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花巻 1泊ひとり旅~新花巻(宮沢賢治)編~
「そうだ花巻、行こう。」
岩手県は3度訪れたことがありましたが、いずれも盛岡中心。今回も、まず盛岡で行われるロックバンドのライブに行くという目的があったのですが、どうせならちょっと足を延ばしてみようと思いました。じゃあどこに行こう。やっぱ温泉かな。とりあえず銀座の「いわて銀河プラザ」でパンフもらって来て考えることに。
ゴッチの「銀河鉄道の星」
そんな折、たまたま自宅を整理していた時に本棚に積読してあった「銀河鉄道の星」を発見。ASIAN KUNG-FU GENERATIONのGt.Voゴッチこと後藤正文氏が、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」と「よだかの星」と「双子の星」を小学生でも読みやすいようリミックスした本です。
「『銀河鉄道の夜』って懐かしいなぁ。読んでみようかな」と軽い気持ちでライブ会場の物販で買いましたが、まさか3年も放置するとは。ごめんゴッチ。
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アニメ「銀河鉄道の夜」
それに伴い思い出したのは、子供の頃に見たアニメ「銀河鉄道の夜」でした。登場人物が猫だったのが印象的で覚えています。親が教育的な映画を見せることを好んでいたため劇場に連れていかれ、パンフレットも家にありました。
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懐かしさから無性に見たくなってサブスクを探したのですが、需要がないのかフィジカルで見るしかなさそう。そこで、豊富なタイトルが揃う渋谷TSUTAYAで借りて見たのですが、子供の時に見た以上の衝撃が。
当時にしてはアニメーションのクオリティーが高いし、ジョバンニは田中真弓(ラピュタのパズー)、カンパネルラは坂本千夏(ととろのメイ)と豪華。
そして音楽が細野晴臣だったなんて。子供向けというには、あまりにも不穏なメロディー。Googleのサジェストに「銀河鉄道の夜 アニメ 怖い」と出てくるのは、音楽のせいだと思います。でもそれがクセになるのです。
当時は「悲しい話だなぁ」といううすらぼんやりとした感想しか抱きませんでしたが、大人目線で見るとジョバンニの健気さに胸が締め付けられます。大人の都合で不利益を被る子供が、可哀そうで守ってあげたくなってしまう。ジョバンニの一挙手一投足に注目して、ひたすらジョバンニから目が離せない。ファンタジックで物悲しくて、ジョバンニが愛おしくて、私はすっかりこの作品が好きになってしまいました、37年の時を経て。
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そう言えば、宮沢賢治は花巻出身ではないか。「いわて銀河プラザ」でもらったパンフでもさんざん紹介されています。花巻は温泉もあるし、「銀河鉄道の夜」が生まれた土地を訪れるのも面白い体験かも、そう思って花巻行きを決定したのでした。日程は8/19(金)-20(土)の一泊です。
その後、原作を再読し、ゴッチの「銀河鉄道の星」も読了。今回初めて知りましたが、原作は第1-3次稿(初期形)と第4次稿(最終形)があるんですね。一般に知られているのは最終形だそうです。原作を読むと抜けている部分もあったりするので、未完成のまま亡くなったということなのか。
ゴッチのインタビューで、「自分だったら未完成品を世に出されたくない」と読んだけど、確かに。賢治もそう思ってるかも。
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アニメ「銀河鉄道の夜」の原案となった、ますむら・ひろしの漫画「銀河鉄道の夜」もオススメ。そもそも何故アニメ映画は猫なの?って思っていましたが、ますむら氏の漫画が猫だったからなんですね。
この1冊には、初期形と最終形が収められていて、同じシーンでもアングルを変えて描いてあったりして、楽しめます。
ますむら氏は米沢(山形)在住で、賢治の作品の多くを漫画化しています。愛が深い。
ちなみに私は宮沢賢治のファンではありません。興味深いと思う作品はありますが、どちらかと言うと自己犠牲の精神が苦手だなと思っています。
新花巻駅
上野から新幹線に乗車し、行き慣れた仙台を通り越し、初めて降り立った新花巻駅は、思った以上にこじんまりとした駅でした。そしてお天気が良かったこともあり、空の迫力がすごい。空が近くて感動。
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花巻の圧倒的な空を全身で感じて、「これが"イーハトーブ"(賢治による造語で、賢治の心象世界の中にある理想郷(岩手)を指す言葉)なのか」と勝手に解釈。
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ふと小岩井農場の空を想起。同じ岩手だからかな。空が近い感じが心地よい。
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周囲にほぼ誰も歩いていないので風景を一人占めできることに感動しながら、徒歩で目的地へ向かいます。
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セブンイレブンの前でアニメ「グスコーブドリの伝記」のブドリとネリの像を確認。アニメ「銀河鉄道の夜」と同じ監督が手掛けており、こちらも子供にあまりにも過酷な試練を強いるストーリーで、ちょっと暗い気持ちにもなってしまう作品。
同じ猫キャラなら、カンパネルラとジョバンニの像にした方が、知名度的にも喜ばれる気がしますね。
Wildcat House 山猫軒
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賢治の有名著書のひとつ「注文の多い料理店」。子供心に不気味だと感じた人も多いと思います。それをモチーフにしたレストラン兼土産物店「山猫軒」が花巻にあるということで興味を持ちました。ロケーションが素晴らしく、本当に童話の世界に紛れ込んだみたいで感激。
リアル"注文の多い料理店"
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小説から言葉を引用した看板、遊び心満載でテンション上がりますね!
