主人公を早く困らせないと <小説の書き方>
(今日は小暮沙優さん「弦月湯からこんにちは」を紹介します)
ミステリーとほかのジャンルの小説の違い
私はミステリーを主に書いていて、ファンタジー小説は今回のnote創作大賞に応募した小説が初めてなので、戸惑うことも多いです。
少し(かなり)単純に書きますが……
ミステリーは、冒頭で事件が起こり、謎が提示されて、容疑者が複数登場して、それらしい推理が紹介されて、トリックが解明されて、真相にたどり着きます。
物足りなければ、どんでん返しをつくったり、なんなら死体をもう一つ転がせば、それなりに読者がついてきてくれるものです(本当かな?)
面白い小説の要件として特に大事なのは、主人公の苦難を早めに描くことだと思っています。
何者かに襲われたり、犯人だと疑われたり、家族や友人など近しい人たちが殺されるなど、ミステリーは比較的、簡単に主人公を谷底に突き落とすことができます。
その苦難、ピンチ、挫折から這い上がり、力を付けて、事件を解決するか犯人に復讐するなどして、カタルシスを演出する、というのが一つのフォーマットです。
ところがほかのジャンルの小説の場合は、そういうフォーマットらしきものがないことが多いです。なのでうっかりすると、起伏の乏しい平凡な話になってしまいます。
今回、私はこの主人公の設定、置かれている状況を、しっかり書くことに苦労しました。
・友人たちよりも非力で、周囲から軽んじられている少年
・母を早くになくし、父親を竜に殺された不幸な境遇
という設定にしたのですが、これを早い段階で説明臭くなく書くことが難しかったのを覚えています。
そんな中で、主人公の置かれている辛く、重苦しい状況を第一話で丁寧に書かれている小説に出会いました。
なので、また勝手に紹介してしまうのですが……
私は最近はファンタジーを探して読んでいるのですが、ふと感想文にひかれて読んでみたのが小暮さんの小説でした。恋愛小説のようです。
この第一話(5000字ほど)で、丁寧にしかも簡潔に、主人公の喪失を描いています。喪失の辛い状態を夢を使って描き、後半で喪失がどうして起こったかを、そして描きながら主人公のキャラクターを浮かび上がらせています。
説明するよりも一読してみた方が早いです。どうぞ読んでみてください。
私は、ここまで深く書かないといけないのだな、と気づきました。
この主人公がどのような行動をして、復活の道をたどるのか、きっと先を読みたくなると思います。
※『茶色の小瓶』グレンミラーの曲を小道具に使っているのも上手いです。私は思わず曲を聴いてしまいました。
そしてこちらの感想文を書いたのは日々鯨之さんです。私の紹介より格段に読みたくさせてくれますので、こちらもどうぞ。
note創作大賞、様々な作品に触れることができて、大変勉強になります。
それではまた。