![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/105017749/rectangle_large_type_2_deabc157b54dbeb3d0bc4f2f67aa63cd.png?width=1200)
『サマスペ!』創作の舞台裏⑩ 書けない時は描いてみる
『作者が経験していないことは書けない』
よく聞く言葉です。経験していないこと、記憶にないことは書けないという意味です。
私はこれを『映像が見えないと書けない』ということだと思っています。
小説のシーン、起きていることを読者に伝えることが作者の仕事なのですが、作者自身が映像を思い浮かべられないのでは、それを文章にすることができませんから、当然、読者には伝わりません。
曖昧に書くことはできても読者は満足してくれません。
逆に
映像が思い浮かべば(経験していなくとも)どんなことでも書けます。
フィクションだけれど、現地に取材に行ったり、資料をたくさん読むのはそのためです。頭の中に像が結ばないと、自信を持って書けない。細部のリアリティーが担保できないのです。
少し大げさに書き始めましたが、お話ししたいのは簡単なことです。
『サマスペ!』の中で具体的に二つのシーンを紹介します(④話と⑩話)。
初日、お堂でメンバーがくつろぐシーン。
悠介たちが初日に泊まったお寺のお堂です。
寝る前にくつろいでいるメンバーの様子を書こうとしたのですが、これが意外に書きにくかったのです。
・お寺で大勢が雑魚寝するというイレギュラーな状況。広い空間に大勢の人物をいっぺんに書こうとして分かりにくくなる。
・主要な行動を取る①悠介、②大梅田、③由里とアッコ、④涼。それぞれがどこで何をしているか順に書くと説明くさくなる
書く順番を変えたり、いろいろ工夫したのですが、どうもうまく描写できず、悶々としました。
セリフを交えると説明しやすくなりますが、長くなってしまいます。
今、その場がどんな状況なのかを、読者にパッと説明したかったのです。
いろいろと考えたところ、書き方の問題ではなく、自分の中で、誰がどこにいるのか分かっていないと気づきました。
そこで、お堂にいる人物の配置を図にしてみました。
(絵心もデザインセンスもないのは、ご容赦ください)
![](https://assets.st-note.com/img/1683431756028-6Ozd49SpuF.png?width=1200)
すると初めて、悠介の目には、こんな風に映っているんだな、ということがわかりました。そして悠介に見えていることを素直に描写すればいい、と気づきました。
その時の描写です。
銭湯から戻ったアッコと由里は虎の(屏風の)前でストレッチをしている。更にその手前、女子と男どもを隔てるように寝袋が二つ、横一列に敷いてあった。大梅田と水戸がその上に座っているから、二人はここで寝るのだろう。
あれは鉄壁のガードだ。
自分の頭の中にお堂の映像が見えてこそ、書けたのだと思っています。
実際の原稿はこちらからどうぞ。
阿蘇のカルデラのシーン
大分から熊本に入り南下した悠介は、初めてカルデラ地形を目にします。熊本県のシンボル、阿蘇のカルデラですが、見たことのない読者に、どう説明したものか、はたと困りました。
書こうとしたのですが、書けません。
それは私にカルデラが見えていなかったからです。悠介に説明できるわけがありません。
そこで写真を探しました。
まず、悠介が見たものはこれです。
![](https://assets.st-note.com/img/1683434565607-8Y8vF6Hg35.jpg?width=1200)
この写真を元に、小説は下のように描写しました。
林が開けた前方に現れたのは、見渡すかぎりの緑の山。いや、あれは山というよりも壁だ。見たこともない眺めに、ガードレールから身を乗り出した。
丘と呼ぶにはあまりにも高すぎるし広すぎる。横に連なる山脈の頂を粘土の山のようにならしたらこう見えるのだろうか。
どうやら様子はわかります。しかしこれだけでは足りません。こなれていません。なぜこのような地形ができたのかも必要です。
しかし初めて見る悠介には説明できないし、解説を読み上げたら、小説ではありません。
そこで『教師役』の高見沢に登場してもらい、二人の会話にしました。
さらに読者にとって、悠介はその時、どこにいるのかを説明するのが、分かりやすいと思い、下の図を作りました。
![](https://assets.st-note.com/img/1683434533527-DExuASMout.png?width=1200)
以下が高見沢との会話です(一部省いています)。
「悠介、あの壁みたいの、なんだかわかるか」
「それがわからなくて。阿蘇山ですかね」
「違う違う。カルデラって聞いたことないか」
「俺、地理は取ってないんで」
「この一帯はな、はるか昔に阿蘇山の火山爆発で陥没してできたくぼみなんだ」
「くぼみ?」
「そう。あれはその外側の壁っていうわけだ。あの壁がこの辺をぐるっと取り巻いているんだ。確か半径十キロくらいあるんじゃなかったかな」
悠介は「はあっ」と息を吐き出した。
「半径十キロのくぼみですか。なんか壮大ですね」
「壁の内側に阿蘇市とか町があって、五万人が暮らしているんだな」
「あれ、そうしたら今歩いているところは?」
「俺たちは北側の壁にいることになるな。これから人が暮らしているくぼみに降りていくんだよ」
足元に見える街を見下ろして、また壁を眺めた。壁の向こうから裸の巨人が乗り越えてきそうだ。
これでなんとか説明ができたのでは、と思っています。
noteは画像を貼り付けられる!
実はこのカルデラの写真は、『サマスペ!』の原稿の中に貼り付けました。読んだ方は文字の説明よりも、理解しやすかったと思います。
小説の挿絵のようなものですが、これができるのはnoteというプラットフォームの優れたところだと思っています。
『サマスペ!』では一話につき、2~3枚の写真を使っています。もちろん本物ではないイメージも多いのですが、読者の理解の助けになっているのでは、と思います。
カルデラの登場する原稿はこちらからどうぞ
私の場合は、こんな感じで自分の頭の中に映像を浮かべて、それを文字にすることを大事にしています。
描写しにくい、説明くさい、と思ったときは、描いてみること、図にしてみることをお勧めします。
以上です。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます