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NO----------(訳:なぁんてねー)

最近、私はある言葉に取り憑かれている。
すきあらば真似をしてなんども声に出して言う。
その言葉を発している人物が、その瞬間は
なんならちょっと自分に乗り移っている気すらしている。

それが、タイトルの「NO----------」である。
英語で書くとうまくニュアンスが
伝えきれないのだけれど、音にすると
「ヌォォォォォウゥ」みたいな感じだ。
時々は、「イェェス?」と言ったりもする。
一体なんのバカ騒ぎなのかというと、
すべてはゴールデンウィーク中に観た
ある映画のせいなのである。 

サシャ・バロン・コーエンという俳優を
ご存知だろうか。
私が彼と出会ったのは、
「レ・ミゼラブル」という映画で、
メインキャストたちのあれやこれやの
盛り上がりを横目に、売春宿の主人として
登場したサシャの目の光の尋常ならざる
気配に「なんだこの人・・・」と気持ちを
かき乱されたのである。

見目麗しい
(端的に言えば好きな顔だということです)
エディ・レッドメインに、わかりやすく
心は惹かれつつも、気になって仕方ないのは
私にとっては美しいというわけではない
サシャである、映画館を出た後
しばらく忘れられなかったのもサシャである
という事態に陥っていたのである。

さて、そんなサシャ・バロン・コーエンは
イギリス出身の俳優で、今回私が見たのは
ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのための
アメリカ文化学習
】という映画だ。
カザフスタンの人気ジャーナリスト役のサシャが
アメリカを訪問してその文化を学び
祖国に知らせる、という内容で、
結論から言えば賛否が分かれるというか、
おそらく1:9くらいで否が多いかもな
とは思うのだけれど、私は好きだった。
とても。

特に好きなのは、

・カリフォルニアへの道に迷って、
危険な地域と思われる場所で車を降り
黒人のラッパーみたいなお兄さん達に
丁重な言葉遣いで話しかけるところ

・マナー講師に"正しい"マナーを教わって、
それを一般の(恐らくある程度裕福で親切な)
アメリカ家庭のディナーに呼ばれ
実践して見せたところ

・ホテルのテレビで見て一目惚れした
ブロンド美女のサイン会で遂に本人に
会えたのに、完全なる変質者として
つまみ出されるところ

・アメリカ一般家庭のディナーで
同席してもらおうとして、拒否された
ふくよかなコールガールのお姉さんを
迎えに行く最後

彼は(役柄を全うしているだけだとはいえ)
徹底して「極めて純粋なる好奇心」で
あらゆることに突進していく。
人が怖がって近づかない、
それゆえ語り合うチャンスをもらえない、
それゆえ他者と距離ができて
いくのであろう人たちへも、
どすどす話しかけていく。

一方で、「私たち(僕たち)は周囲のことや
人を気にかけています」
「いい人であろうと努力しています」
という人たちは、
彼の純粋すぎる好奇心によって、
ぽーーんと本心をつかみ出されて
観客に露呈されてしまう。
誰にでも丁寧に親切に接する、
感じよくしていることが
マナーの基本なのよと言いながら、
自分たちの立場とは相容れない
コールガールが家に現れただけで
「ディナーはお開き」
「招待するなんてありえない」と
憤慨していることの
ねじれに気づかないまま。

ボラットは素知らぬふりして
「私はこちらの文化を知らないだけですので」
という態度で、
彼が感じる不思議なところを
どんどん紹介していく。
自分達の文化を知らない、
よくわからない遠い国から来た
「仕方ない人」に教えてあげよう、
という態度を取っている間に、
逆にボラットにいい人の薄皮を
剥がされていった人たちは
「野蛮で困った人」とボラットを片付け、
終わらせ、自らを納得させようとする。
理解ではなく。

私が最近気に入っている
「No---------」は
アメリカのコメディー講師なる
人物に彼の国でウケるネタとして
ボラットが教わった言葉の1つだ。
目に見えていることとは逆のこと
(例えば黒いスーツを着ているのに
「そのスーツは白い」ということ)を
言った後で、一拍おいて
「No-----------」(なぁんてねぇ〜)
という、ジョークらしい。

何度教わってもボラットは
適切な使い方ができず
(できないという演技だけど)
講師は困ったような顔をしていたけれど、
それの最大の見せ場が、パメラという
一目惚れした美女を「花嫁袋」に
入れて連れ去ろうとしたボラットが
セキュリティーに引っ張って
行かれる場面で訪れる。

「僕はもう君のことなんて
全然好きじゃないよーーーーーーーー」

「なぁぁぁぁぁんて
ねぇぇぇぇーーーーーーーー」

コールガールのお姉さんに、
せっかく来てもらったのに
夕食に参加してもらえなくて
済まなかったと詫びつつ、
ボラットは彼女とナイトクラブに行って
一緒に踊りまくる。
丁重に家に送り届けた後、
彼女の家の階段を降りながら彼はぽそっと呟く。

「君だけが僕の名前を正確に発音してくれた」

あの映画の露骨な描写に
眉をひそめる人もいるかもしれない。
でも私は
【続・ボラット 栄光ナル国家だった
カザフスタンのためのアメリカ
貢ぎ物計画】
も観る。ぜったいに。



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