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ムーミン本読み方のすすめ⑦『ムーミン谷の冬』
1. ページ数(講談社文庫の新装版のページ)や章の数や構成の特徴
第1~6章、214ページ。
主人公はムーミントロールですが、第5章では犬のめそめそ・はい虫のサロメちゃんの視点で進行するところがあります。
2. 主な登場人物
ムーミントロール、ちびのミイ、おしゃまさん(トゥーティッキ)、ご先祖さま、めそめそ、ヘムレンさん、サロメちゃん(ちょこちょこばしりのサロメちゃん)
3. 内容の簡単な紹介(ネタバレに注意しながら)
まだ春は遠い冬の夜、冬眠中のムーミントロールは不意に「目をさまして、それっきり、もうねむれなくなって」しまいます。これは、「いままでついぞおこったことのないこと」、「ムーミン一家が冬ごもりについてこのかた、一度もおこったことのない、はじめてのこと」でした。ムーミントロールは、箱の中で眠っていて子りすに起こされてちびのミイとともに、冬に「水浴び小屋」で暮らすおしゃまさんに助言をもらいながら冬の生活を経験し、初めての冬の自然や初めて出会う生きものたちとの関わりをとおして困難を自力で解決することを学びます。
4. 挿絵の雰囲気(作品によって違います)
シンプルな線描の挿絵、細かく背景まで描かれた挿絵、黒い背景に白で描かれた挿絵があります。黒が基調となっているのは下記のリンクに表示されているようなものです。黒地を削って白を出していると思いますが技法の名前を忘れてしまいました。調べてわかったら追記します(汗)。
5. 小林の「ここが好き」
ラッパを吹きながらスキーに乗ってやってきた陽気なヘムレンさんにまつわる第5章が最近はいちばん好きです。ヘムレンさんは自分自身が良いと思うことをぐいぐい人にすすめるタイプで、ムーミントロールは「ぼくはやっぱりあいつがきらいだな」、おしゃまさんは「もう、ここには平和がなくなるわ」と言い、他の多くの生きものもヘムレンさんを避けます。ムーミントロールはスキーをしたくないことをうまく言えずに、レッスンを続けられて嫌な思いをしました。ただし、ちびのミイはヘムレンさんを真似てスキーを始めて特に気に留めていないようで、また、サロメちゃんはラッパの音を気に入っていてヘムレンさんのことが好きです。
ヘムレンさんのことは以前にも少し書きました。
なんだか悪役のような扱いですが…雪に埋もれたサロメちゃんやおおかみに囲まれためそめそを助けたのはヘムレンさんでした。サロメちゃんにたいして「ぼくはどうも、あのこにやさしくなかったな」と「どきっとして」一生懸命に雪の中を探したり、めそめそに目的地に着いたら自分のまほうびんから「ミルクをあげよう」と言うところをみると、単に自分勝手な登場人物ではないことがわかります。
何度もこの本を読むうちに、すこし空気が読めずとも、一生懸命で優しいヘムレンさんを好きになりました。
6. 小林は「こんな時に読みたくなる」
人との距離感や接し方を考えたい時、この本を手に取って、さまざまな生きものに出会うムーミントロールの行動や気持ちを追ってみます。
5.で挙げたヘムレンさんにスキーを教わるムーミントロールは、「生きものってものは、なんてさまざまなんだろう」と心の中で思います。
ムーミントロールはヘムレンさんに出会う前に、「まゆ毛のある動物」やご先祖さまの機嫌を損ねてしまい、ご先祖さまにはそれ以上話しかけないと決めたところでした。交流を好まない彼らとヘムレンさんは対照的です。
ムーミントロールはおしゃまさんに頼まれて、ヘムレンさんを追い払うために「おさびし山」にいいスロープがあると嘘をつきかけますが、「ぼくのスキーのことを考えてくれるなんて、きみは、なんてきみはやさしいんだろう」と言うヘムレンさんの言葉を聞き、雪のない危険な山であると思い出したと、嘘をつくのをやめます。この会話の後、ムーミントロールは「気がかるく」なります。苦手な相手だからといって、騙すことは彼には合わなかったのだと思います。結局ヘムレンさんは自らの意思でムーミン谷を後にします。
絶対に正解のかかわり方はなく、その時々で考えないといけないし、失敗することもうまくいくこともあると、ムーミントロールが教えてくれます。
7. 結び
『ムーミン谷の冬』は、ムーミンママやスナフキンなど頼りになる登場人物がいない状況で、ムーミントロールが自力で困難を乗り越える考え方を会得する物語です。
ムーミントロールの冬の生活に密着して、一緒に悩んだりうれしくなったりできる本です。ムーミンはもちろん、サロメちゃんやめそめそやヘムレンさん、みんなの頑張りに励まされ、現実の困難も乗り越えられそうな勇気をもらいます。