見出し画像

労働安全衛生法に基づく健診の要件とは何か、同じ“健診”でも法律が違えば意味合いも役割も違う……

5月10日開催の「労働安全衛生法に基づく一般健康診断の検査項目等に関する検討会」を傍聴しました。

今回の議事は下記の3点

(1)労働安全衛生法に基づく一般健康診断の現状と課題等に関する構成員からのヒアリング
(2)「労働安全衛生法における一般定期健康診断の検査項目等に関する社会状況等の変化に合った科学的根拠に基づく検討のための研究」報告
(3)論点について

●中小企業の現状は厳しい、必要最小限の健診を 〜全国中小企業団体中央会・及川構成員から

中小・小規模事業者の経営課題と健康増進への活動及び「一般健康診断」の項目に関する考え」(資料1)

「一般健康診断」は、企業規模を問わず、全ての事業者に罰則付きで実施義務が課される。そのため、事業者のコスト・業務負担などから、「一般健康診断」の検査項目は、事業者が対応をとるべき必要最小限の項目に限定しての実施が望ましい。
女性特有の疾病の配慮は、安衛法の「一般健康診断」と別の有効な取組(健康経営等)との組合せで推進してはどうか。

資料1からの引用を一部筆者にて変更・省略

といった、事業者側からの要望となる報告で、これ以上のコスト・業務負担は厳しいという訴えかと。
ただ、だから事業者は何もしたくないということでなく、調査データ(中小企業労働事情実態調査)から経営上の障害として、人材不足(質の不足)、労働力不足(量の不足)が挙げらており、労働者確保のためにも、労働者の健康増進の必要性は認識しており、実際工夫を凝らした取組事例(協同組合を結成しての活動や商店街での空き店舗の活用、健康経営セミナーの共同開催等)の報告もありました(事例は参考になります)。

別な検討会ですが、小規模事業場の義務化が議論されているストレスチェック制度の検討会と構図が少し似ていますね。

ただ現状でも、全事業者(50人未満でも)に実施義務が課されており、追加・変更があればコスト・業務として即影響します。
構成員からも「現在の一般健康診断が有効に活用されていないのではないか、まずは現状を維持して事後措置をしっかりとするべき」という意見も出ていました。

●社会変化に伴った健診項目を検討すべき 〜連合の冨高構成員から

「一般健康診断の項目の見直しに向けて 」(資料2)

健診項目見直しの方向性として、労働者個々人の健康確保はもとより、職場全体への影響も踏まえ、健診項目の拡充を検討すべきとし、職場からの実際の声やデータをもとに、
(1)眼科系検査項目の充実
(2)若年層における生活習慣病検査の実施
(3)更年期障害と月経障害に関する検査の新設
これにプラス産業保健の機能強化
を項目として挙げています。
こちらは、労働者視点で、女性や高齢者が増えたことによる労働災害の予防、労働者の疾病予防も含めた意見で、これは事業者にとっても、快適な職場環境を確保する機会とすることで生産性の向上につながる、というものかと。
また健康経営が浸透していくことは素晴らしいが、個々の企業に取組は任せられており、本来、労働者であれば、同じ産業保健サービスを提供されるべきということも話されていました。

お二人の構成員の報告は、対立構造というほどではないにしろ、「定期健康診断」の検査項目は、業務に起因または増悪するもので最低限にという立場と、労働環境の変化に伴ったもの、健康を守るという若干予防的な検査も入れてはという立場からの意見が出ているように感じました。

以降の意見交換で気になった意見として
「若年層の生活習慣病検査でどのような事後措置をとるのか」(鈴木構成員)
→「保健指導などを活用しては」(冨高構成員)
→「事後措置に保健指導は含まれていない」(事務局)
(事後措置は義務だが保健指導は努力義務。健診項目は最低限という要件を満たしていないという意図での質問だったかと)
「女性のパフォーマンスの低下、職場の離脱を防ぐには、体調不良などを言いやすい職場環境の整備が重要では」
(個人が特定される事後措置を望んでいない女性労働者が一定数いることなどから、環境整備を重視しては、という意図かと)など。

●健診項目をエビデンスという視点から 〜森構成員

「労働安全衛生法における一般定期健康診断の検査項目等に関する社会状況等の変化に合った科学的根拠に基づく検討のための研究」(資料3)の報告

具体的な項目として下記内容が挙げられています。
○現在の健診項目の妥当性の検討として
(1)一般定期健康診断の性・年齢階層別の有所見率 
(2)心電図検査 
(3)胸部エックス線検査
○新規の健診項目の検討として
(1)眼科検査 
(2)骨粗鬆症検査 
(3)女性労働者の健康支援のための項目 
(4)肝機能異常の事後措置としての血小板活用の妥当性

それぞれの項目こどに、エビデンスとしての考察が資料3に記載されていますので、ご参考ください。
今後の検討会でこれら健診項目を中心に議論されていくのではないかと思われます。

森構成員の報告に対して、他の構成員からは
○費用対効果という視点も必要
○女性のための項目はストレスチェック制度の質問に入れ込んではどうか(腹囲と同様に事後措置の対象としない)
○骨粗鬆症検査は健康日本21の目標となっており検査の仕方も変更があるので連動を視野に入れてはどうか
○精度管理がきちんとできるかも重要
○検査項目の省略や追加は、性・年齢別などによる頻度や項目を考えるべき
○経年変化を見て総合的な判断ができるとよい
などの意見が出ていました。

最後に事務局から「論点案について」(資料4)から、下記の今後の論点案とが挙げられ、健診項目を検討する際の要件、着眼点について説明がありました。

資料4
資料4

次回からは、こうした点から、具体的な健診項目、そして追加の有無の議論となりそうです。


健康づくり・予防としての高確法による「特定健康診査」としての「健診」と、安衛法の「一般健康診断」「定期健康診断」という「健診」の違いについて、資料4の「第1回 、第2回検討会の主なご意見」の内容から「一般健康診断」だからこその意見を知ることができ、参考になります。


いいなと思ったら応援しよう!