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旅する日本語 第11語「恋草のゲリラ豪雨」
確か、真夏に「ゲリラ豪雨」という風物詩が始まった頃のことだ。
最寄り駅からの帰り道、雨が降ってきた。突然の雨で、僕たちはどちらも傘を持っていなかった。家に帰るだけだ、と傘を買わず急ぎ足で駅を出た。
早足で歩く二人。雨脚は強くなるばかり。大通りを抜け路地に入った頃には、バケツをひっくり返したような大雨。雨音に消されないようにお互い、叫ぶように声を張り上げる。 この非日常はもはや「旅」だ。
僕たちはだんだんレイニーハイになり、終いには街中で二人して大笑いしていた。笑い過ぎて息が吸えなくなるくらい、笑った。
耳をつんざく雨音と、二人の笑い声。そして全身ずぶ濡れの快感。ちょっと濡れるのは不快だが、盛大に濡れたら、人間、ハイになる。いや、きっとこれは嫁と一緒だったからだ。
毎年、ゲリラ豪雨がくるたびに思い出す、あの夏の日の帰り道。土砂降りの雨に降られても「楽しい」と思えた。嫁と一緒なら、なんでも楽しい。