見出し画像

これは懐古か、未来予測か。キャロル&チューズデイは奇跡を起こせるのか?

僕は音楽が好きだ。そしてアニメも好きだ。毎日新たな音楽を探したり昔から好きなアーティストの曲を聞いているし、朝起きて一番にすることはアツアツのカフェオレをすすりながら録画したアニメを見ることだ。
もちろん今季から始まったアニメもチェックしている。この4月から始まったアニメはたくさんあり、その全てを追えているわけではないが、その中でひとつ、ぜひ紹介したい作品があるのでこうやって記事を書いている。
キャロル&チューズデイ
だ。

火星に移り住んでから50年、そして多くのカルチャーがAIによって作られ、人々はそれを享受する側となった時代。ミュージシャンを目指すキャロルとミュージシャンになりたいチューズデイ。偶然出会ったふたりがこんな時代にどんなあしあとを残すのかー。

キャロル&チューズデイは、フジテレビ「+ultra」枠とNETFLIX等で現在放送中のアニメだ。
主人公は、孤児院で両親の顔も見ずに育ち、アルバイトで生計を立てるキャロルと、政治家の親を持ち、裕福な家庭で何不自由なく育つが家出をしてきたチューズデイ。
ミュージシャンになりたいという夢以外共通点もないような二人が出会い、音楽を奏でるところから物語は始まる。
大ヒット曲の99%がAIによるもの、という未来の世界において二人の生身の人間の音楽は果たして、何かを変えるのだろうか?

いわずもがな、この物語では音楽が重要な役割を持つ。
それ故に劇中で流れるBGMや挿入歌、もちろんOP・ED曲にもそれ相応の強度が求められることになるのだが、ここへの力の入りようがすごい

まずはオープニング曲である"Kiss Me"を聞いていただきたい。

おそらく、大多数の人が想像する「アニソン」とは全く違う、モダンなシティポップ調の曲がオープニング映像を飾る。作詞作曲は日本のバンド、Nulbarichだ。
この曲を歌うNai Br.XXCeleina Annは主人公であるキャロルとチューズデイの歌唱パートも務めている。
「+Ultra」は「海外にもアニメカルチャーを広げていきたい」というコンセプトの元に立ち上げられたアニメ枠であり、それもあってかこの作品では演技を行う声優とは別に、中心となるキャラクターには英語詞で歌うシンガーが割り当てられているのだ。

そして、その他の楽曲を提供するコンポーザーも錚々たる面子だ。
Flying Lotus、Thundercat、Alison Wonderland、D.A.N.、Cero、☆Taku Takahashi(m-flo)、G.RINA、津野米咲(赤い公園)などなど、音楽をよく聴く人であれば一度は耳にしたことがあるであろうアーティストが集っている。
参加アーティストはまだこれからも追加予定がある。彼らがどのような曲でアニメを彩るのか、それだけでワクワクしてこないだろうか?
作品の公式twitterでは劇中歌の一部をハイライトとして見ることができるのでぜひチェックしてみてほしい。

また、キャロルとチューズデイが使用する楽器はGibsonとnordがタイアップを行っていたり、実在するミュージシャンの名前が登場したりするなど、地続きの未来としてのリアリティを高めている。
各話サブタイトルも現実のヒットソングを用いており、現在放送されている4話+次回の第5話のサブタイトルは以下の通りとなっている。Youtubeのリンクを貼っておくので気になる人は是非聞いてみてほしい。きっと作品をより深く理解するための役に立つはずだ。

#1 True Colors
#2 Born to Run
#3 Fire and Rain
#4 Video Killed the Radio Star
#5 Every Breath You Take


さて、最後にこのキャロル&チューズデイの物語を紐解くにあたり、おそらく重要になってくるであろう、そして作品の評価をはっきりとわけるであろうポイントを紹介したい。
これは人類が火星に移住して50年が経った世界を舞台にしたSF作品であるということだ。
作中には、現代ではまだ発想段階で実用化されていないテクノロジーが数多く存在する。そして、そのひとつがこの先確実にキャロルとチューズデイが相まみえることになる、AIによる作曲だ。

まだ作内での掘り下げは行われていないが、第3の主人公となるであろう、アンジェラ(CV:上坂すみれ Vocal:Alisa)とAIを駆使した音楽プロディーサーであるタオという人物がいる。
タオは現代最高のヒットメイカーであり、子役から歌手への転身を目指すアンジェラの曲を(AIを用いて)制作することとなる。「我々は最高の曲とプロジェクトを用意する。その代わり、君はマリオネットになる覚悟はあるか?」と問うタオに対し、「世の中をひっくり返す、最高のマリオネットになってやろうじゃない」とアンジェラは答える。

AIやテクノロジーを駆使した作曲やボイストレーニングを行うアンジェラとタオに対し、キャロルとチューズデイはセッションやその場のアイデアを膨らませることによって曲を作っていくという対比が見られる。
これを、単なる「機械 VS 人間」の構図に仕立ててしまってはならないと僕は思う。
シンセサイザーやリズムマシンあるいはシーケンサーの登場によって、音楽は様変わりし、進化してきた。「ドラマーが必要なくなる」と言われた時代もあったようだが、ご存知の通りそのようなことにはならず、機械と人間はそれぞれの良さを評価され、現代の音楽は作られている。

「人間を超える力を持つAI・人工知能が現れたとき、我々はどう振る舞うのか」というのはSF作品において古くから語られてきた言わばクリシェだ。
2019年の今、このテーマを取り上げるのであれば、新たな視点と落とし所が求められる。過去の作品と同じことをやっていては成功は見込めない。
しかし、これは途方もなく困難なチャレンジであるということは想像に難くない。
AIが作る未来の音楽など誰も想像することができないし、それをひっくり返す(そして内包する)奇跡のような音楽を作ることなど到底不可能に思える。
それでも、この作品に携わるスタッフやミュージシャンはそれを承知で物語を作り、曲を書いているのであろう。その挑戦に、僕はこれ以上ない敬意を払いたい。
「機械 vs 人間」ではない、そして現代のような共生でもない、未来が舞台だからこその新鮮さを伴った奇跡を期待したいと思う。

キャロル&チューズデイは2クール作品であり、まだまだ始まったばかりだ。
未見の方はNETFLIXなどでぜひチェックしてみてほしい。
半年後、キャロルとチューズデイがどのような結末を迎えるのか、ぜひ一緒に見届けよう。

実在しない人間の実在する関係性に心砕かれる毎日 https://www.amazon.co.jp/hz/wishlist/ls/1YN6R4IANN7NG