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岩手の名物を提供している、いたって普通のレストランです。私は「山猫すいとんセット」を食べました。すいとんは優しいお味で、特製味噌の焼きおにぎりが、味付けが絶妙で美味しかったです。
「白金豚のカツカレー」も気になったなー。公式サイトによれば、1番人気は「イーハトーブ定食(白金豚の角煮・じゅんさい・季節のお野菜と天ぷらの3点盛・すいとん・季節の果物)」だそうです。ボリューム満点ですね。
夏休み期間だったので、念のため電話予約しようとしたのですが、この時期は混雑が当たり前なので予約を受け付けていないとのこと。とは言え、金曜日の12:20頃は店内50%ぐらいの埋まり具合だったので待たずに済みました。ただ退店する頃には少し混雑していたので、タイミングでしょうね。ラッキーでした。
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山猫軒のそばにある展望台、なんという圧巻の見晴らし。向こうに見えるのは、賢治の作品にも出てくる山だそう(山の名前は失念)。「これがイーハトーブ(以下略)」。美しい風景には何度でも感動する。だって東京でこんな風景にはお目にかかれないので。
山猫軒(宮沢賢治記念館)への道のり
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ちなみに山猫軒は新花巻駅から徒歩20分なのですが、階段という難関が待ち構えています。
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300段程度ではありますが、とにかく暑さが敵でした。駅からここまででも汗だくなのに、上がり切る頃には汗だくだくだくだく。駅から階段下までバスもあるのですが、本数が少ないので時間が合わず。ほとんどの人は車移動でしょうね。ペーパードライバーなので旅先でレンタカー借りれない私。でも旅先で歩くの大好きだから、良いんです。
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階段のてっぺん付近には「山猫2号軒」がありましたが、閉まっていました。不定期でギャラリーなどをやっているのかな?
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銀河プラザ 山猫軒
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なお、新花巻駅のすぐ向かいには「銀河プラザ 山猫軒」があります。こちらはいかにも観光レストランと言った風情。レストランのメニューは、Wildcat Houseと微妙に異なるようです。
帰りがけにお茶しようかなと立ち寄りましたが、2階のレストランは平日15時には閉店してしまっていて入店できず。ご時世で短縮営業なのでしょうね。1階のお土産物は営業していました。夏休み期間ですが、平日のせいか閑散。
宮沢賢治記念館
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昼食後は徒歩すぐの「宮沢賢治記念館」へ。有料です。「宮沢賢治童話村」にも行く予定だったので、2館共通入館券(550円)を購入。
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「猫の事務所」に出てくる猫さん達が受付で出迎えてくれます。「猫の事務所」は、職場の差別を描いた短編。賢治作品ってやっぱり何かしら考えさせられますね、好き嫌いは別として。
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館内は広くはありません。「宇宙」「芸術」など切り口別に賢治の作品(原稿)が紹介されています。撮影禁止マーク以外は撮影OKでした。
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「なめとこ山の熊」を私は読んだことはないのですが、今回宿泊する鉛温泉が、「腹の痛いのにも利けば傷もなおる。鉛の湯・・・・・」と文中に登場するそうです。
宮沢賢治の作品と言うと、「銀河鉄道の夜」「注文の多い料理店」「風の又三郎」「セロ弾きのゴーシュ」「よだかの星」「グスコーブドリの伝記」、あと詩だと「雨ニモマケズ」「春と修羅」などがパッと思い浮かびますが、知らない作品がまだ山ほどあるんだなーと実感。
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賢治愛用のセロ。「セロ弾きのゴーシュ」は知っていたけれど、実際に賢治もセロを弾いてただなんて知らなかった。知らないことだらけ。
ちなみに「セロ弾きのゴーシュ」は、ゴーシュと動物がやり取りするシーンがありますが、ゴーシュが猫に対して当たりが強い(虐待レベル)ので好きじゃないんだよなぁ。
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「雨ニモマケズ」を読むと、「私はとてもそういうものにはなれんなー」という思いで満たされてしまう。
宮沢賢治童話村
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「宮沢賢治記念館」を出て、例の階段を降りてほどなく「宮沢賢治童話村」があります。と言うか、駅から記念館に行く途中に童話村があります。
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Googleマップで記念館と童話村のルートを調べると、このように大回りで徒歩27分と出るのですがウソです。Google先生、たまにウソつくから。黄色いマーカー通り行けばすぐです。
ペーパードライバーにとって旅先での移動手段はほぼ歩きなので、その辺りは綿密に調べて行きたい派。事前に人様の旅ブログを見て、遠回りしないで行けることを知り安心しました。見知らぬ旅の先輩に感謝。
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足を踏み入れると、もうそこは賢治の世界。「銀河鉄道の夜」では、11時に列車がやって来るんですよね。10時50分で止まっているのがなんとも。
「白鳥の停車場」は雑貨屋さんで、宮沢賢治作品モチーフの雑貨などを販売していました。少し覘きましたが、色んな作家さんのハンドメイド作品が置いてあって、好きな人にはたまらなさそう。
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銀河ステーション
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エントランスが「銀河ステーション」になっています。テンション上がるー!
