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道草日記*11月28日
とりあえずグルーッと回って一時間が午前の散歩コース。
高台の住宅地の中を歩いて、海を眺めながら私の花畑に向かう。
氏神様に挨拶をしながら、取り立てて変わりのない花畑のチェック。
相変わらずコスモスの枯れた苗を抜く力がない。
でも先日は百日草は全部抜けた。
その前はハサミを片手に、気になる宿根草の枯れ枝を切った。
だけど鎌で刈り取りたい枯葉や枯れ枝は諦めた。。。
ドライフラワーのまま春まで置こうと思う。
黄金葉が赤になり、銀杏が葉を落とし、寒菊が蕾を膨らませている。
もう既に、冬に向かっているのだ。
ネリネはサーモンピンクの蕾を徐々に開き始めた。
果たして冬越しが可能か、今年は実験。
骨折のため、ピートモスを買う能力が無いので(変な説明)、
段ボールをかぶせて、その上に雑草堆肥を乗せようと思う。
秋明菊のピンクは咲き終わったら、
モッコウバラの足もとに移動させる予定だったのに無理。
これも来年に持ち越しだ。
石に腰かけて、メールを見たりしながら体を太陽で暖める。
世界は私以外は通常運転のようだ。
作業服姿の人が目に付くこの頃。
「こんにちは。何か工事なんですか?」
道路に引かれた臙脂色の印は側溝とは関係なさそうだ。
「ええ、水道工事なんですよ」とお一人が答えて下さる。
「そうなんですか。よろしくお願いします」と頭を下げる。
その何日か前に出逢った作業着グループは、
「5年に1回、橋の点検で歩いてるんですよ」と教えてくれた。
いろんな人がいろんな仕事をしてるんだなあと思う。
高い高い堤防のコンクリートが、やたら水玉模様であることに気づいた。
ハニカム構造ではない昔の緩やかな傾斜の、パッチワークのような堤防。
昭和の堤防に縦横継ぎ足したので、もとの水門部分など、
地面から直角に飛び出していて、荒いコンクリ部分と、
滑らかなコンクリ部分はその色も違う。
その不規則な、コンクリ面に広がる水玉模様は、
近くのおじいちゃんの作業小屋にやってくる男の子の、
キャッチボールの跡だとすぐに気づく。
そう言えば幼い頃から、おじいちゃんを相手に、
ここでキャッチボールをしていて、
少し大きくなったら堤防が相手になってくれた。
(何年分の何千球分だろう?)
散歩しなければ、きっと見つけることがなかったのだ。
コンクリートという広いグレーのキャンバスに描かれた、
まるでシャボン玉のミイラが空に向かって立ち上がるかのような構図。
高く低く強く投げられた一日一日の痕跡が、
すぐに昔語りになりそうなほど、
はにかむ笑顔の少年の背は伸び続けている。
先日は、堤防の上に伸びる階段の途中に野球少年の姿を見つけて、
「気を付けてゆっくりね!」と、
心の中では恐ろしく思いながら、声を掛けた。
男の子の持つ好奇心は、女の子の持つそれよりも、
「挑戦」というワードに支えられている。
「は~い」と間延びした返事が小さな声で、頭の上に落ちてきた。
以前、黄色い帽子の小学生の女の子が、もう少し低かった堤防を見上げて、
じっと動かずに、たたずんでいた場面に遭遇した事がある。
「どうしたの?」と声をかけたら、
高く指さした先に、同じく黄色い帽子の男の子がいたのだ。
ギョッと思ったものの、びっくりさせてはいけないと、
静かに上に向かって声を掛けた。
「高く登れたね~風に吹かれると危ないから、降りて来て」
女の子と並んで見上げながら、心配を伝えた。
顔だけ振り向いた男の子。
「うん。だけどもう少し海を見たいから」
いっちょ前に、旅人のようなセリフをかっこよく口にした。
女の子と二人で、その「もう少し」の時間を静かに待ちつづけたのだった。
別の年の黄色い帽子をかぶった男の子は、
何か長いボロ布を引きずりながら帰宅途中だった。
(小学校では、あんな小さな子に大荷物を持たせて帰すなんて)と、
憤慨して可哀想に思ったのは一瞬で、
男の子が引きずっていたのは大きな鮭だと気づく。
少しパニックになりながら車で通りすぎたけれど、
察するに、鮭の養殖場そばの川にある網の中で捕まえたのだろうと思った。
小さな子には世界の線引きなど存在しない。
あそこから家まで鮭を引きずるには、すでに漁協も通り、港も通り、
ガソリンスタンドも通り、ともかく多くの大人が見ていたはずだった。
最後には自宅への急坂を引きずられて、
鮭ばかりは随分な災難に見舞われたことと思う。
「さぞ、うちに帰って鼻高々でどんなにか面白かっただろうねぇ」
こないだこんなことを目撃してね、と井戸端会議で話したのだ。
大人同士は目を細めて、たぶん羨ましくも思って、大笑いした。
しばらくして男の子のお母さんと話す機会があった。
「うちまで持ってきたよ~」とため息をつきながらの苦笑い。
「そりゃ初めての獲物だから、ありがたく食べさせていただきました」
だけど男の子たちは海とは関係ない仕事に就いたし、
野球少年もきっと、野球とは関係ない大人になるんだろうな。
波が立っていることを教える寒い風。
外海はきっと群青色になって、空と隔絶してる景色なんだろうなと思う。
銀色の雲は、ミルフィーユのように層を連ねて南の空を占領している。
雲が揺れ動くスピードは心地いいほどのんびりだ。
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