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「奏でることの原点。」
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これは、とある演奏家の方が
話してくださった、修行時代のお話です。
季候が良くなる時期。土曜日の広場や建物の軒下の日陰を見つけては、
"ストリート・ミュージック"を始めた。
人の集まりそうな場所に行って、
前にお金を入れてもらうカゴを置いておく。
稼ぐといっても、たかが知れている。
あくまでも、練習を兼ねて、場所慣れしていくというのが、当初の目的だった。
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始めて間もない頃、広場で弾いていると
12、3歳の女の子が近づいて来て、
カゴにお金を入れながら、
「私のために一曲弾いてくれますか。」と言った。
なんと、大人びたことを言うのだろう…。
感心してしまった。
その子は、曲が終わると笑みを浮かべて、
「ステキな曲をありがとう!」と言ってくれた。
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また、建物の軒下で弾いていた時のこと。
3歳ぐらいの男の子が私の前に立って、聴き入っている。
近くにいた人に「とってもキレイな音楽だねぇ」と言うと、急いで建物の中に入っていった。
すぐに出てきたかと思うと、私に50セント硬貨を2つ手渡してくれた。
なんて可愛いんだろうと思ったのだが、
これには、まだ続きがあった。
しばらくして休憩を取った後、また演奏を始めると、その男の子が前に座って、
「また、弾くの?」と期待に満ちた瞳で聞いてきた。
「うん。今度はキミのために弾くね」と答えてから、明るい曲を弾いてあげた。
すると、その子は矢も盾もたまらないといった様子で、後ろにいた母親のところに飛んでいって、早くお金をくれと急かしている。
そして、今度は母親に教えられたのか、カゴの中に、そのお金を入れてくれた。
その様子に、周りの人たちは、みんな笑みを誘われていた。
「これが、演奏することの醍醐味かもしれないなぁ」と、私は心でつぶやいていた。
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この大先輩の歩まれた音楽修行の道。
今の私、それの入り口に、やっとたどり着けたかどうか…。
私も、頑張らねば!
(えみり)
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