福祉施設のパンはなぜ安いのか②:PSWの福祉コラム
こんにちは!PSWライターのりくとんです。さてさて、『福祉施設のパンは何故安いのか』を切り口に、福祉施設商品の置かれている『安価でなければ』という立場、そしてその『安価』を支えるシステム的なところについて言及したその①。
こちらの記事に引き続き今回は、福祉商品に適正な価格をつけるべき理由について説明します。また、それを実際に行えたケースについてはその③にて紹介していきますので、福祉施設関係者の方がおられれば引き続き何か参考にしてもらえたらなと思います。
適正価格を維持すべき理由
福祉施設で作る商品が適正価格で販売されないと、どのようなことが起こるのか?一般的なお店を例に考えてみましょう。
想定状況:古くからある大衆食堂のそばに別の大衆食堂ができた。新しくできた大衆食堂は、現役引退した高齢者が営んでいて、彼らには年金収入がある。新しい食堂は、日々の生活に張り合いが欲しいという高齢者の希望から始められた。安く、美味しいものをお腹いっぱい食べて欲しいというコンセプトのもと営業を始めた。
新しくできた大衆食堂は、利益を出す必要がないため販売価格を下げることができます。一方で古くからある大衆食堂は、人件費や自分たちの生活費を食堂の収入で賄わなければいけません。つまり、販売価格はあまり下げられない。結果的に、新しくできた安い大衆食堂にお客さんをとられてしまう状況が想定されます。
古くからある大衆食堂の市場規模が大きい場合…例えば全国チェーンを持っていたり、コンビニとコラボを行えるような知名度がある…なら話は別でしょうが、普通の大衆食堂がこのような価格破壊を起こす同業店のそばで営業を続けられる事は稀です。
主となる収入が別にある高齢経営者との価格競争に勝てるわけはなく、普通の大衆食堂の多くは閉店に追い込まれてしまうことでしょう。
ライバル店がいなくなるとどうなるか
こうなると、そのエリアの大衆食堂は「一般的な販売価格」での営業ができなくなります。新しい大衆食堂の一人勝ちになり、ライバル店はなくなっていくことでしょう。
さて、ライバル店がいなくなるとどんなことが起きるでしょうか?
まず第一に、同業者から疎まれることは目に見えていますね。閉店に追い込まれた原因が『高齢者の道楽』とあれば、古参店の関係者からは悪評が立てられる可能性もあります。悪評が立たないにしても、地域にすぐに溶け込むことは難しくなることでしょう。
次に考えられるのは顧客離れです。ライバル店がなくなるので一時的には顧客数が伸びますが、安く提供するため人件費を削って価格設定をしていますから、どんなに忙しくてもバイトを雇うことはできません。需要に対してサービス供給が足りないため、顧客の待ち時間が多くなったり、売り切れで「食べたいものが食べれなかった」ケースも起こり得ます。そうなると、「どうせ行っても食べられない」と顧客離れが起きる可能性があるわけです。
人件費を削った安価のリスク
人件費を削って価格を下げることは、将来的にそのお店の寿命を縮めます。地域の同業者から疎まれて嫌がらせを受けることもあるでしょうし、何の工夫もせずに営業していたのではサービスが行き届かなくなって顧客離れを起こしてしまいます。
また頭に置いておかなければならないことは、主となる別の収入…例の場合は『年金』、福祉施設の場合は『支援費』…がいつまでも同じように支給される保証がないことです。
例えば年金が減額された時、支援費が引き下げられた時、商品の安さで勝負していたのでは手詰まりになってしまいます。道楽として行う店であれば、赤字が出るくらいなら辞めるという選択肢もあるでしょう。しかし、福祉施設は障害者の労働の場。行き詰まった、では済まされないのです。
福祉商品の価格設定に必要なこと
福祉商品が一般商品と渡り合う為にしてはいけないこと。それは『福祉商品』をウリにすることです。
福祉商品には、古くからのイメージで『体に優しい』『素朴』『安い』『チープ』『人助け』などのイメージがついています。福祉商品をウリにするという事は、『購買行動=慈善行動』というイメージを持った顧客をメインターゲットにするということ。この層は残念ながら、あまり高い商品を買ってくれる顧客層ではありません。
福祉商品の価格を一般的な価格にする為に必要なことは、『良いものならそれに見合ったお金を払うべき』と考える顧客層をメインターゲットにすること。例えば高級食パン『乃が美』は、デイリーユースの食パン購入層ではなく、ギフトや特別な食パンを欲する層に顧客層を絞りました。ターゲットを明確にすることで、どのような商品を作るべきかも見えてきます。
その②のまとめ
福祉商品を安くしてはいけない理由について述べてきた「その②」。思わずボリュームが出てしまったので、施設紹介は次回に回します!
ということで、今回のまとめです。
福祉施設商品だからと人件費を削って価格を安くすることは、施設寿命を長くする為にも避けるべき選択です。
そして、材料費と人件費を賄えるだけの適正価格で売る為には顧客に商品のファンになってもらう必要があります。『この商品は、このお店で買いたい!』と顧客に思わせれば成功ですね。
その為には、一般商品と渡り合える品質を担保しなければなりません。良い商品を、きちんと適正な価格で提供する。それが福祉商品が長く地域の中で愛される為に必要なことなのです。