「わたしは家族というものが、今は心から恐ろしいんです。」ー山本文緒『群青の夜の羽毛布』を読んで(ネタバレなしのつもり)


このnoteをどう書き出したものか、ずっと考えていた。

 序盤から私の心をぐっと掴んで、ハッピーともアンハッピーとも言い切れない結末まで一気に引きずっていったこの本の魔力を、その片鱗だけでも伝えることができないかと。

 面倒くさがりな私がnoteに登録し、有給にパソコンとにらめっこして感想を書いたことだけでも相当のおすすめであることは明らかなのだが、読んでくださっている方々には私のものぐさレベルなど知るよしもないだろう。(おそらく地区大会準優勝レベルである)

 すでに読書感想文らしからぬ雰囲気を醸し出してしまい、こんな記事は閉じてTwitterの新しい更新音でも聞いている方がよっぽど有意義なことに気づく賢明な方が出てきたかも。でもあとちょっと読んでほしい。

 私がこの本を読んで最も印象に残った、ある人物の言葉を引用する。この台詞を読んでみて、うーん、興味が湧かないなあと感じた方には、もしかしたらこの本はあまり面白くないかもしれない。

 でも、この文を読んで何か自分の人生に思い当たることがあったり、ぞくりと心が冷えたような感覚を覚えたりする人は少なくないと思う。そういう人にはぜひ手に取ってみてほしい。

 わたしは家族というものが、今は心から恐ろしいんです。
 家族愛?ああ、そうですね。否定しません。家族の絆というものは、存在すると思いますよ。そこには確かに愛情が潜んでいると思います。
 ねえ、先生。だからこそ恐ろしいんですよ。分かりますか?
 愛情という名の下に、他人ならしないようなことも、家族の間では平気で行われるんです。他人なら決して言わないような酷いことも家族の間では口にするんです。

本文より

 なるべく重大なネタバレはしないように、あらすじと自分の感想を書いてみる。でも人によってはしっかりネタバレだと感じちゃうかも。お気をつけあそばせ。

あらすじ

 実家の家事手伝いをして暮らす24歳のさとるという女性と、彼女に恋をした大学生の鉄男。病弱でどこか不安定な彼女は、10時という門限を頑なに守り、食事の際は徹底して言葉を発しようとしない。
 そんなさとるや彼女のおてんばな妹、厳格な母と関わるうちに、この家族が普通ではないことに鉄男は気づいていく。それでもさとるを見捨てられない、理屈抜きに愛していると想いを強める鉄男だったが、彼の目に映っていた以上に家族の闇は濃く深いものだった。

きままな感想

○異常な親とはいったい

 家族ってよくも悪くも呪縛だと思う。
それはどこのお家でも。子どもにとっては特にそうで、親にされたこと、されなかったこと、求められたこと、認められたこと、そういうもの全部が自分の基礎になっていく。


 親が子に全部を与えるってことは不可能で、何かを与えることは何かを奪うことになる。
 例えば、自分に厳しくあるように育てられた子は、自分の労り方がよくわからなかったり。何でも望みを叶えられてきた子は、他人と折り合いをつけるのに苦労したり。そういうものだと思う。
 完璧な人間がいないのと同じで、完璧な親も存在しない。

 じゃあどこからが異常な親なんだろう。これは簡単に線引きできるものじゃない。最初は異常とまではいかなかったものが、変容し、凝り固まっていつのまにか明らかに異常な状態に発展していくこともある。


 しかも、家というのは閉じられていて、外から内情を完全にうかがい知ることはできない。(ある登場人物も言っていたように)
ある家が普通なのか異常なのか、中にいる人にも外にいる人にもよくわからない。


 この世に無数に存在する家族という箱の中で、日々構成員どうしの化学反応によって家庭環境が作り上げられていく。
それがどんな環境であろうが、こどもが簡単に箱から這い出ることはできない。
その当たり前の事実に背筋が寒くなる。

○だってあんたたちが始めたんだよ

 親だって人間。それはそうだ。自分がこどもだったとき親にされて嫌だったことを完全に切り離して、自分は貰えなかった無償の愛をこどもに捧ぐ。
 言葉にすると綺麗だけど、やってみるのは簡単じゃないだろう。


 自分に懐かない、ひどい態度を取るこどもをそれでも可愛がる。これも難しい。親だろうがなんだろうが、自分を大事にしない人間に愛を与えたいと思う人はあんまりいない。

 人間なんだからそれはわかる、でもあんたたちが始めたんじゃないか……!!
 親がどんな幼少期を過ごしたかはこどもには関係ないし、こどもに嫌われるのは何か原因があるかもしれない。こどもによくないところがあるなら、諦めずに向き合わないといけない。


 実際に親になったらそんな綺麗事を言っていられないのもわかる。人間の感情って完璧なコントロールが効くようにできてない。わかるよ、わかるんだけど。

 でもこどもには選べないじゃない。こどもを産む予定もない私には半分もその苦労は理解できていないだろうけど。


 ある人物が「配偶者は血が繋がっていないから、相手の面倒を見る必要はない。しかしこどもは、血が繋がっているんだから親の面倒を見る必要がある」という趣旨の発言をする。
これには大声で違うよって言いたい。


 配偶者を選んだのはあなただけど、こどもは望んで家族をつくってはいない。そこで、取り出しようがない体中を流れる血液の話をするのはあまりに卑怯。


最後に一言

 昨年山本文緒のエッセイを初めて手にとって、素直ですっとしててなんて素敵な文章、と思って以来ずっと小説も読んでみたかった。それで読んだのがこの作品。もうたいへんなお気に入りになりました。

 noteにまとめるのはなかなか難儀だったけど、面白い作業だったからまた書いてみたい。この投稿をどなたか読んでくださってると嬉しい。とっても。










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