目指せキッザニア!「子どもにAI開発の楽しさを届けたい」大人たちの本気を見てくれ
2019年8月。夏休みも終わりにさしかかったある日、未来のAI人材を育むイベント「AI FOR KIDS」が東京都・港区のオフィスで開かれた。AIについて知識はないけれど、ちょっと興味がある。そんな小中学生たちが集まった。
この日は、AIに学ばせるためのデータを集め、学習させて、AIをLINE botに実装するまでをひと通り体験できるプログラムが組まれた。
プログラミング経験がなくても大丈夫。キッズたちの誰もが「AIモデルの開発者」になれるのだ。
まずは、AIモデルのラベルを設定する。これから開発するAIの判定結果として出てくるため、とても重要。まずは、犬、猫などわかりやすいものから設定していく。
次に学習データの準備。犬・猫などラベルで設定した写真を学習データとして集めていく。そのデータをAIに学習させる。30枚ほどの写真をひとつのAIに学習させるのに、10分ほど。
学習が終わったら、LINE botにAIを実装。LINEのトーク画面に写真を貼ると、AIがすぐに判定し「猫に見える」「犬に見える」と答えてくれる。
ハムスターとモルモットとハリネズミをAIに学習させてみた。わくわくしながらAIの判定を待つ。ハムスターとモルモットといった似たもの同士はAIも判定を間違うことがあった。人間が見ても判断が難しいものは、AIも同じように難しい。
みんな楽しそう。子どもたちの笑顔が、このイベント大成功の証だ。
AI人材を増やすためにできること
ここからはプロジェクトの裏側を紹介する。きっかけは「日本政府が2025年までにAI人材を25万人を目指す」というニュースがABEJAの社内で話題になったこと。
AI人材を増やすために、AIのスタートアップとして何かできることはないだろうか?
そうだ。子どもにAI開発を体験してもらおう。
こうして、夏休み企画「AI FOR KIDS」プロジェクトが立ち上がった。
社内で有志が続々と集まってきた。しかしメンバーそれぞれ日々の業務が立て込んでいるため、なかなか前に進まない。
メンバーの一ノ宮朝子さんが草案をまとめてくれた。「コレは絶対に形にしたい企画。こういうプロジェクトって放っておくと消えていっちゃうから(笑)」。そう話しながら、彼女が旗振り役になってくれた。
えらい。PMだいじ。おかげで山が動いた。
一ノ宮さんは、ABEJAで広報を担当している。「日本はAI分野では後進国」といった指摘もあるなか、内に秘めたある思いがあった。
「AIのスタートアップだからこそ、子どもにとっての、AIはじめの一歩を踏み出す機会を作っていきたい。たとえば、“子どもが憧れる職業ランキング”にAIエンジニアが入ってくるとか、(子ども向け職業体験施設の)キッザニアでAIの仕事が体験できるようになる。そんな世界に近づけたい」(一ノ宮さん)
ABEJAには子育て中のスタッフも多く、アイデアを出し合ったりして機運が高まっていった。AIができるまでを理解してもらうために、どんな形で体験してもらうのがいいのだろう? 社内でヒアリングしながら模索する日々が続く。
やるからには、AIエンジニアが本気で開発
今回のイベント向けにAI開発ツールを手掛けたのは、AIエンジニアの藤本敬介さん。普段は企業向けのAIプロダクト開発や研究に関わっている。いつもおにぎりを作るスピード感でAIモデルを開発する稀有な人物だ。心強い。
藤本さんが制作したAI開発ツールのプロトタイプをさっそくメンバーで触ってみると……。
AIの判断プロセスは複雑でブラックボックスと言われている。だからこそ、AIの仕事に携わっていても、実際に開発してみないとなかなか理解できないのが実情だ。
それでも機械学習を実際に体験してみると、「ああ、これがAIね」「なるほど、こういうことか〜」と実感が湧いてくる。
メンバーたちは感動に包まれた。「今より深く学びたくなった」というプロジェクトメンバーの安宅雄一(あたか・ゆういち)さんは、すぐに『Udemyキカガクセミナー初級編』を受講する勢い。
デザインどうする?
しかしここでひとつ問題が。今回の企画は「AI FOR KIDS」というだけあって子ども向けのイベントだ。AIを楽しく学んでもらうためには、デザインも親しみやすいものを用意したほうがいいのではないか。
UI/UXに悩んだ藤本さんは、ABEJAのプロダクトデザイナーの上野真由美さんに相談を持ちかける。
「呼びましたか?」(デザイナーの上野さん)。
ABEJAのプロダクトおよび、サイトのデザインやロゴなど幅広く担当している上野さんに、今回のデザインを考えてもらうことに。
ほどなくして、上野さんからデザイン案が上がってきた!ジャーン!
「AIってカタイんですよね(笑)。子ども向けだからカラフルな方が楽しいかなって思ったんです。今回の参加者は小・中学生だったので大丈夫でしたが、字の読めない子でも“〇〇色の画面”と言えば伝わるよう、ページごとに色を変えてみました。デザインにかかった時間は、だいたい2時間くらいですかね」(上野さん)
このデザインをたったの2時間で。これがプロの実力かぁ。
上野さんが書いたワイヤーを元に、藤本さんがコードを書いてデザインを反映させていく。藤本さんがこのプロジェクトでもっとも苦労したのは、この作業だったと話す。
「私はふだん機械学習の技術を開発していますが、フロントエンドページを作ることは初心者だったので苦労しました。ここにボタンを置きたい、でもどうすれば……と。 “ボタン 右に寄せる”とかで検索して調べながら、ひとつひとつ書いていったので、思いのほか時間がかかりました」(藤本さん)
(ここで、完成した開発ツールのデモを動画でご覧ください。)
当日のスライド作り、Tシャツの発注、デモ用機材のレンタル手配、リハーサル、こまごました準備を重ねて本番を迎えたのだった。
開発担当の藤本さんはAI FOR KIDSプロジェクトをこう振り返る。
「エンジニアって普段、開発したものをお客さんが実際に使っている姿ってほとんど見ることがないんですよ。今回は目の前で見られてよかった。機械学習をやっている身としては、なるべくたくさんの人に知ってもらいたいという思いがあります。機械学習を理解する人が増えれば、それをどう使うか、アイデアや知見が集まってくる。未来を担う子どもたちが、普通にディープラーニングできる世界ってイケてると思うんです。それを実現したい。学校のプログラミング授業でも使ってもらえたらいいなあ」(藤本さん)
司会(先生役)を務めた安宅さんは、IT教育系の企業から半年前にABEJAにジョインした。現在は企業向けAIのカスタマーサクセスを担当している。
安宅さんは個人の活動として、子どもたちに算数を教えるワークショップを、夏休み期間中にほぼ毎週手伝っているそうだ。子どもの頃の原体験と「もっとこういう勉強したかったなあ」という思いが重なり、楽しく学べる場づくりをライフワークにしている。
「今回のAI FOR KIDSは、まさに私のライフワークの延長でした。自分自身も、AI開発を体験できて学ぶことの楽しさを思い出すことができた。目の前で子どもたちの可能性が広がっていく姿が見れることがうれしいです。子どもたちの笑顔を見て、この瞬間のために生きているのかなって思いました。これをきっかけにAIに興味を持ってくれたら本望です」(安宅さん)
本プロジェクトの裏側は以上です。
ご参加ありがとうございました。またどこかで〜〜
(取材・文:川崎絵美 写真:川しまゆうこ 動画:足立光作 編集:錦光山雅子)
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