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大手メーカー開発者が32歳で転職し、おむつを履いて100回排泄実験した理由

「おむつを開けずに中が見たい」
「体に機械をつけてほしくない」
「尿と便、どちらもわかるようにしてほしい」

介護職の方々の願いをかなえるべく、開発されたのが”におい”で検知・通知する排泄センサー「Helppad(ヘルプパッド)」です。

これなら介護現場の願いをかなえられる! 喜んだのもつかの間、次に立ちはだかった壁は「本当に、排泄を識別できるのかどうか」。実証するには、おむつを履いて排泄する”排泄実験”の被験者が必要です。しかし、そんな実証実験に協力してくれる人がそう簡単に見つかるわけもありませんでした。

宇井が、「データを取るには、尿と便を誰かが排泄しないと始まらない。この際、2人でオムツを履かない?」と持ちかけても、谷本はあっさり断った。

「どうしても履けと言うなら、オレは会社を辞める」

工学部の出身ながらも、「ハンダづけさえまともにできない」宇井は、「不器用な私ができるのは、表でプレゼンして資金調達をしてくるぐらい。私がやるしかないな」と腹を決めた。

https://www.businessinsider.jp/post-252876

創業当時のabaのオフィスは千葉県習志野市のアパートの一室でした。そこで創業者であり、代表取締役CEOでもある宇井吉美さんは自らおむつを着用し、ひたすら《排泄実験》に励んだのです。その様子は今も、さまざまなプレゼンテーションで紹介されています。

「初対面の方を目の前にして大変恐縮ですが、もうすぐわたしが排尿します」

多くの人をギョッとさせ、度肝を抜いてきたこの《排泄実験》ですが、実は宇井さんの専売特許ではありません。冒頭で紹介したように、CTOの谷本さんがあっさりおむつ着用を断っている一方で、100回以上もの排泄実験に参加しているabaメンバーもいます。

なぜ、排泄実験に参加しようと思ったのか。実際に、参加してみてどうだったのか。

転職時の代表取締役CEO面接で「おむつを履き、排泄実験できます」と宣言。入社後は多くの排泄実験に参加してきた、小暮泰生(こぐれたいき)さん(カスタマーサクセス部・部長)に当時を振り返ってもらいました。


私が転職面接で「排泄実験できます」と宣言した理由

排泄実験に参加しようと思ったきっかけは、2019年にCEO宇井(以下、宇井)の講演を聞いたことです。当時、私は大手住宅総合機器メーカーで洗面化粧台の開発や海外事業などに携わっていました。新入社員の頃、温水便座の開発にあたって、開発者が自ら水の温度や角度を実際に試しながら、試行錯誤を重ねた話を聞いています。

宇井の講演の中で、CTO谷本と行った排泄実験のエピソードが紹介されたとき、新入社員研修で見聞きしたエピソードを思い出すと共に、abaの開発姿勢に強く共感しました。

宇井が排泄実験していた様子

開発者として、自分が納得したモノを自信を持って提供をしたい。それは転職を考え始めたときに「どうしてもabaで働きたい」と考える動機にもなっています。

ただ、当時のabaの求人は開発職はなく営業職のみでした。前職では、営業経験はまったくなかったにも関わらず、勢いで応募しました。宇井との面接で「最後に質問はありますか」と聞かれたとき、とっさに「おむつを履いて、排泄実験もできます!」と言った理由は自分でもよく覚えていません。

熱意を伝えることで、営業経験がないことをなんとか補いたいという心理が働いたのかもしれません。排泄実験に参加することでabaの一員になれると思ったような気もします。その情熱が伝わったおかげかどうかは分かりませんが無事、営業職として採用され、入社1年後に排泄実験に参加する機会が訪れました。

実験の目的は「排泄した時間を正確に把握すること」

2022年当時、abaでは次世代機の排泄センサーHelppad2を開発するため、新たな排泄実験が始まっていました。初代Helppad(Helppad1)の排泄データを引き継ぎながら、さらなる進化を目指すフェーズにあったのです。

このときの実験で最も重要なのは「排泄した時間を正確に把握すること」でした。排泄センサーには人の動きに反応するという特性もあります。そのため、より良いデータを取得するためには「排泄後は動かずにいること」も求められました。

排泄実験のプロセスは以下の通りです。

  1. ベッドの上に排泄センサーを設置し、電源を入れる。

  2. おむつを履き、排泄センサーの上に30分間横たわる。

  3. 排泄センサーの上で排泄を行い、時間を記録する。

  4. その後も120分間、動かずにいる。

排泄実験プロセス説明図

排泄した時間はもちろん、体を動かしてしまったときは時間を記録します。おならが出たときも同様に記録をつけます。いったん排泄した後、120分間の待機時間の間に再び、もよおすこともあります。そのときは再び排泄しても構わないませんがやはり、しっかりと記録をつけておくことが大切です。

