短歌「読んで」みた 2021/05/20 No.2
思い込む心にストップかけられずバターロールの生地は膨らむ
久保田智栄子 第一歌集『白蝶貝』(柊書房 2020年)より
たぶん、パンを焼いているところ。「パンを焼いている」と書いたが、焼く前段の発酵の工程あたりだ。時間を決めてパンは発酵させるものである。そうしないとどこまでも発酵してしまい、食味が損なわれる。
心情にも目を向ける。「思い込む」というからには静的・動的に関わらず、どこかかたくなである。そしてどちらかといえば暗い、表に晴れ晴れと出すものではないのではあるまいか。
捏ねたり時間を計ったり調理器具を洗ったり、手も頭も動かせば考えていなかったことが、発酵をただ待つ間に蘇る。果てしなく続く思考と止めなければ止まらない発酵、増大方向のものの並立が心情のよろしくない雰囲気をより際立たせている。
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この後どうなったのだろう。美味いバターロールに仕上がって、気分良くお腹に収まっていてくれたら、と思う。こうなるとわかっているから片付け物や掃除をしたりしてやり過ごそうとするのに、ふとした時に搦め捕られて際限ない沼へ落ちてしまう。私も思い込むと際限ない組合の一員なので他人事ではなく、これに目を留め歌にした作者に仲間に出会えた思いがしたものである。
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