夢を見たというただの記録
ほんの一瞬の、うたたねのような夢を見る。
大きな、一畳ほどの半紙がいくつも、
宙に、天から降りてきたように並べてあって、
鬼が言葉を書けという。
どのような言葉を気に入るのか分からないが、
清き言葉や蒼き言葉を書いてみるたび、
破り捨てて落とされる。
また新しい半紙を前に、太い筆で、
筆先も揃わないままやけくそに、
「時」と一文字書きなぐる。
鬼は、人間ならホウとでもいうように、
動きを止めて腕組みをする。
その文字で満足したのか、私への興味を失った。
ふと見ると、右隣の半紙の下には、
まだ年若い痩せた男の子が正座したまま動かない。
じっと半紙を見上げて言葉を探している。
鬼は腕組みしたまま、男の子が動き出すのを辛抱強く待っている。
私は早く抜け出そうと思い、その場を静かに駆けだすつもりが、
鬼は一瞥する様子もないので、一緒に男の子の横顔を注目して見ていた。
目が覚めて、玄関先に吊り下げている重陽の節句の掛け軸を、
これらの掛け軸がやってきた日のことを、やんわりと思い出した。
忘れようにも忘れられない出来事が続いた。
この掛け軸は遠くから、縁あって、
その道でご高名な書家が書かれたものをいただいたのだけれど、
どうも書かれた言葉ごと生きている気がする。
お彼岸の中日のせいかも知れない。
夢を見たのは。
山清氣爽九秋天黄菊紅茱満泛船千里
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