記憶のない結婚(2)
『仲良くやっていこう』
婚姻届を出した彼は、笑顔でそんなようなことを言っていた
頭の中でひとり事を呟くことだけが、唯一私に与えられた自由だったので
『嫌だ』『たすけて』
そんなような、言葉に発することができない思いを頭の中でつぶやき、頭痛と吐き気を抑えながら笑顔を作った記憶がある
その日の記憶はそれだけ
その後何をしたかの記憶は一切ない
この結婚生活で記憶に残っているものはほとんどない
時系列もわからない断片的な記憶
そして「感覚」と「想い」
そういったものが今になってゆっくりと取り戻されてきた
結婚生活の中での彼を思い出すと1番に浮かぶのは彼への不信感
彼は簡単に嘘をついた
彼がつく「嘘」を、私はつかれる度にわかってしまっていた
始まりは「お金」
使わなくてはいけない事があり家に置いておいた、私の月給の半分を超える金額のそれ
いざ使おうとしたら見当たらない
パニックになり彼に聞くと
『盗まれたんじゃないか』
そんな訳ない!
戸締まりはきちんとしているし、入られた形跡もない
そう言うなら警察を呼ぼう!
泣きながら訴えた
大事なお金だった
今はすでに何に使うお金だったのか思い出せないのだけど、その時の「想い」はとても大事なものを失ったというものだった
けれども彼は、到底私が納得できるようなものではない理屈をこね、無理矢理その話を終わらせたのだ
その先も数え切れないほどの「嘘」があった
彼は自分の「生い立ち」までにも嘘をつき、嘘に嘘を重ね
そして後でその「嘘」を私に気づかれたと思ったときに「言い訳」をするのだ
意味のわからない理屈を並べて
そんな彼の姿は、とても滑稽に見えた
何も言わない私を、自分が納得させたかのような満足な顔をして
何度もそれを繰り返す
そんな彼を私は冷ややかに見ていた
気づいていないと思っていたのだろうか
それとも、私はどうせ何も考えられないと思って適当に誤魔化せていると思っていたのだろうか
何も言わなかったのは納得したからではなく
何かを言う気力も言い合うための思考力もなかったから
ただ、感覚的にこの状態が正常でないことは理解していた
彼にとって私は
簡単に騙せる、都合のいい人間だったのかもしれない
私は
何も考えない
何も言わない
そして必要以外、外にも出ない
籠の中の鳥になった
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イラストお借りしました♡︎
ありがとうございます(ㅅ´ ˘ `)☆*。
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