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キバナコスモスの灯り

晩夏に咲きだすキバナコスモスは、黄色とついているけれど、
オレンジ色の花の方があちこちに多いと思う。

とても目立つビタミンカラーだ。

コスモスと花の形は似ているけれど、花姿が全然違う。

あちこちに枝を伸ばして、
バランスよく、細い体でどっしりと構えている感じ。

コスモスとは違って、少し複雑なやじろべえみたいな体。

種は黒くて細長く、開いて、四方八方にはじける。

朝顔やオシロイバナの種は取り終わって、
毎日キバナコスモスの花を見ながらも、付けた種を取るのも仕事。

玄関先にチラシで折った四角い箱を置いて、
夕方のひととき、新しく出来た種を探しながら花を眺めている。


私よりふたつ年上の彼女は、30代で未亡人になった。

美しくて。

それは見た目だけではなく。

趣味も、話す声も、選ぶ言葉も、彼女は美しくて優しい。

どんなハイクラスの方と結婚してもおかしくない女性だ。

彼女は田んぼが広がる農家に嫁いで、
未亡人になったあとも、一人娘と舅と姑とそこで暮らした。

「5月過ぎたら種を蒔かなきゃ駄目よ」とキバナコスモスの話をする。

権力を謳歌する大勢に慕われる男性の中には、見た目も声も気持ち悪くて、
自分の審美眼のようなものに、自信が持てないことがたまにある。

(なぜあんな人が人気があったんだろう)

(どうして他の人は気持ち悪く感じなかったのだろう)

(ずっと顔を見ていると、吐き気がしそうになるのに)

自分を安心させるために、人相学のようなものをかじっては、
(そういうとこだってあるはずよね)と心静かになってみたりする。

だけど、不思議に確信できるのは、
もしも彼女のような人をパートナーにできたのなら、
(きっとその気持ち悪さが薄れていくはずなのに)ということだ。

彼女は愛にあふれたとても美しい人だから。


一人娘は母親になり、残った姑も昨年旅立ちを見送った。

「お彼岸には、この花で迎えてあげたいと決めていて」と彼女は笑う。

道路から、両脇に広がる田んぼを従えて、
家まで続く一本道の両側にキバナコスモスを植える。

キバナコスモスの花言葉は「野生美」というのが不思議だけど、
確かに雑草にも負けず、育ちにくい場所でも、
小さく背伸びしながら、なんとか花を咲かせる。

緑の中のオレンジは、心に灯すたくさんのロウソクの火のようだ。

ひとつひとつは小さく頼りない花びらでも、
残暑の厳しさの風景の中でも、目立って迷わせない。

あふれるほどの長いオレンジの、キバナコスモスの灯りが並ぶ小道を通り、
彼女の愛する旦那さまが、彼女に会いに帰ってくるお彼岸になる。

もう赤い曼珠沙華も咲きだした。






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野原 綾
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