夕暮れ映画館
第一章 チケット
ぼーっと、パソコン画面を見つめていた
雨の日は頭にモヤがかかる
並んだ文字列にはきちんとした意味がある
だけど
その意味が理解できない
パソコン画面、文字列が踊りながら
私を指差して笑う
“あいつに理解できるはずなどない”
文字列はヒソヒソ…
「おーーい!大丈夫かぁ?」
誰かが私の肩を叩いた
肩を叩かれた事でぼんやりした景色に
色がついた。
「申し訳ありません!」
はっ!となり振り向くと
そこにいたのは
意地悪く笑う
同僚のかすみだった
「びっくりさせないでよ」
私が言うと
ニヤリと笑い
「なになに?恋煩い?」
と聞いてきた
「あんたねぇ、いつもそればっか。
なんか、新しいフレーズはないの?」
痛む頭を押さえながら
呆れたように言った
「だってさぁ、さくらが落ち込んでるからさぁ。この間、失恋したって言ってたし」
はぁ…
確かにね、数ヶ月前、失恋をした、
と言うよりも私から別れを切り出したんだけどね…
「あのね、振られたんじゃなくてね…」
私の話を遮るように、かすみは手を振って
「まぁまぁ」と言った。
そして
「そんなことよりさぁ、いい話があるの」
とにやにやと笑った
この「にやにや」は危ない
かすみのにやにやは何か企んでいる時だ。
眉根を寄せる私に気がついたのか、
「あ、大丈夫よ、変な話じゃないから」
(あんたの話、まともな事など一度もないじゃない)
内心、思いながら、かすみの話を聞く事にした。
「実はさ、ある映画のチケットが当たってさ、一緒に行かないかなぁ、と思って、さくら、映画すきじゃん?」
かすみが映画のチケットを?
あのかすみが?
私の顔にはてなマークが大量に張り付いた
「失礼ね!私だって映画くらいみるわよ!」
とほっぺた膨らませて怒る彼女に
(あんたいくつよ。アニメしか見ないくせに)とため息をついた
「で!行くの?行かないの?」
かすみは膨れつらのまま言った。
「行く行く!」
「そうこなくちゃ!」
かすみはニコニコ笑いながら
じゃあ、今度の週末に
T町の夕暮れ映画館でね
と言ってチケットを一枚渡した。
じゃあ!
風のようにかすみは去っていった
時計を見ると
昼休みが後10分で終わる所だった。
渡されたチケットを引き出しにしまい、
コーヒーをすすりながら
雨に濡れる街を眺めた
この時、かすみのにやにやの正体を
私はまだ知る由もなかった。
ーつづくー
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