ふと思い出したのは花火大会のことだった
予報通りに雲行きが怪しくなってきた夕方前、買い物帰りに雨に降られて小走りで自宅へ戻る。
僕は本降りになる前になんとか自宅へたどり着いた。
家へ入る前に、ふと夏らしい雨の匂いを感じて、記憶の連想ゲームが始まる。
特に予定のない土曜の夕方、僕はのんびりとその連想ゲームを楽しむことにした。
僕は花火大会のある街で暮らしてきた。
連想ゲームの行きついた先は、ある年の花火大会だった。
後輩の女の子と2人で花火を見に行った帰り道、急な雨に降られた。
どうやら僕の脳はそのときに感じた雨の匂いへと記憶を繋いだらしい。
たぶん大学3年生だったと思う。
部活の仲間4人で見に行くはずだった花火大会は、急用という同級生のわかりやすい嘘で、待ち合わせ時刻を過ぎてからデートらしきイベントに変えられてしまった。
つきあってないし、つきあいそうでもなかったのに。
20歳そこそこの僕は、同級生がつくったその状況を楽しめるほどの余裕もなく、そんなに楽しくない時間を過ごして(過ごさせて)しまった。
細部は覚えていなくて、帰り道で急な雨に降られたことだけ妙に覚えている。
花火大会の街で暮らしている僕は、家族と見たり、恋人と見たり、職場の仲間と見たりと、もっと楽しい思い出もあるのに、雨の匂いで思い出した花火大会はどちらかというと苦い思い出。
記憶というのは本当に不思議で、僕はどちらかというと苦い思い出というか忘れたい思い出がなかなか消えてくれないタイプのようだ。
*防衛本能なのか、マジでやばかったときの記憶はちゃんとコーティングされているのか全く思い出せない。
20年くらい前の僕も今と同じように不器用だったなと思い、なんだかあんまり成長していないような気になる。
ただ、自身を客観的に見られるようになった分だけ成長したとも思う。
今年ももうすぐ花火大会だ。
暑すぎず、今日のような雨も降らないといいなと思った。