『フェイス/オフ』/情熱をもって振り切れ! 最高の〇〇映画(映画感想文)
難解で高尚で小理屈映画偏重だった僕は『ダイ・ハード』(88)と『ロボコップ』(88)でそのこじらせ思春期を終える。細部のディティールや王道の魅力や個性的で独創的なアレンジや、…とそれでも何かとこじつけるクセはいまだに直っていないが。
先日ひさびさにジョン・ウー監督の『フェイス/オフ』(97)を鑑賞。
先に上げた2作からアクション映画への偏愛は始まり、その頂点はこれだという思いに狂いはなかった。トラボルタとニコラス・ケイジが怪演といってもいい狂気の演技を繰り広げる。『フェイス/オフ』はやはり傑作。ジョン・ウー節も全開。
ニコラス・ケイジ演じるキャスター・トロイは依頼を受け大規模テロを起こして社会を混乱に陥れるフリーランスのテロリスト。主義主張のない享楽的な組織犯罪者だ。FBI捜査官のアーチャー(こちらがトラボルタ)はキャスターを追っている。かつて彼は報復狙撃をされその際に幼い息子を巻き添えで失っている。キャスターは息子の仇でもある。
執念の捜査が結実しついにキャスターを逮捕するがロサンゼルス某所に細菌爆弾が仕掛けられていることが判明。在処を訊き出さなければ甚大な被害が出る。しかしキャスターは逮捕の際の激闘で昏睡状態。一味のひとりでキャスターの弟ポラックスに白状させようと画策するが、軟弱者でオタクだが奸計に長けたポラックスの口を割らせることができない。
そこで考え出された策が最新技術により昏睡状態のキャスターの顔を剥がし、アーチャーの顔と交換することだった。キャスターの顔を得たアーチャーはポラックスの収監されている刑務所に入り、ポラックスを騙して爆弾の在処を訊き出す作戦だ。だが不測の事態がアーチャーが刑務所にいる間に発生する。キャスターが意識を回復、なんと彼は保管されていたアーチャーの顔を自分のものとしてしまう。凄腕捜査官と稀代の凶悪犯罪者の二人が顔を入れ替え、戦うことになる。
なによりこの莫迦化た外連のある設定をまったく疑わせずに突き進める監督がスゴい。
フツーに考えれば「そんなアホな」といいたくなる話なのだ。よしんばトラボルタ演じる捜査官のアーチャーが犯罪者一味の弟に近づくためにキャスター(ケイジね)の顔を借りる、…ところまでは映画として「まあ、アリかな」と思えても、なぜそのあとで(都合よく)意識回復したキャスターがアーチャー(トラボルタの)顔を自分に付けるのか?! まあ顔がないと活動しにくいということもあるのだが、トラボルタに「おれの顔を返せ」といいながら、施術した医者を殺しちゃうんだから。なんともツッコミどころは満載。が、この映画、そんな指摘も無効化するほどカッコいい。
思えば『ワイルド・アット・ハート』(90)のケイジも、『パルプ・フィクション』(94)のトラボルタもそうだった(『バトルフィールド・アース』はこれよりあとの00年)。
二人とも設定のバカっぷりを疑うことなく役柄になりきっている。ケイジの極悪で振り切れた下品さはどうだろう。アーチャーの仕事一徹ぶりは。
ケイジは女とみれば誰でもせまり(好きなプレイは「舌を吸わせること」)その直後ピンチに陥ると、いまのいままで突き出した自分の舌を吸わせていた女性を盾に投げ捨てる、最悪の凶悪人だ。
アーチャーは家庭を省みない仕事バカで、妻に日記に「もう夫に二か月も抱かれていない」と書かれている。この「舌」と「二か月」は一例だがこういった些細なディティールだけでも映画の容赦なさっぷりは伝わるだろう。この映画、すべてが細部までやり過ぎなのだ。
チャーター機に乗り込もうと飛行場の滑走路に現れたケイジのコートの風のはためき具合。襲撃された際に二人が対峙し、構える二丁拳銃。いわずもがなの舞う白いハト。銃撃戦の最中居合わせた子どもを怯えさせないようにとヘッドフォンを装着させ、そこから流れる「オーバー・ザ・レインボウ」をバックに行われる壮絶な撃ち合いの美しさ。
この数年後にジョン・ウーはクルーズの『M:I2』を監督するのだが、こうして観ればあの大作にしてシリーズ最高傑作の『2』も『フェイス/オフ』の焼き直しだ。
この映画にリアリティを与えているのは監督の美学へのこだわりもさることながら、二人の役者の振り切れた狂気の演じっぷりなのだ。
ケイジは先程書いたように下品で卑劣で大胆な犯罪者だが、顔が入れ替わり中身がアーチャーとなると、なんとも誠実で弱い立場の男に変わる。真面目で頑固で絵にかいたようなツマラナイ仕事人だったトラボルタは、中身がキャスターに変わった途端ロックスターばりの軽薄でしかしゴージャスな振る舞いを違和感なく行う。アーチャーの聡明な妻の「二か月」云々の日記を盗み読むのは(中身キャスターの)トラボルタだが、彼はそのあと妻を労り豪華でムーディな夕食を用意し彼女を喜ばす。
(中身がアーチャーの)ケイジは悪党仲間を頼りアジトにむかうが、そこで恋人から自分の子どもだといわれた少年を誠実に守り強さを発揮する。
『転校生』や藤子F不二夫ばりの逆転コメディになりかねないところで、クスっと笑わせながらも息をのませぬ展開を支えるのはこの二人の豹変といってもいい芝居で、二倍、いや2×2以上の演技が楽しめる。
カットをただ細かく割って誤魔化すなんてことはしない。シチュェーションの作り出すジレンマのスリルに溢れたアクション映画の傑作。失笑を買うような莫迦化た思いつきも、こだわりまくってスタッフ、キャストが情熱をもってやりきれば、大変な傑作が出来上がるという手本のような(莫迦)映画。