診断名に縛られないで欲しいなって話③:PSWの福祉コラム

「精神科領域における診断」について取り上げた今回のコラムも、今日で最終回です。第1部では、『病名というものは精神科領域に関しては診察経過によって度々変更されるものであること』を紹介しました。

前回の第2部では、『医療保険制度のためにつけられる診断がある』話について、ケースを紹介しながら解説してみました。

今回の第3部では、ソーシャルワーカーが聞き取りたい「あなた自身の困りごと」についてお話ししていきます。

※コラム内では、精神保健福祉士、ソーシャルワーカー、ワーカーという単語が合わせて使われています。基本的には同じようなものですが、ソーシャルワーカー(ワーカー)は社会資源とクライアントの調整を行う人全般を指し、精神保健福祉士はその中でも精神保健福祉現場に特化したワーカーを指して使っています。

ソーシャルワーカーにとっての「病名」とは

私たちソーシャルワーカーにとっての「病名」とは、特性をわかりやすく伝える為のツールであると私は考えています。

福祉施設の就労指導員や精神科病院の退院支援員。精神保健福祉士にはそれぞれに立ち位置がありますが、「病気を理由にワーカーがクライアントの可能性を否定してはいけない」というのはワーカーの共通認識です。

ですからソーシャルワーカーである私にとって、病名とは匙加減が変わる程度の情報。『統合失調症では「疲れを自覚しにくい」特性があるかもしれないから、些細なことでも日常変化は留意しよう』とか、『うつ病では「期待に応える」特性があるかもしれないから、過度な期待と感じない接し方を心がけよう』とかですね。特性のヒントになる程度です。(あくまで私にとっては、ですが少数派でないことを願います)

病名じゃなくて「困り事につながる不得意」を教えて欲しい

精神保健福祉士として話を聞く時、私たちは「その方の実現したい未来」を聞き取ろうとしています。重要なのは病名ではなくて、「あなたはどんな自分になりたくて、それを邪魔しているのは何なのか」ということ。

確かに病気になると、不得意なことが病気によって増えてしまいます。朝起きられない、集中力が続かない、体力がない…やりたいことを邪魔する「何か」は、それこそ病気によって引き起こされた「不得意」かもしれません。でも、病気や障害があなたの全てではありませんし、不得意の原因全てが病気によるものではありませんよね。

「不得意だけどやりたい」気持ちを邪魔するのは、ワーカーの仕事ではありません。どのようにすればその「不得意」がやりたい事の邪魔をしないのか?それを考えるのがワーカーの仕事だと思います。

病名をツールとして使う

どうしたって、精神科で診断名がつくことはショックです。でも、病気になってショックをうけるのは一般科疾患も同じ。「糖尿病」で甘いもの食べれない。高血圧で塩分制限された。それぞれショックですよね。でも彼らは、体験入社するとき「はじめましてこんにちは、私糖尿病の山田(仮)です!」みたいに病名を使うことはありません。

精神科の病名も、フォローを依頼するためのツール程度の認識で十分。フォローが必要な時に、フォローをお願いする理由として開示する。「インスリン注射があるのでお昼休憩は時間固定でお願いします!」と言うような感じです。

病名とは、『私はこの困り事については医療ベースでフォローされてます』『そこは指導されても病気の部分なんで私の一存では変えられません』というメッセージに使えます。自分の状態を伝えやすくするツールとして、使って欲しいなぁと思います。

進むも戻るも自分次第

ソーシャルワーカーは、自転車で走る「クライアント」を後ろから支えるのが仕事です。補助輪になる事ではなく、前を先導するでもなく、転ぶリスクを踏まえて、走る貴方についていきます。

なにをするか?転んだ時に立ち上がるサポートをするんです。何につまづいて転んだのかを一緒に考え、安全な舗装された道があることを伝え、それでもオフロードが楽しいなら一緒にオフロードを走ります。(もちろんそれで高まる「体調不良リスク」は走者自身の責任になりますから、整備不良がないようハラハラしながらついて行ってます)

それでも、私たちソーシャルワーカーにとって大切なのは「病気や障害という情報を自分自身でどのように理解し、その結果あなたはどういう選択をしたいのか」という、クライアントのニーズなのです。

最後に、思ったことをそのまま書きます

私がお会いしてきたクライアントは、皆さん「自分の名前全て」を病気で書き換えられてしまうような方ではありませんでした。多くの特技があり、良さがあり、もちろん苦手もあり、その特徴の1つに「病気」「障害」がありました。

でも多くのクライアントは、最初の面談では「○○病になったから仕事が続けられない」「○○病だから受けられる仕事が限られる」…自分の多くの部分を病気に支配されていました。おそらく、これを読まれている当事者の中にも、今は病気に意識の大半を持って行かれている人もいることと思います。

でも、基本的には患者であろうとなかろうと「適法の範囲で自由」なのは誰しも平等です。「苦手な特性を避ける」のがいいか、「苦手な特性と理解してチャレンジ」するか…特性とどう付き合うかは本人の選択次第。病気を理由に自分の可能性全てを差し出す必要はないのです。

どうか診断名に縛られないで欲しいなと思う、そんな一端の精神保健福祉士のお話でした。

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りくとん@PSWなママライター
駆け出しライター「りくとん」です。諸事情で居住エリアでのPSW活動ができなくなってしまいましたが、オンラインPSWとして頑張りたいと思います。皆様のサポート、どうぞよろしくお願いします!