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「香気成分」の調合 “梅”の香りを表現

前回は精油の調合についての話題だったが、今回は香りを構成する「香気成分」の調合実習についてご紹介したいと思う。


【香気成分】

まずは香りを作り出している成分とは何か?について触れてみよう。

音楽の世界には音符があり、この記号があるから世界中のどこでも同じ音楽が楽しめる。
香りの世界も同じように、香りを作り出す「香り分子」があり、元素記号を使って表記できるため、人々は香りを楽しみ、香りを再現することも可能となっている。

すべての物質は、原子とよばれる小さな粒からできており、原子が共有結合により集まったものが分子となる。
香り成分の分子が、人間が香りを感じる多種多様な揮発性化合物であり、それが香気成分というわけだ。

普段は目に見えない極微量の香気成分だが、世の中に存在する様々な匂いは数多くの香気成分から構成されており、その香気物質は約 40 万種類といわれている。

一つの食材だけでも200~1000種類の香気物質が含まれ、それぞれの食材に特有の香りを形成している。

例えば、単にイチゴの香味と言っても、その味を感じる受容体である舌の、舌咽神経と鼻の奥にある臭覚神経が同時に働くことで、イチゴを咀嚼した時の甘味、酸味を感じると同時に、イチゴに含有される約350種類の香りである「香気成分」が鼻の奥一杯に広がり、甘酸っぱいイチゴの香味を感知することになる。

イチゴ特有のフレッシュで熟れた香味は、350種の香気成分によって作り出されており、それが臭神経でキャッチされて初めて味と香りのハーモニーが実現するのだ。

それは食べ物だけに言えることでなく、日常生活で感じる香り全てにおいて言えること。

花の香りで言うと、例えばラベンダーやベルガモットなどに含まれる成分は数百種類にも及ぶそう。

もう本当になんのこっちゃ?だが、
とにかく香りというのは、「音楽でいうオーケストラのように、いくつもの楽器である香気成分のハーモニーによって、一つの楽曲という香りが作り出されている」のだ。

参考文献:エッセンス!フレーバー・フレグランス
~化学で読みとく香りの世界~


【香気成分の調合】

さて、香気成分についてサッと触れたところで、いよいよ香気成分の調合について。

ここからは、知っている人は分かる!
知らない人は、もっとなんのこっちゃ?になるが、
私自身も頭の上に???を浮かべたまま調合実習に臨んでいたので、諸々悪しからず。。(笑)


香気成分の調合のテーマは「梅」の香り。
ということで、梅を構成する成分がザッと並べられ、ここから自分のイメージする梅の香りに合うものを選んでいく…のだが、
選ぶといっても、ここに並べられたのは全て香気成分!

香気成分がズラリ

講義を受けている皆それぞれに「梅」の香りをイメージし、ほんのり香る梅の花をイメージする人もいれば、梅ジュース、梅キャンディをイメージした人もいる中、私は「フルーティな蜂蜜梅」の香りを再現することに…。

だが、成分の匂いを嗅いだところで…イメージも何もあったものではない。

精油のようなイイ香り~♪なんて一切なく、薬品っぽい謎な匂いが、もっと頭の中を謎にしてくる。


あたふたしている皆を見兼ねて講師の先生が、

Benzaldehyde(ベンズアルデヒド)は杏仁豆腐の匂いがしない?

cis-3-Hexenol(シス-3-ヘキセノール)は青っぽい、葉っぱの香りがするよね?

と、ヒントを出してくれた。
そう言われると、なんだかそう感じてくるような…!?

◎梅の花の香りの特徴成分

ここで、梅の花の香りの特徴的な成分を見てみる。

・Benzaldehyde / ベンズアルデヒド
・Benzyl acetate / 酢酸ベンジル
・Eugenol / オイゲノール
・Methyl jasmonate / ジャスモン酸メチル
・Linalool / リナロール

梅の花の香りの主成分は
ベンズアルデヒド (杏仁、アーモンドにも含まれる)や
ベンジルアセテート (ジャスミンのような香り)
オイゲノールなど、

梅の実
ベンズアルデヒド や ethyl acetate / 酢酸エチルなどのエステル類、
γ-decalacton / ガンマデカラクトン、γ-undecalactpn / ガンマウンデカラクトンというピーチやチェリーにも含まれる甘い成分のラクトン類が含まれている。

そしてリナロールはどんな花にも含まれており、花の香りを作り出すには必要な成分となる。

以上を踏まえたうえで、まずは「梅の香りの中心」となる成分を自分のイメージした香りを思い浮かべながら選んでみると以下の2つに絞られた。
・Benzaldehyde / ベンズアルデヒド
・γ-undecalacton / ガンマウンデカラクトン

◎香りの色付け

中心となる香りが決まったら、ここに色付けをしていく。

まずはフローラルさが必要なので
・Geraniol / ゲラニオール  (バラやゼラニウムの香り成分)
・Phenylethyl alcohol / フェニルエチルアルコール  (バラの香りを持っており、カーネーションやヒヤシンスなどの多くの花精油に含まれる)


そこに多少の青っぽさを足していく。
・Lonalool / リナロール
・cis-3-Hexenol / シス-3-ヘキセノール


そして最後に自分のイメージの香りには重要となる果実香。
・Isoamyl acetate / 酢酸イソアミル  (バナナのような香りのする成分)
・Ethyl hexanoate / カプロン酸エチル  (リンゴや梨、パイナップルなど甘酸っぱくみずみずしい香り成分)

どの成分を使うかが決まったら、そのままだと濃すぎるので全てを10%に希釈していく。

そこから、中心の香り、フローラル、青っぽさ、果実香で選んだそれぞれ2つの成分を、3:7  、5:5  、7:3の割合にして香りをチェック。
イメージに合わなければ、2:8にしてみたり、9:1にしてみたり…
もう気の遠くなる作業。

だが、成分同士を掛け合わせることで、青っぽさや果実香がちゃんとそれなりの香りになることに感動!


3:5から5:5にしたところで、どう違いがあるかなんて、このド素人にはほぼ分からないので、毎回先生にチェックしてもらいながら進めるが、先生がその僅かな違いで、どっちの香りの方が立っていると分かるのが本当に凄い!(当然だが…)

それぞれの割合が決まったら、次は、中心の香りに対してどれだけ色を付け加えていくかを決めていく。

私はフルーティさを重視したかったので、中心よりも果実香の方が多く、青っぽさはほんの僅かだけ。
そのベースにフローラルさを半分の割合で足すことで、なんと見事に華やかでフルーティな梅の香りが出来上がった。

若干フローラル感が強かったので、先生のアドバイスで“ミカン精油を一滴”
それだけで香りのイメージがガラリとフルーティ寄りに!

以下が自分の処方用紙だが、もう何が何だか(笑)

全く謎の匂い成分が、色付けしていくうちに段々と梅に近づいていくのは物凄く興味深く、驚きの連続だった。

実際はもーーっと沢山の成分を掛け合わせるのだが、今回は超初心者ということで少数でのチャレンジとなったが、初めての香気成分の調合はとても学びの多い時間で、香りの奥深さに更に惹かれ、益々沼にハマる機会となった。

次回の講義も楽しみで仕方ない!


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