僕の先輩の話
「先輩って勉強もスポーツも万能だったじゃないですか。僕は先輩に惚れて同じ高校に遠くから通ったんですよ」
「あの話やっぱり本当だったんだね。まあその後に私じゃない違う先輩に恋するあたりは、結局一途ではないよね」
「先輩が高校の部活を引退してから、僕も同じ時期に辞めましたもんね。僕もあの時一緒に引退したって感じですかね。辞め方は全く円満でもないし最悪でしたけど」
「誰の説得も聞かなかったやつね。もちろん私の説得も」
「あの時はただ限界だったかなって。理由は確か耳が聞こえないでしたっけ…ただの疾病利得のためでしょうけど機能性難聴ってやつです。でも、高校は先輩のプレイしてる姿を見てるのが好きでマネージャーやってた感じなんで」
「なるほどなるほど」
「中学の時のピッチャーって2歳上に2人いたけど特に投球フォームは覚えてないんですよね。純粋に興味がなかったんでしょうけど。でも1つ上の先輩のフォームは今でも綺麗に覚えているんですよね。僕が投げる時はサウスポーだし全く違うフォームだったけど、あー多分この人が投げてればこの試合には勝つだろうなとかいう安心感は日々の練習と試合で感じていましたよ」
「でも完璧じゃなかったよ。私は」
「完璧な人間居たら、めちゃくちゃ怖くないですか?まあ先輩は大事な試合前に手を骨折しちゃったり変な事で違う先輩と長期間に渡って喧嘩したりしちゃうんで完璧ではないなと思ったし、先輩の完璧さよりも先輩の笑った顔だけを求めてましたね。この人の笑顔があればもうなんでもいいやって。あとツインテール。あれはレアな髪型だったので」
「骨折も懐かしい。てかよく覚えてるよね。てかそのフェチ的なの何よ。そのちょっとしたところ。」
「多分語らせれば、そこらの人よりも長く見てる自信は少しあります。」
「斎藤君が一途だったら良かったのに」
「きっと先輩は僕が一途でも変わらなかったと思います」
「どこからの自信なの」
「きっと僕は先輩を手の届かない範疇に置く気満々でしたから。それを考えると僕から距離を置くのは目に見えてるじゃないですか」
「何それ…私って都合のいい女じゃん?」
「めちゃくちゃ呆れるくらいにいい女ですよ。あと、簡単に言うと先輩って自分に投影したいタイプってよりはラブコメのヒロイン的な、手の届かない存在ですよ。あと、敢えて写ルンですで撮影した唯一の2ショット…先輩が高校を卒業する時に記念に撮ってもらった写真は未だに残ってると思うんですよね」
「私以外の他の人と沢山撮ってたし一緒に居た期間は長いのに変なところで1枚だけ」
「愛ですかね。」
「ヘタレだろ」
起きた時にはベッドに居た。また懐かしい人の夢を見たものだ。この人の夢は心地がいい。心地が悪い夢は高校の部活時期だ。畜生。
たまに先輩には会いたくなる。しかし、僕は先輩の新しい携帯のメールアドレスを知らない。そしてこの世にスマホが普及し、同時にLINEが普及したが、先輩のLINE IDも知らない。そんなものだ。