ドメインエキスパートの隘路
#1
SaaSの始まりとともにドメインエキスパートの職種が認識されるようになって久しいですが、これはキャリアと言っていいのだろうか?ということに非常に悩んでいます。
ドメインエキスパートの業務イメージについては以下のブログ等を参照下さい。
#2
プロダクト開発において、ドメイン知識が必要になることはあります。新規プロダクトを作りますとなったときに、その分野について何らの知識もなくいいものが作れるということは考えられません。そこで、ドメインエキスパートは、要件定義・要求開発フェーズにおいて非効率を洗い出し、「こうなったら仕事がもっと楽になるのに」という夢を乗せてPM・SWEらとプロダクトを構想します。これは楽しいです。
あるいは、コンテンツの作成を行います。コンテンツにはいくつか種類があり、①オウンドメディア系、②ナレッジ・tips系、③アルゴリズム系に分けられます。①・②はほぼ記事を書くだけですが、③はちょっとAIが絡みます。いいまぐろを見分けるAIを作るためには、いいまぐろの写真の学習データが必要なので、そのタグ付けを行う、というのがコンテンツ作成の中身です(アノテーション)。これもまあ結果が出ると楽しいです。
または、カスタマーサクセス・セールス等の渉外文脈において、有識者として呼ばれて話すこともあります。専門性の高い顧客のペインは当該専門性を有していないとわからないことがあるので、重宝されます。これもお客様とお話する機会を頂けて楽しいです。
#3
ただ、5年ほど経つと、これらの楽しさってあんまり長く続かないんだよな、ということを最近思います。
開発が軌道に乗り、ローンチすると、最も聴くべき専門家の声はユーザーの声になります。顧客の声をどう料理するかはPdMの領分になることが多く、ドメインエキスパートはお払い箱とまでは言えませんが、add valueの量は顧客(=声)が増えていくほど減少していきます。
コンテンツ作成は、記事を書くのがおもしろいうちはいいですが、この間自分の専門性が本来発揮される職務には就いていない(医療業界なら医者、会計分野なら経理、といったような)ので、経験は先細りがちになります。大学の非常勤の実務家教員の賞味期限が3年から5年らしいですが、ドメインエキスパートとしての賞味期限もこの程度である、というのが私の直観です。アノテーションは一応別のスキルではあるのですが、どうしても飽きます。
渉外も、同じく経験の先細りがネックになります。コンサルとしてのスキルを伸ばすことなしに応対することは難しいです。「リテラシーがあって話が通じる」という価値はありますが、同ドメインの専門家ならだれでもできることですので、キャリアの面から見ると貯蓄の消費です。
何より、本流となるメインのキャリアからは断絶した業務になる点が辛いです。わたしがこの点が一番気になっています。既に当該ドメインについてベテランであり、活用先を探しているような方はどんどんやった方がよいと思いますが、SaaS企業のスピードは速いので、手を動かせ、かつある程度ドメイン知識のあるジュニア・ミドルが欲されます。他方、このレベルがドメインエキスパートに転向したとき、その先は?というのがよくわからんのだよな…というのが本note全体の問題意識です。
#4
上記で立てた「ドメインエキスパートの賞味期限は3~5年」というテーゼが正しいとして、次にどういうキャリアを志向していけばいいでしょうか。
思いつく限り書き出してみました。
1.プロダクトマネジメントコース
プロダクトのことを一番わかっているのは俺コース
なんか一番うまくいきそうな気はするが、エンジニアリングに弱いと(自分と周りが)辛い
2.エンジニアコース
ドメインのロジックを正確にエンジニアリングに落とし込めるのはわかっている俺コース
文系がいきなりなるの難しそう。無理ではないと思うけど
3.業務コンサルコース
ドメインわかってる俺がプロダクト活用に向けて伴走しますコース
これはなんかそもそもそういう枠で採用されてそう
競争相手が生き馬の目を抜く戦コン出身者とかになっちゃったりする
4.ライターコース
コンテンツ作成やってたら文章書くのが得意になりましたコース
5.ドメインキャリア回帰コース
いや、俺はやっぱり{任意の専門職}に戻るぜコース
ドメインエキスパートの業務から持ち帰れるスキルが生かされるかは未知数
会社や業界・分野によって「ドメインエキスパート」がやってることは全然違うので、ほかにもいっぱい選択肢はあると思います。コメントくれるととってもうれしいです。
#5
ドメインエキスパートの辛いところってあんまり共有されてないなと感じたので考えたことを文書化してみました。普通に働いていると言いにくいことだし、同じ悩みを感じている人や、なんとなく取扱いに困っているかもしれない経営者に届いたらいいなと思っています。