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読み切り短編小説

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読み切りの短編小説のページ。 思わぬ出会いが待っているかもしれません。
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沈む

沈む

 ボコボコボコ。
 何もない何処か ──。
 僕が目指してすらいない、けれど、行かなくてはいけない何処か ──。

 年老いた両親は、はなから僕に関心などなかった。
 息苦しい田舎。
 退屈な毎日。
 変化などまるでない、同じ日々の連続。

 身体ごとぬかるみに沈んだ僕は、そこから出ようと、ただ必死に、下手くそに足掻き、人の関心を誘うために非行に走った。
 つまりは、滅茶苦茶に好き放題した、という

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音の色彩

音の色彩

 音には色彩があると思う。

 講堂での授業が終わって、漫然と座っていた。
誰かに話しかけられたいとか、誰かと帰りたいとか、そんな陳腐な理由はない。ただ座って、授業の後に講堂に残り、ピアノを弾いている、小鳥のように賑やかで、馬鹿みたいに無邪気なクラスメートたちを、ぼんやり眺めていた時に違和感を感じたのだ。
 ショパンの子犬のワルツを、毒々しくて派手で甘過ぎる外国のキャンディの包み紙が、バラバラと天

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シャボン玉キッサ【読み切り短編小説】

シャボン玉キッサ【読み切り短編小説】

そのファミレスは、正午を一時間半も過ぎたというのに、未だ混雑していた。月に一度、息子の検診が終ったあとに、病院の近くのファミレスに寄る。
最早、明美と優太のお決まりのコースだ。

新幹線の形のプレートにのったナポリタン、ハンバーグ、チキンライスには小さな旗、エビフライにトマトにイチゴにオレンジ。
そんなに食べきれないでしょうという量をぺろりと平らげた優太は、今度はお気に入りのイチゴのミニパフェをせ

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