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第68回 角川短歌賞 佳作作品

連作50首「サ・ン・バ」
(「角川短歌」2022年11月号)


うつし世の風になでられたちまちに縄文土器のベンガラ褪せる

ピラミッド、鳥居、原発 一基二基と数えるものをどこかおそれる

点呼とる儀式に集い一斉にアキレス腱を朝日に伸ばす

太陽神ラー への贄かベルコンに高く高くモグラの骸
※贄(にえ) 骸(むくろ)

箕を抱え立ち上がるたびめらめらと作業服から泥が剥がれる
※箕(み)

烏羽玉の黒Tシャツの背中にはU字にひかる汗の塩分

黥面を引き合いに出す青年のタトゥーの蛇が首をもたげる
※黥面(げいめん)

考古学専攻生の着メロのインディー・ジョーンズが響くトレンチ

文様が出現しない拓本はテレビの砂嵐に似ておりぬ

塩水を鼻から口へ花粉への恨みをすすぐわたしは埴輪

くノ一 の前世ありしか犬走りを釘をさしさし横歩きする

とび跳ねて平均台にのるように土を運んでいる猫車

レフ板を土偶に向けて先生がいいねいいねと土下座している

黒糖の蒸しパンほじる蟻になるピットだらけの発掘現場

五十年ユンボを操る親方はユンボとおなじ声で檄する
※檄(げき)

丁半のツボ伏すごとし編み上げの安全靴が吐き出す百足
※百足(むかで)

愛称と思っていたら本当に建築用語でバカ棒なのだ

相槌を愚痴に駄洒落に猥談に後光を放つヤクルトレディ

「人柄が最後に残る手札だよ」シルバー人材のおじさん笑う

現代の庶民によって副葬品を没収される古代のセレブ

笛が鳴りハンマー投げのステップで土のう袋をブルーシートへ

磨かれて青める子持勾玉は母が塩揉みしていし海鼠
※海鼠(なまこ)

貝塚を君と築こう色ごとに回転寿司のお皿を積んで

迫り来る電車の音に鶴嘴を⚓︎に変えている男たち
※鶴嘴(つるはし)

炎帝の奴婢のわれらの肌は焼け血と肉と骨熔かして眠る
※奴婢(ぬひ) 熔かす(とかす)

ボウリングボールは髑髏ましろなるピンを伴い奈落へおちる

安らかにおやすみ わたを敷き詰めて等間隔に沈める鏃
※鏃(やじり)

月光に銅鏡と化すマンホール窪みにピンヒールが囚われる

ふくらはぎをマッサージしてくれているくわえ煙草の灰の明滅

指輪より女よけとはおしえないあなたの髭はストーンサークル

三脚を踏みつけ水準儀を据えるとき思い浮かべる顔なくもない
※水準儀(レベル)

牛馬耕の蹄の跡が凹凹と確かめられる地層断面

土色帖をめくって悩むファンデーションカラーみほんを比べるように

羽化をする蝶々の心つなぎから身体をよじり 引き抜く手足
※身体(からだ)

南国の市場のごとし花・果実・シャボンの制汗剤に咳き込む

陶工のこねる粘土をイメージしヨガ教室に通う土曜日

肩にのせペットにしたしツボ押し棒みたいな脚をしている土馬を

舗装路はここでおしまい人間と機材がシェイクされるワゴン車

ぶうおんと我に掛矢で殴られて杉の香りを杭は放てり

藪漕ぎによぎりし影は鹿の王火焔の角を戴いていた

神獣と崇められたり害獣と駆除をされたり生まれた場所で

トラロープをくぐる脳裏に玉虫厨子の捨身飼虎が耀う
※玉虫厨子(たまむしのずし) 捨身飼虎(しゃしんしこ) 耀う(かがよう)

鳥を忌む母には告げず鳥葬のチベット族に惹かれることを

いずれこの星が墳墓となるものを 墓にこだわる者の愛しさ
※愛し(かなし)

彗星は塔は刀は石棒は天を貫くいのりを持てり

竹べらを置き取り上げる高杯に耳を澄ませば かんなぎの歌

大地より再び土器を今生に迎える業は産婆のごとし
※業(わざ)

暮らしやすそうだとはしゃぐ恋人をおいてきぼりに竪穴住居

陽炎かめまいか汗を拭いつつのぞく光波のピントが合わぬ

プリズムが麦わら帽の編み目からこぼれて踊るそばかすの上

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