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千手観音

 身体障碍の私は、電動車椅子で韓国・釜山にひとり旅を試みた。釜山の地下鉄は全線バリアフリーと聞いたからである。
 心のバリアフリーも進んでいた。段があるところや急な坂道などで戸惑っていると誰か彼かが走ってきて、手伝ってくれた。地元の大阪でも助けてくれる人はいるが、この「走ってくる」というところに韓国人気質があるのではないかと感じた。
 ショッピングセンターなどで私が通る間、ちょっとドアを押さえておいてくれた手を含めると、私はこの旅で無数の韓国人に助けられた。もう顔も思い出せない無数の見知らぬ手。私たちのアジアには「千手観音」という美しく象徴的な菩薩像がある。その「千手」とは、たとえば、この旅で出会い、私を礼遇してくれた無数の見知らぬ手のことではなかったか。そう思うと今でも心が温かくなる。


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