人は多いのでは。 ネット上でも、狙撃されたあとの現実の大統領候補者と、映画のなかの上院議員になろうとしている男の対応を比べて取り沙汰されている。 現実の対応の方が創作上のヒーロー像に近かったのはなんとも驚きだ。今件はきっと多くの人に影響を与えるに違いない、…。人びとの望む強くて臆すことなく行動する為政者のイメージが完全に出来上がってしまい、共和党は偏狭で厄介だと海のこちら側で思っている僕にさえ「いま

          『デッドゾーン』/覚悟が少しも突飛に思えない(映画感想文)