『学芸員しか知らない美術館が楽しくなる話』書評風読書感想文
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<書籍情報(公式サイトより)>
【書籍名】学芸員しか知らない 美術館が楽しくなる話
【著者】ちいさな美術館の学芸員
【判型】四六判変型(124mm×188mm)
【ページ数】216ページ
【定価】本体1,600円+税
【発売日】2024年1月24日
【ISBN】978-4-86311-392-3
noteでの連載から生まれた本書は、現役の学芸員である著者が、美術館の楽しみ方を4つの章で教えてくれます。
展覧会の構想から準備、開催、終わりまでの流れをみていく「一つの展覧会ができるまで」。学芸員の仕事ぶりから展覧会や美術館について紐解いていく「学芸員という仕事の舞台裏」。鑑賞方法について掘り下げる「美術館をもっと楽しむためのヒント」。学芸員以外の人々の仕事にスポットを当てた「美術館をささえる仲間たち」。
以上の4章と「はじめに」「おわりに」から構成されています。
各章の個人的推しポイントを、感想を交えながら紹介させていただきます。
長いものは数年単位で計画されるという、展覧会の構想から終わりまでを追った1章「一つの展覧会ができるまで」で特に印象的だったのが、作品の貸し借りにまつわる話です。
企画展と呼ばれる展覧会は、テーマに沿った作品を各美術館等から集めて開催されます。貸し借りはビジネス的に、ドライに行われるのかなあと、勝手に想像していました。
しかし、その貸し借りには相手方の学芸員や美術館との関係性に基づいた、駆け引きがあるのだといいます。普段目にする作品リストにはあらわれない、人間くささが面白いなあと感じました。
また、貸し借りに関するお金の話にもとても驚かされました。
「学芸員という仕事の舞台裏」の2章では、タイトルの通り、学芸員の仕事に迫ります。
「雑芸員」と呼ばれるくらい多岐にわたるという学芸員の仕事を、「タイプ別学芸員紹介」や「とある学芸員のとある一日」「学芸員の仕事道具」など、ユーモアたっぷりに、リアルに、教えてくれます。
仕事道具一つとっても、たとえばメジャーは作品を傷つけないために手芸用の柔らかいものを使うこと、市販のもので多い1.5mではなく2mのものでさらに目盛りが左右両側についているほうが便利なこと、多用するのでなかば消耗品感覚であること、など、外側から見て想像するだけではわからないディティールが丁寧に書かれています。
3章「美術館をもっと楽しむためのヒント」のイチオシは「学芸員おすすめの鑑賞方法」の項です。
著者がおすすめしているのが「まずはぐるっと会場を最後まで回ってみる」鑑賞方法です。
以前、note記事の時に読んで実践してみたのですが、ほんとうに見え方が変わります。
先に展覧会の全容を掴むことで体力的にも気力的にもペース配分ができて、最初からずっと同じように真剣に鑑賞していくよりも、最後まで丸っと楽しく味わうことができました。
最終章「美術館をささえる仲間たち」では、受付スタッフ、デザイナー、修復家など、学芸員以外の仕事が紹介されています。
特に響いたのが「輸送と展示の職人集団はみんな知ってるあの会社」についての記述です。
唯一無二の美術品を運び展示する職人さんたちの技のすごさが、短い文章からも強く伝わってきました。
他の章や項目もそうなんですがこの項も、展示物の見え方をガラッと変えてくれます。
アートの楽しみ方を教えてくれる本というのはたくさんありますが、本書の特筆すべき点は、そのアプローチにあると思います。
学芸員という、知っているようで知らない気になる存在を通して展覧会の裏側に迫り、展覧会の見方をガラッと変えてくれるのです。
美術初心者の方は、お仕事譚てきに味わうことで、自分の仕事と比較しながら、展覧会をより身近に感じることができるかなと思います。
また、美術鑑賞玄人さんも、美術史や技法、作家論などとはまったく違う角度から語られる本書を読めば、これまでとは違う展覧会の味わい方が出来るはずです。
noteでの連載時からとても興味深く読ませていただいていましたが、加筆修正して書籍化されたことでより全体の流れがはっきりし、体系性が増し、さらに魅力的になっているように感じます。
これから美術を楽しめるようになりたいなあという初心者にはもちろん、アートや美術史について勉強してこられた玄人の方にも、新しい発見や新しい展覧会の楽しみ方を提示してくれる一冊です。
紹介は以上です。
以前参加させていただいていたnoteのメンバーシップ「オトナの美術研究会」主催、「ちいさな美術館の学芸員」さんの本が出版されました! おめでとうございます!
さっそく拝読し、とても面白かったんで誰かに伝えたい! と思って僭越ながら紹介記事を書かせていただきました。
美術? よくわからん……。って人から、美術? 好きだよ。正直そのへんの入門書の内容はもうだいたい頭に入ってる。って人まで、いろんな人が楽しめる本なのでは。と思って激推ししたいです。
この記事でへえー! ってなったらぜひ本を読んでみてください。
この記事でふーん。としかならなかったら、それは僕の伝え方の問題なので、ぜひ本を読んでみてください。
これは戯言なんですが、ちいさな美術館の学芸員さんが忙しくなるからメンバーシップを終わるっていうのを聞いた時から、もしかして書籍化? と思っていたのです。
こんなん後出しじゃんけんですからね、どうとでも言えますけど。
でも勝手に楽しみにしていたので、待ちわびた本をやっと入手することができて、しかもそれがすごく面白い本だったので、とても幸せです。
読み終えた今、美術館に行きたい欲がめちゃくちゃ高まっています。次の休みにでも行ってみようかな。