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【MIL】Survive & Advance ②【Elvis Pegueroの覚醒】
ブルワーズ担当のあなんです。
気になる選手を不定期で特集するSurvive & Adanceの第2弾。今回取り上げる選手は新進気鋭の若手リリーフ、Elvis Peguero(エルビス・ペゲーロ)です。
Elvis in the building. 😤#ThisIsMyCrew pic.twitter.com/n4ncdxcJKc
— Milwaukee Brewers (@Brewers) June 30, 2023
昨年までエンゼルスで鳴かず飛ばずだったペゲーロは現在、ブルワーズで勝ちパとして7回に登板しています。私はスプリングトレーニングの映像でペゲーロのポテンシャルに注目し、開幕直前分析noteでも「今年はペゲーロに注目」と述べましたが、勝ちパターンにまでのし上がるとは想定外です。
今回はペゲーロがブルワーズで飛躍した要因について分析してみました。
○ プロフィール
ペゲーロはドミニカ出身の26歳で、右投げのリリーフ。スリークォーターよりやや低めのアームスロットからシンカーとスライダーを投げるツーピッチスタイルです。
2015年にアマチュアFAでヤンキースと契約しプロ入りすると、5年間ヤンキースのマイナーでプレー。2021年の7月にAndrew HeaneyとのトレードでJanson Junkとともにエンゼルスへ移籍し、翌月MLBデビューを果たします。
エンゼルスでは計16試合に登板。22年オフにHunter RenfroeとのトレードでJunkらとともにブルワーズへ移籍しました。
○ 武器と課題
はじめに昨年の成績がこちら。
2022年
G:13 IP:17.1
K/9:6.23 BB/9:2.40 HR/9:2.08
Barrel%:8.0% Barrel / PA:6.5% xSLG:.470
ERA:6.75 FIP:5.59
rWAR:-0.5 fWAR:-0.2
わずか17.1イニングしか投げていないため参考程度ですが、防御率は6点台、FIPは5点台でWARもマイナス。期待値系の指標も軒並み低く、Barrel/PAは下位20%、xSLGは下位10%クラスでした。
一方で、ペゲーロの傑出していた点は球速。昨年のシンカーの平均球速は96.4mph。スライダーはなんと91.0mphで、MLBでトップ6に入ってました。
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また、シンカーの変化量もトップレベルでした。彼のシンカーには縦に鋭く落ちるという特徴があり、昨年のドロップ量は上位15%(平均+3.4インチ)。スライダーも平均を大きく下回る横変化量に対して平均以上のドロップ量を持ち、近年のトレンドとは反した縦スライダーを投げていました。
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そんなパワーアームが抱えていた大きな課題は空振り率の低さ。昨年のシンカーの空振り率は9.8%で、これは同球速帯の投手と比較すると最低レベルです。それでいてHardHit率は42.3%。空振りを奪えないうえに強い打球も飛ばされるという散々たる状況だったのです。スライダーも同様に、Clase・Diaz級の球速を誇るわりには物足りませんでした。
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whiff率およびHardHit率(baseball savantより)
○ どのような改善を図ったか
以降、2023年前半戦までのデータを用いてます。
先述のとおり彼のウィークポイントは、パワーアームにしては空振りが奪えなさすぎること。この課題に対してブルワーズは2つの策を講じ、ペゲーロを覚醒させたとみられます。
①リリースポイントの変更
baseball savantによると、昨年よりもリリースポイントが低くかつ一塁側に移動しており、さらにエクステンションが長くなっています。
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※ただし、リリースポイントの水平位置は昨年のシーズン中(2022/7/10を境)に変更しています。
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右:2022/07/22
ブルワーズに加入して変更したのはリリースポイントの高さとエクステンション。昨年からリリースポイントの高さは0.1~0.2フィート(3~6cm)低くなっており、エクステンションに至っては飛躍的に伸びています。
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アームスロットを低くすると入射角の面で空振りを奪いやすくなる一方、球速は低下しやすくなります。実際シンカーの球速は1mph弱低下しています。しかし、エクステンション伸長によって体感球速はむしろ上昇しているのです。
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ペゲーロが覚醒した秘訣のひとつは、持ち前のパワーを維持しながら空振りを奪いやすいリリースポイントに変更した点にあるとみられます。
②投球コース
ブルワーズは投球コースにも手を加えています。
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上のグラフは投手視点の投球ヒートマップです。昨年と比較してシンカー、スライダーともに低め中心に投じられています。特にシンカーはそれが徹底されています。
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昨年の低めへの投球割合は14~20%ほど。しかし今年は左右いずれも40%以上にまで増やし、高めへの投球を大きく減らしています。
ブルワーズは、ペゲーロの縦に鋭く落ちるシンカーを生かすために低めへの投球を増やすよう指示したとみられます。高めに投じていては空振りを奪えないだけでなく、長打も許してしまうと判断したのでしょう。
その変更は効果覿面で、空振り率(whiff%)は9.8%から22.8%へと増加。xBAは.343→.245、xSLGは.594→.321と見事に改善されました。
そしてRunValueは-4から+8。劇的に上昇しています。リリーフではCano、Haderらに次いで6番目に高く、Chapman、Graterol、Gravemanといった並みいる豪腕を上回る数値です。
最後に、今年の前半戦の成績と比較します。
2022年 → 2023年前半戦
G:13 → 33
IP:17.1 → 35.0
K/9:6.23 → 7.71
BB/9:2.40 → 3.34
HR/9:2.08 → 0.26
Barrel%:8.0% → 2.0% (上位2%)
Barrel / PA:6.5% → 1.3%
xSLG:.470 → .312 (上位9%)
ERA:6.75 → 3.09
FIP:5.59 → 3.40
rWAR:-0.5 → +0.6
課題だった奪三振力は向上し、打球管理にも秀でたトップレベルのリリーフに成長しました。ハードな戦いが予想される夏以降も、勝ちパの一角として地区優勝争いに貢献してほしいです。
参考資料