「おむつに排泄」よりつらかった待機時間

「健康な人がおむつで排泄をしようと思っても、なかなかできるものではない」とよく言われます。

しかし、私にとって「おむつでの排泄」そのものはさほど苦労せず、抵抗感もありませんでした。皆が日常で行う排泄を業務で行うだけ、というような感覚で実施しました。

過去に幾度となく排泄実験を経験していた宇井という”大先輩”がいて、「膝を立てたほうが便が出やすい」(ベッド上だと踏ん張りがきかないため)などの助言をもらえたのも大きかったかもしれません。

一方、排泄をした状態で120分間、動かずにキープするのは想像をはるかに超えてつらいものでした。排尿後、おむつが尿を吸収してくれるとはいえ、足の付け根は常にじっとりと湿った状態になります。便はおしり周りに、なんとも言えない感触が残ります。尿はいずれ乾くが、便はそのまま居続けるので………。

でも、良いデータをとるためには、なんとか耐えなくてはいけません。実験のたびに、ほぼ修行のような気持ちで120分間を過ごしました。

自宅で排泄実験をしている様子

排泄実験を乗り越える工夫

繰り返し排泄実験を行う中で、効果的な工夫や秘訣も分かってきました。いくつか紹介させてください。

  • 排便リズムに合わせて排泄実験を行う

  • 便が固いと排泄しにくいため、コーヒーを飲み、少しおなかを緩くする

  • 実験の準備を欠かさず行い、排泄できる環境を整える

  • トイレに行くような感覚でおむつを履き、実験を行う

  • 排泄後はベッド上でパソコン作業に没頭する

  • 社内会議で打合せをしながら、同僚から「頑張って」と応援してもらう

排便するために頑張ると宣言した社内チャット

「夜中に排泄実験を行い、120分後にアラームをセットし、体を動かさないように寝る」というのも良い作戦でした。起きた状態で動かずにいるよりも、そのまま寝てしまう方がラクでした。難点は、後始末です。物音をたてて家族を起こさないよう、細心の注意を払いながら、そっと風呂場に行き、静かにシャワーを浴びていました。

発売イベントの朝、CEOの言葉に涙ぐむ

私が、Helppadを次世代モデル(Helppad2)に進化させるための排泄実験に参加したのは、2022年8月~2023年4月のことです。その後も高齢者施設などの協力を得ながら排泄データの収集は続いていますが、社員の排泄データの収集・検証は2023年春で一段落しています。

ついに迎えた発売イベントの日。当日の朝、CEOの宇井が「ようやく自信を持って『おむつを開けずに、中が分かるようになりました』とお伝えできる排泄センサーができました」と会場にいる方々に伝えるのを聞いたとき、不覚にも涙ぐんでしまいました。

排泄センサー「Helppad2」は身体非装着、尿だけではなく、便も検知できるのが特長。
介護職の方々の願いにこたえるべく、abaは奔走し続ける

「排泄実験に参加する?」と再び問われたら、迷わずイエスと答える

気づけば、100回以上の排泄実験に参加していました。

最初の10回は勢いで、30回までは惰性で乗り切れました。しかし、折り返し時の50回まで来た時には「なぜこんなことをしているのか」「この行為は意味があるのか」という思いがちらついた瞬間もありました。

Helppad2をはじめ、介護の願いをかなえた6つプロダクトが一堂に会した「ねかいごと」イベント

しかし、そこに明確な答えはありません。排泄データがなければ、次の開発段階に進めないためです。自分が排泄実験を投げだしたら、Helppad2が完成しないかもしれない。その一心でなんとか乗り切ることができました。

今はカスタマーサクセスの一員として、より良いHelppad2活用法を探るべく、時折おむつを履いてます

排泄実験は想像以上に大変ではありましたが、やりたいと手を挙げたことを後悔はしていません。今また「排泄実験をやれますか?」と聞かれたら、迷わず「できます!」と答えるだろうと思います。

執筆協力:小暮泰生
編集:島影真奈美


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介護職の方の願いから生まれた排泄センサー「Helppad2」。介護施設様を対象に、尿に模した液体(擬似尿)を用いた検知・通知デモンストレーションを期間限定で開催しています。この機会にぜひ、《においでわかる》をご体験ください。abaメンバーがみなさんの施設にお伺いします!

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