妖精の小径
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童話村はいくつかのエリアにわかれていました。主に光のオブジェが飾られている(夜はライトアップ)「妖精の小径」、有料エリアの「賢治の学校」、ログハウスの「賢治の教室」など。
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週末とお盆期間は、夜間ライトアップするそうです。残念ながらライトアップ該当日ではなかったのですが、青空とオブジェのコントラストも綺麗だったので満足。
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天空の広場
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賢治の学校
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「賢治の学校」のみ有料エリアです。賢治の世界を5つのテーマゾーン「ファンタジックホール」「宇宙の部屋」「天空の部屋」「大地の部屋」「水の部屋」で表現しているそうです。
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エントランスに著名人のサインがずらり。ここで開催されるイベントに出演した人々のサインのようです。
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私が花巻を訪れるきっかけともなった、ゴッチのサインも確認出来て嬉しかったです。ここで開催された「イーハトーブフェスティバル2019」に出演したんですよね。
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突然のでっかいカマキリにびっくり。子供が泣きそう。
その他、「天空の部屋」と「水の部屋」もありましたが、他の部屋に比べて質素な作りでした。
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「風の又三郎」も子供の頃に映画を見せられましたが、結局何なのかよく理解できなかったな。原作読み返そうかな。
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「セロ弾きのゴーシュ」「注文の多い料理店」のミニチュア展示コーナー。
ボタンを押すと、人形の一部が動きます。
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ゴッチの「雨ニモ LOSER」
「イーハトーブフェスティバル2019」にて、ゴッチとサポート・ギター井上陽介氏、作家の古川日出男氏が朗読×音楽のスペシャル・ステージ「雨ニモ LOSER」を披露したそうですが、映像で上がっています。
宮沢賢治の世界観を呼び起こすようなスペイシーで空間的なギターと、古川氏の熱のこもった朗読がマッチしていて面白いですね。引き込まれてしまう。古川氏、ザネリの台詞回し(ジョバンニをからかう)がうまい、腹立つ(笑)ゴッチがこういうBGM的なギターをずっと弾いていることを新鮮に思います。童話村で生で聞いたら、格別だっただろうなぁ。
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毎年賢治の誕生日に開催されているそうです。今年も豪華メンツですね。
賢治の教室
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「賢治の教室」はログハウスで、「植物の教室」「動物の教室」「星の教室」「鳥の教室」と、それぞれ棟ごとに展示されています。子供が喜びそうな内容。
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賢治作品に登場する動物たちがピックアップ。やはりこうして見ると、自分は知らない賢治作品がたくさんあることを痛感。ファンにはたまらないだろうな。
森の店っこや
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お土産物屋さんです。量産型の味気ないお菓子類に比べて、地元のお菓子屋さんの手作りお菓子が並んでいるのって良いですね。つい買っちゃう。
おまけ:花巻で見つけた「よだかの星」
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「よだかの星」は悲しく切ない気持ちになりますね。自己都合で他人を思い通りに動かそうと、理不尽な物言いをしてくる人って、何なんでしょうね。醜いよだかに、自分と名前が似ているという理由だけで「名前を変えろ」と無理強いして追い詰める鷹には嫌悪感しかない。賢治って、人間の汚いところを容赦なく描きますよね。
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「童話村」にいたよだか。賢治自販機。
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新花巻駅から「宮沢賢治記念館」への道すがらにいたよだか。
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菓子工房「しらはた」の「よだかの星」かりんとう。見た目がかりんとうっぽくないですが、ごまが入ったかりんとう生地で、薄くてパリパリの食感。味は間違いなくかりんとうです。甘い蜜がかかっていて美味しい。かりんとうって噛み応えがあるものだと思い込んでいたけれど、薄いのもありですね。と言うか、むしろ薄い方が好きかも。
でこぼこした生地が、醜いよだかを表現しているのかな。ちょっと可哀そうに思うけど、うまいネーミングの地元銘菓だなと思います。割れやすいから持ち帰るのに気を使いました。「山猫軒」や「森の店っこや」などで販売しています。
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この日は鉛温泉に宿泊しました。
翌日は、花巻駅でSL銀河をお見送りしたり、マルカン大食堂でパフェったり。