![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/60139749/rectangle_large_type_2_625f56d85d9e8b1205ee3e6280cea5b3.jpg?width=1200)
日銀当座預金の説明をせずに「国債発行で民間の預金が増える」のを説明してみる
今日はたまたま、ツイッターで見たやり取りから思いついたことがあったので、別の話題について述べてみます。
「国債発行で民間の預金が増える」というのは、「知ってる人は知ってる事実」ですが、それほど一般的な知識にはなっていません。「国債発行のメカニズム」を説明する時には「日銀当座預金」の説明が欠かせないのですが、この「日銀当座預金の仕組み」というのが結構複雑で、これを理解するまでに相当な時間と手間がかかってしまいます。でも「政府の国債発行で民間の資産が増える」という知識は、国債が借金ではない事や、財政破綻説がデマでしかない事を広めるうえで決定的に重要であり、多くの国民になるべく早く知ってもらう必要があります。そこで今回は、日銀当座預金の説明をせずに「国債発行で民間の預金が増える」のを説明してみることにしました。
では、順を追って説明していきましょう。
① 政府はA社に土木工事を依頼、A社は実施、政府はA社に1億円の政府小切手を払う。
② A社はB銀行に政府小切手を持ち込み、預金(預け金=資産)に換えてもらう。A社は「仕事をして、預金が1億円増えた」、B銀行は1億円の政府小切手(資産)を持ち、A社の分の預金(預り金=負債)を持って、トントン。
ここまで、特に問題は無いですよね。では次へ進みます。
③ B銀行は政府小切手を何とかしたい。政府は「その政府小切手を、1億円の現金(利子無し)でも1億円の国債(利子あり)でも、どちらでも換えてあげるよ」と呼びかける。
④ B銀行は、資金繰りに酷く困っていない限り「利子付きの方が良いに決まってるでしょ。国債よ!」と言って、国債に換えてもらう。B銀行は1億円の国債(資産)と1億円のA社の分の預り金(負債)を持って、やはりトントン。
ここで重要なのは、国債も現金も信用度合いは変わらないので、国債の方が利子が付くぶん得ですから、直近の資金繰りによほど困っていない限り、銀行は必ず国債を選ぶということです。なにせ、0.1%しかつかなくても1億円なら利子10万円ですが、100億円なら1000万円ですから、利子が付いた方が得に決まっています。それを称して「国債は定期預金と同じ」と言っている人もいます。
⑤ 政府は、1億円の負債は負ったけど、1億円の土木工事をしてもらったので、別に損していないし、何も困っていない。銀行に「国債あげるから現金返して」と言われたら現金を払っても良いけど、有利子の国債をわざわざ無利子の現金に換えるアホな銀行はいない。政府側からすると、国債は永遠に借換えで困らないし、事実、世界中の国でそうやってきている。
⑥ 結局、A社は1億円資産増加、B銀行はトントン、政府は1億円負債増加したが何も困っていない。
この説明は「最初に国債売買から始まっていない」「最初は、民間に仕事してもらうところから始まっている」のがミソです。その方が普通の人には理解しやすいのではないでしょうか?
良く見る説明の文章では「国債を政府から民間銀行が買う」ところから始まるものが多く、そうすると「その買うお金はどこから来たの? 民間の預金じゃないの?」というところで、最初の誤解・誤りに嵌まってしまいます(本当は「日銀当座預金」という日銀が供給する資金で買っていて「民間の預金」は全く関係が無いのですが、そこの仕組みの理解が容易ではないのです)。そこから、よく聞く「民間預金を使い切るまでは国債は発行できるけど、それを超えたらもうダメなんだ」という誤解・勘違いが生まれます。今回の説明の中で「民間の預金」は「A社の預金が増える」ところにしか出てきませんし、増えるだけで減ったりしません。今の説明で「民間預金で国債を買う」ところがありましたか? 無いですよね。そうです、「民間預金を使って国債を買う」ことは、全くしていないのです。
ここで、「いや、私は、自分が積んでた銀行預金を引き出して国債を買ったよ」という人がいるかもしれません。そうです。「個人向け国債」と言うのは、同じ「国債」でも非常に特殊で、そういう仕組みになっています。ただし、額は非常に少なく、令和2年度で3兆円あまりしかありません。このNoteの他の記事で示したように、毎年100兆円以上を発行している国債と比べると大変少ない額と言えます。
政府が金融機関(主として銀行や保険会社など)に通常売っている国債は、実際には「日銀当座預金・日銀ネット」という、もともとは日銀が供給しているお金で回っている「ほぼ閉じた系」で売買されています。そのため、民間預金の入り込む隙間はほとんどなく、当然その売買に民間預金は全く関与していないのです。しかし、日銀当座預金を含めての説明や理解は正直容易ではないので、今回の私の説明では日銀当座預金の説明をスルーできるようにしたのです。それでも理解の肝心な部分はほぼ抑えていると思います。
⑦ 多くの人が勘違いしているのは、「A:国債の発行」と「B:政府が民間に仕事してもらう、民間に金を渡す」とが分離しているように思っていること。政府支出なしの国債発行だけなら、もちろん民間の預金は増えない。
⑧ しかし、Aは必ずBと紐づいている。というより、最初に政府支出があって、それを埋めるために国債発行が行われる、という理解の方が真実に近い。だから、国債発行時には、必ず政府支出が行われており、結果として民間(企業+家計)の預金は必ず増えるのだ。
ここが重要です。多くの人が「まず国債を発行するんだろ。でも、国債発行しても民間の預金なんか増えるはずがないじゃないか!」と考えています。しかし、「国債発行」というのは「同額の政府支出」とセットになっているのです。むしろ、上述したように「最初に政府支出があって、それを埋めるために国債発行が行われる」と理解すべきなのです。ですから、「政府支出があるのだから、その分、民間(企業+家計)の預金が増えるのは、当たり前すぎるくらい当たり前の話」なのです。「国債発行して政府支出する」あるいは「政府支出して、その分の国債を発行する」ことが、民間の預金を増やすのです。
これらの仕組みに興味を持たれた方は、中野剛志「奇跡の経済教室:基礎知識編」や、朴・シェイブテイル「財政破綻論の誤り」などで、より正確な知識を得ていただきたいと思います。国債に関する知識は重要です。私たちは「国債残高が多すぎるから、日本政府は財政を絞らなければならない」と信じ込まされてきました。そのため日本国民は、この20年間、貧困層を増やし、中間層を貧困化するような政策を支持してきてしまったのです。その結果、日本は国民の収入が増えず、雇用が不安定なまま固定化し、想定された災害に対策することもできず、社会は衰退してしまったのです。
日本の国と国民を困窮させないため、豊かな未来を子供たち・孫たちの世代に残すため、私たちはもっと多くのことを知らなければなりません。最後までお読みいただき、ありがとうございました。